【629】 ○ 向田 邦子 『あ・うん (1981/05 文藝春秋) ★★★★

「●む 向田 邦子」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●む 武者小路 実篤」 【2948】 武者小路 実篤 『友情
「●日本のTVドラマ (~80年代)」の インデックッスへ(「あ・うん」)

「文字がそんなに詰まっているわけではないのに、味わえる密度は高い」という感じ。

あ・うん obi.jpgあ・うん 向田邦子 装丁・中川一政.jpg あ・うん2.jpg  ドラマ人間模様「あ・うん」('80.3.9~3.30).jpg
あ・うん (1981年)』(装丁・中川一政)『あ・うん (文春文庫)』〔83年〕 
ドラマ人間模様「あ・うん」(NHK/'80.3.9〜3.30、全4回)

 中小企業の社長で男気があり遊びも派手な門倉と、社命で転勤を繰り返す普通のぱっとしないサラリーマン水田という2人の男の友情に、水田の妻たみに対する門倉のプラトニックな想いが絡む、奇妙な三角関係の話です。

映画「あ・うん」('89年/東宝)
あ・うん 映画.jpg 映画化され、何度かTVドラマ化もされもされているので、この状況設定はよく知られているのではないでしょうか。降旗康男監督による映画化作品「あ・うん」('89年/東宝)では、高倉健・坂東英二が主演を務め、'00年にはTBSの新春ドラマで久世光彦演出のもと田中裕子、小林薫主演で放映されましたが、個人的には、作者自身が脚本も手掛けた'80年のフランキー堺・杉浦直樹主演のNHKの全4話のものの方がいいと思いました(2013年にDVD化された)

 以前に読んで、会話主体のムダの無い文章で人物像や状況を浮き彫りにしていくうまさに感心させられましたが、小説よりドラマの方が先だったことを思うと、なるほどという感じもしました。と言うことは、優れた「脚本」であるということになるのでしょうか? しかし、読み返してみて、やはり「小説として」良くできていると思いました。著者は小説に関しては「遅筆」だったそうですが、単純稚拙な言い方をすれば、「文字がそんなに詰まっているわけではないのに、味わえる密度は高い」小説です。

 かなりドロドロしたものを孕んだ作品のように思え、門倉や水田という人物に対しても無条件で好きになれるわけではないのですが、ほんわかしたユーモアが随所に効いているせいか、読み進むうちにだんだん登場人物に愛着が出てくるから不思議です。たみに叱られているときが門倉にとっての至福のときである、などというのはユーモアの中にも作者の鋭い人間観察眼が窺えます。

 水田・門倉の男2人の「こまいぬ」のような関係が印象に残りますが、水田の娘さと子の初恋や父初太郎の山師ぶりなどを通して、戦局に向かう時代背景や戦前の三世代同居の家族像というものも描いているかと思います。

 さと子の成長物語でもあり、最後の方で水田も強くなる。しかし、強がるばかりに2人の男の友情は...、とちゃんとクライマックスのあるエンタテイメントに仕上げていて、この先2人の男がどうなるかも暗示されている話だったのだなあ。

あ・うん フランキー 杉浦.jpgあ・うん NHK.jpg「あ・うん」t.jpg「あ・うん」●演出:深町幸男/渡辺丈太●制作:土居原作郎●脚本:向田邦子●音楽(効果):大八木健治/岩田紀良●出演:フランキー堺/杉浦直樹/吉村実子/岸田今日子/岸本加世子/池波志乃/志村喬/ 伊佐山ひろ子/殿山泰司●放映:1980/03(全4回)●放送局:NHK

 【1983年文庫化・2003年改訂[文春文庫]/1991年再文庫化(シナリオ版)[新潮文庫]/2009年再文庫化(シナリオ版)[岩波現代文庫]】

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2007年5月 5日 21:30.

【628】 ◎ 向田 邦子 『思い出トランプ』 (1980/01 新潮社) ★★★★☆ (○ 向田 邦子 『男どき女どき』 (1982/08 新潮社) ★★★★) was the previous entry in this blog.

【630】 ○ 山田 詠美 『ベッドタイムアイズ』 (1985/11 河出書房新社) ★★★☆ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1