「●む 村上 龍」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●も ギ・ド・モーパッサン」 【1517】 ギ・ド・モーパッサン 『脂肪の塊』
いろなものを詰め込みすぎて、ワイドショー的な皮相のレベルに止まる。
『希望の国のエクソダス』 (2000/07 講談社) 文春文庫 〔'02年〕
2002年、失業率は7%を超え、円が150円まで下落した日本経済を背景に、パキスタンで地雷処理に従事する16歳の少年「ナマムギ」の存在を引き金にして、日本の中学生80万人がいっせいに不登校を始める―。
'98年から'00年にかけて「文藝春秋」に連載されたもので、「近未来小説」ということになるのでしょうが、中学生たちのネットワークのリーダーが国会に参考人として招致され大人たちと渡り合ったり、ネットビジネスで巨万の富を得たり、自分たちの独立国に近いコミュニティを築き上げたりするところは、「近未来ファンタジー」といった感じではないでしょうか。
自らのサイトで「今すぐに数十万を越える集団不登校が起これば、教育改革は実現する」と述べていた著者が、その考えを小説化したものともとれ、確かに導入部はかなり引き込まれ、単行本刊行時の評価も高かったように思います。
しかし、フリージャーナリストの「おれ」を通して描かれる中学生たちは何か異星人のようで、各地で起こる騒動もニュース報道として描かれており、彼らがどうやって組織化されたのかもよくわからない。
「おれ」が自分の彼女と懐石料理を食べる場面で、「おれ」に料理の蘊蓄を語らせ、彼女の口を借りて新聞記事から引き写してきたような経済解説をさせている場面には、少しシラけてしまいました(以下、様々な登場人物が、新聞やインターネットの様々な記事を模写的に語っているという感じの描写が多い)。
作者は本当に教育の現状を憂えてはいるのでしょうけれど、金融・経済、IT、メディアといろいろなものを詰め込みすぎて、何れもワイドショー的な皮相のレベルに留まり(小説の中で語られる経済予測は、その後外れているものの方が多い)、小説としても、この国にとって「希望」とは何かを描いたものだとすれば、消化不良のまま終わっているような気がしました。
【2002年文庫化[文春文庫]】