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27歳で最初に世に出した作品集につけたタイトルが「晩年」。
『晩年』 新潮文庫 太宰 治 (1909‐1948/享年38)
1936(昭和11)年刊行の太宰治(1909‐1948)の最初の創作集で、15編の中・短篇から成るものですが、27歳で世に出した作品集に「晩年」などというタイトルをつけたのは、遺稿集のつもりで書いたからとのこと(実際、その後服毒自殺を図っている)。
『晩年』 (1936/06 砂子屋書房)
所収の作品の中で中篇に近いものが「思い出」「道化の華」「彼は昔の彼ならず」で、自らの心中事件に材を得、自分だけ助かって入院した江ノ島の療養所を舞台に描いた「道化の華」は、作者が途中何度も小説の進行に口出しや弁解を挟むという前衛的なもので(芥川賞の候補作になっている)、悲痛な絶望感や罪悪感が反映されているにもかかわらず滑稽なムードも漂い、すでに太宰文学ここにあり、という感じ。
賃料を払わない下宿人に悩まされ翻弄される大家を描いた「彼は昔の彼ならず」は、後の「親友交歓」にも通じる面白さがあり、語り口のうまさがその最後の自虐的フレーズと併せて強く印象に残る作品。
「思い出」は自分の幼年期から少年期を振り返った自伝的小説で、家族との確執や優等生としての厭らしい自意識、子ども特有の狡さのようなものが吐露的に書かれている一方で、津軽の田舎での伸びやかな生活ぶりや未熟な恋が叙情性をもって描かれていて、郷愁が浸透してくるような読後感は悪くなく、この作品集の中で個人的には最も好きな作品です。
断想集のような「葉」や第1回芥川賞候補作「逆行」なども評価が高いようですが、個人的には「魚服記」「猿ヶ島」「ロマネスク」などの民話や寓話に近い話がたいへん興味深く読めました。
山間に父と住む少女が滝壺に飛び込んで小鮒になる「魚服記」って、近親相姦がモチーフなのだろうか。
「猿ヶ島」「ロマネスク」には作家としての自己が投影されているのが窺え、芥川の年少文学などとはまた違った趣を感じます。
同じ太宰ファンでも、この作品集1冊の中での好きな作品の順番が違ってくるのだろうなあ。
【1947年文庫化・1985年改版[新潮文庫]/1988年再文庫化[ちくま文庫(『太宰治全集〈1〉』)]/1994年再文庫化[角川文庫]】
《読書MEMO》
●「想い出」「魚服記」...1933(昭和8)年発表
●「葉」「彼は昔の彼ならず」「ロマネスク」...1934(昭和9)年発表
●「猿ヶ島」「道化の華」「逆行」...1935(昭和10)年発表