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SFと言うよりヤングアダルト小説としての色合いが強いかも。
Daniel Keyes
『アルジャーノンに花束を (海外SFノヴェルズ)』(1978/07 早川書房)『アルジャーノンに花束を』 (1989/04 新装改訂版) "Flowers for Algernon"
大人になっても幼児ほどの知能しか持たない主人公のパン屋の店員チャーリーに、科学者から知能指数を向上させる手術話がもたらされ、彼は喜んで脳手術を受け、やがて「天才」へと変貌していく。一方、同じ手術を受けた白ネズミのアルジャーノンは既に天才ネズミと化していたが、ある時期からその知能は急速に後退していく―。
1966年に米国の作家ダニエル・キイス(Daniel Keyes,1927-2014)が発表した(元となった中編は1959年に書かれた)あまりにも有名なSF小説であり(原題:Flowers for Algernon)、「超知能を手に入れた青年の愛と憎しみ、喜びと孤独を通して人間の心の真実に迫った」もので、個人的に読んだのは随分以前ですが、それでもブームの後で30代の時だったと思います。もし、もっと若い頃、自分とは何かとかいったことを真面目に考えているような時期にこの本を読んだら、もっと衝撃を受けていたかも知れませんが、それでも今もって傑作であることには違いないと思います。
あのアイザック・アシモフが「どうしてこんな傑作が書けたのか」と訊ね、それに作者が「もし、あなたに、どうして私があの作品を書けたのかわかったら教えてくれませんか」と答えたという話はよく知られていますが、いつ頃のことだろう。
スタインベックの『二十日鼠と人間』からも想を得ているということを最近知りましたが、チャーリーとアルジャーノンの相似形、大男レニーと二十日鼠の相似形という両者の構成上の類似はなるほどと思わせるものの、やはりこの作品のプロットは稀有のオリジナリティを有しており、むしろプロット的な部分よりもモチーフや詩的な感性の部分で『二十日鼠と人間』に通じるかも。
結局、作者はこの衝撃的なデビュー作以降、この作品に匹敵するフィクションはものにすることなく、『24人のビリー・ミリガン』といったノンフィクションに軸足を移すのですが(90年代に入ってまた小説を書き始めたが)、個人的には、ノンフィクションであるところの『24人のビリー・ミリガン』の中にはまだ作者のオーサーシップ(作家性)が滲み出ていて、ノンフィクションとしてどうなのか?という疑念すら覚えるくらいです(この小説の作者であるだけに)。
チャーリーは「天才」になったとされていますが、宮城音弥(『天才』(岩波新書))流に言えば、「能才」ということであり、「能才」になったからといって、歴史に名を残すような偉業を果たせるわけではなく、専門的な研究に勤しみ、高度な科学論文を何本か残すだけです。
チャーリーが超知能を得て成し得たのは、家族や友人など人との絆の再構築であり、その最大のイベントが、異性との接合であるというのが、SFでありながら、その部分において非常にリアリティがあるように思えました。
男性にとって、性的に一人前になって「男性」として異性から認められることは、アイデンティ確立の重要な要素なのだなあと(結果として、作品全体が、SFというよりヤングアダルト小説としての色合いが強いものになったとも言えるのだが)。
SFとしての設定自体は、全くのフィクションとして最初は読みましたが、池谷裕二氏(『進化しすぎた脳』(講談社ブルーバックス))によれば、頭の良くなる薬は既にあるらしく、ただやはり副作用がわからないので実用化されないそうな。
最近は年齢のせいか、むしろボケる方を連想してしまい、アルツハイマーを宣告された時って、似たような状況かも知れないと思ったりして...(綾小路きみまろのネタに、「人間なんてみな同じ。おしめで始まりおしめで終わる。あ〜、おしめいだ〜」というのがあったのを思い出した)。
『アルジャーノンに花束を〔新版〕』ハヤカワ文庫NV
【1999年文庫化[ダニエル・キイス文庫]/2015年再文庫化〔新版〕[(ハヤカワ文庫NV) ]】
《読書MEMO》
●精神障害を扱った小説
ダニエル・キイス (小尾美佐:訳) 『アルジャーノンに花束を』 (1978/07 早川書房)(知的障害のある男性が主人公のSF作品)
マ-ク・ハッドン (小尾芙佐:訳) 『夜中に犬に起こった奇妙な事件』 (2003/06 早川書房) (自閉症の少年が主人公のミステリー作品)
エリザベス・ムーン (小尾美佐:訳) 『くらやみの速さはどれくらい』 (2004/10 早川書房)(高機能自閉症の男性が主人公のSF作品)
ダニエル・キイス(Daniel Keyes) 2014年6月15日、フロリダ州の自宅で死去、86歳。