「●数学」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【806】 日沖 桜皮 『数学の出番です。』
「●講談社現代新書」の インデックッスへ
ちょっと気軽に、自分の"数学脳"をリフレッシュさせるにはいい本。
『数学的思考法―説明力を鍛えるヒント 講談社現代新書』 〔'05年〕
桁数の多い掛算を行う「インド式算数」が注目され、インドがソフトウエア開発の大国である理由がその計算力にあるように思われたりしていますが、本書によれば、インドの数学教育はむしろ、証明力、問題解決力を重視しており、たとえ証明問題でなくとも、答えに至る説明が証明問題のようにしっかり書かれていなければ、答えが合っていても大幅に減点されるとのこと。
著者は、計算能力を軽視しているわけではないのですが、「条件反射丸暗記」的な計算訓練だけでは「説明力」はつかないとし、現在の日本の算数・数学教育に見られるプロセス軽視傾向を批判しています。
「説明力」を鍛えるにはどうすればよいかということについて、著者は、証明のための「試行錯誤」の重要性を説いていて、学生などを観察していても、答案を「見直し」によって正しく直せる者は、「条件反射丸暗記」的な問題に弱くても、試行錯誤して考えることは得意な傾向にあるそうです。
こうした試行錯誤を通してきちんとした「説明」に至るために必要な「数学的思考」をするためのヒントや、「論理的な説明」の鍵となるポイントが、本書後半部では書かれています。
著者は、算数・数学教育における数学的思考の重要性を意見し続けている数学者で、近年デリバティブ(金融派生商品)取引で日本の金融機関が大幅な損失を計上したのも、背景には数学力の弱さがあるとのこと。
その他にも数学的思考は、ビジネスや生活の様々な場面で求められ、役に立っていることが、時にパズル形式で、時にエッセイ・社会批評風に述べられています。
内容的には、同著者の『子どもが算数・数学好きになる秘訣』('02年/日本評論社)などとかなりネタがダブっていますが、初めて読む人には1話1話は面白いと思うし、書かれていることも尤もだと頷かされることが多いのでは。
ただ、話が広がりすぎて、全体としてやや散漫になった感じも否めませんでした。