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新書版だが、「恒星宇宙」にテーマを絞っているため、「わかり易くて専門的」といった感じ。
『恒星宇宙99の謎―天文学最前線からのレポート』['77年/サンポウ・ブックス]/『衝突する宇宙』 レッド・ホイル(鈴木敬信訳)['51年]
東日本初のプラネタリウム・有楽町の東日天文館(毎日天文館)で解説する鈴木敬信(33歳)(1938年)(東京日日新聞)
産報ジャーナルというところから刊行されていた「サンポウ・ブックス」は、「歴史と文明シリーズ」と「自然科学シリーズ」がありましたが、とりわけ"古代文明"と"宇宙"が「強かった」のではないでしょうか。
本書は後者の1冊で、当時の天文学の権威で、フレッド・ホイルの日本への紹介やイマヌエル・ヴェリコフスキーの『衝突する宇宙』の翻訳('51年)などでも知られる鈴木敬信(すずき・けいしん、1905-1993/享年87)が、一般読者向けに書き下ろしたものです(上の写真当時は東京科学博物館理学部主任。後に、海軍水路部技師などを経て東京学芸大名誉教授)。多くの入門書を著し、児童向けの科学書などの監修もしている著者ですが、本書に関して言えば、テーマを「恒星宇宙」に絞っているため、入門書でありながらかなり専門的なことも書かれています。
見開き各1問のQ&A形式で、「美しい星座はいつ崩れるか」「太陽にはどんな未来があるか」「光の墓場、ブラックールとは何か」「月より小さな中性子星とは何か」「宇宙の黒幕、暗黒星雲とは何か」「天の窓、散光星雲とは何か」「宇宙はどこへ膨張していくか」といった問いに、読者の興味を引くようにわかり易く、且つ詳しく解説がされています(この頃こうした本は1ページあたりの字数が多いような気がする。最近の新書は字がスカスカのものが目立つ)。
衝突する銀河団 (NASA)
「天文学最前線からのレポート」と副題にありますが、'77年の刊行ですので、本自体は古書の類となるものです(Amazonのマーケット・プレイスでも、『衝突する宇宙』は扱っているが、本書は扱っていないみたい。但し、個人的には思い入れがある本)。
'60年に発見されたクエーサー(表記は"クアサール"になっているが、「"クエーサー"と発音する人もいる」と書いてある)や、'67年に発見されたパルサー(これ、女子学生が発見した)などについても、かなり専門的なことまで書かれていて、超新星爆発の際に残った中性子星がパルサーの正体であることはこの頃にはわかっていたわけですが、X線パルサーが連星系の中で生まれることを図入りで詳説していたりし、わかり易くて専門的といった感じでしょうか。
興味深いのは、「生命を宿す惑星をもつ星はどれだけあるか」という問いを設け、銀河系の星を3千億個、その内、高熱の青白色、白色、淡黄色の星を除いて太陽のような黄色〜赤色の星に限り、かつ重力の安定しない連星を除くと1千億、更に、恒星の温度と惑星の恒星からの距離において、生命許容空間に惑星を有する可能性のある恒星は2百億、更に、哺乳動物のような高等生命を宿す惑星を有する恒星の数を「20億ぐらい」と試算していることで、よく言われる「ドレークの公式」(この式も「全宇宙」ではなく「銀河系」を対象としている)と途中までの考え方は大体同じだけれど、生物進化や文明盛衰の所要時間の概念が入っていないせいか、"哺乳動物のような高等生命"との限定付きで考えた場合には、ちょっとこの数字は多過ぎるような気もしました。