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「●「直木賞」受賞作」の インデックッスへ
カタルシスはあるがご都合主義的な部分も。「豆腐」対決が面白く、丹念な取材の跡が。
『あかね空 (文春文庫)』〔'04年〕 映画「あかね空」(2007年/角川映画)監督:浜本正機/出演:内野聖陽・中谷美紀・中村梅雀
2001(平成13)年下半期・第126回「直木賞」受賞作。
前半は、上方から深川蛤町の裏長屋へ単身やって来た豆腐職人・永吉が、最初自らの作る京風の豆腐が売れずに苦労するものの、その彼を親身になって支える桶屋の娘・おふみとやがて所帯を持つようになり商売を軌道に乗せていく話で、後半は、夫婦の間にできた3人の子どもたちが成長し、ただし両親がそれぞれに子どもを贔屓したために家族の関係がギクシャクしていく江戸時代版ホームドラマのような展開に―。
前半は、枠組みとしては割合パターン化した人情噺という感じですが、「豆腐」対決みたいな面白さが1つ軸となっているために引き込まれました。
後半は、「誰々のために誰々が死んだ」とかいう思い込みから抜けられない主人公たちに少しうんざりさせられましたが、最後にきっちりクライマックスを持ってきて、全体を通して読者のカタルシスをちゃんと計算しているなあと。
主要な登場人物が生まれた年代を特定していて、そのことにより細部において時代考証の誤りを専門家から指摘されたりもしている作品ですが、登場人物たちの数奇な因縁をきっちり繋ぐ役割も果たしていて、何よりも豆腐作りの細部にわたっての描写が、作者の下調べの綿密さを窺わせます。
直木賞選考で一番この作品を推していたのは平岩弓枝氏で、やはりこうした背景描写の苦労を知ってのことではないでしょうか。
ただし、前半部で夫婦は、商売敵だけど本当は"いい人"だった職人さんに助けられ、後半部でもその子どもたちが侠気な親分さんとかに諭されて―。
こうした"いい人"たちが、都合のいい時に登場するような気がして、お話の上のことだとしても、この人たちの助けがなかったら自壊しているんじゃないか、この家族は、と思わざるを得ませんでした。
【2004年文庫化[文春文庫]】