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写真やイラストを交え詳細に描かれる1880年代のニューヨークの街の様子が魅力。
『ふりだしに戻る〈上〉・(下)』 〔'91年/角川文庫〕Jack Finney, "Time and Again" [Audiobook]
『ふりだしに戻る (1973年)』
Jack Finney Time and Again (1970)
1970年原著刊行の米国人作家ジャック・フィニイ(Jack Finney、1911-1995/享年84)のタイムトラベル・ミステリで(原題は"Time and Again")、'91年初版の角川文庫の口上に「20年の歳月を越えて、ふたたび蘇る」とあるように、福島正実(1929-1976/享年47)による初訳は、同じく角川から1973年7月に刊行されています。
広告会社でイラストレーターをしていたサイモン・モーリーは、恋人ケイトの養父の自殺現場に残されていた90年前に投函された手紙が気にかかっていたが、ある日男に声をかけられて、現代人を過去に送り込むタイプスリップの実験プロジェクトに参加することになり、自らの希望でその手紙の謎を追って1882年のニューヨークにやってくる―。
「これは政府の極秘プロジェクトなのだが...」と謎の男が現れて言い、「君は才能を見込まれてその候補に選ばれた」なんていうのがちょっと臭いけれども、映画「メン・イン・ブラック」('97年)とかで最近でも使われているパターンだし、その「才」のある人間ならば「過去のある場所にいると強く思い込む」だけで過去に行くことが出来る―というのがSFのレベルとしてどうかというのもあるけれど、TVシリーズ「HEROES/ヒーローズ」('06年)で今まさに超能力者たちがやっているのもこのパターンであり、あまりケチをつけるべきでもないものかもしれません。
ただ、ミステリに恋愛を絡めたことでミステリ部分は弱まってしまった面もあるし(もともと、この話のトリック自体が古典的)、過去の世界に生きる異性に恋をするというのもタイム・ファンタジーの常道と言えば常道で、どうしてこの作品がタイムトラベルものの名作とされるかというと、やはり、マニアックなまでに詳細に描かれる1880年代のニューヨークの街の様子や人々の暮らしぶりのためでしょう。
当時の建造物から交通機関、ファッションまでの写真やイラストを交えての描写は、1880年代の「ニューヨーク紀行」であり、「ニューヨーク旅ガイド」になっているようにも思え(作者自身もこれを最も描きたかったのでは?)、実際、自分がそこに行ったような気になるとともに、この小説によって、ニューヨークの街にも歴史があるのだという意識を改めて抱いたといってもいいかも知れません(ブロードウェイを馬車が走っている様なんて、それまであまり想像したことがなかった)。
国家予算を投入した極秘の時間航行プロジェクトで、但し、タイムトラベラーは歴史を変えてはいけない、という"お約束ごと"は、60年代のTVシリーズ「タイムトンネル」と同じ。但し、沈没直前のタイタニック号や陥落直前のアラモ砦にたまたま"流れ着く"といった「タイムトンネル」流のご都合主義がないだけ、まだこっちの方がリアリティがある?
"The Time Tunnel"
【1991年文庫化[角川文庫]】