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人事パーソンへの応援歌であり、人事パーソンのキャリア形成に関する示唆に富む。

日本人事 NIPPON JINJI.jpg 『日本人事 NIPPON JINJI~人事のプロから働く人たちへ。時代を生き抜くメッセージ~』(2011/08 労務行政)

 財団法人労務行政研究所の創立80周年を記念して発行された本とのことで、多彩な業界で活躍している15人の人事パーソンやOB・OGへのインタビュー集という構成をとっています。以前にパイロット版をちらっと読んで、なかなか興味深い企画のように思いましたが、今回通して読んでみて、共感させられる部分が予想以上に多くありました。

 インタビューの内容は、若い頃の苦労話、仕事での壁をいかに乗り越えたか、人事パーソンとしての信条や大切にしているもの、経営者や労働組合との関係構築方法など広範囲に及び、何れも示唆に富むエピソードやコメントを含んだもので、15人の話を一気に読んでしまいました。

 「人事」の仕事に携わる人事パーソンというのは、今まではあくまでも裏方という位置づけであり、個人がその「姿」を見せることは少なかったと思いますが、本書では、それぞれがビジネスパーソンとしてのキャリアをどのように積んできたかが自身の言葉で述べられていて、小説を読むように興味深く読めます。

 何れ錚々たる15人の顔ぶれですが、会社に入った時から人事をやるつもりだった人はおらず、社命等により人事に配属になった人が殆どであり、そうした中、"サラリーマン"という枠組みを超えて、どのように自分のやりたい仕事を発見し、自分を磨き、自己実現を図ってきたかが、体験的に語られています。

 大企業だからといって人事施策や諸制度がオートマチックに企画立案、導入されていくわけではなく、そこには人事パーソン一人ひとりの、社員にやる気を持って仕事をしてもらいたいという思いが込められており、また、経営層・労働組合との信頼関係がその支えになっていることを改めて感じました。

 登場する人事パーソンに共通していると思われた点は、人事部門にいながらも他部門への転出を希望するなど会社組織の現場を知りたいという意識の強い人や、人事のことだけを考えるだけでなく常に会社全体、世の中全体のことを考える志向を持った人が多いことです(人事=スペシャリストといった一般的なイメージとは随分異なる)。
 そう思いながら読んでいたら、堀場製作所の野崎治子氏が、自身へのインタビューの中で、「現場目線に立ち、多方面へアンテナを張ることが大事」としっかり要約していました。

 人事部門は社内でもエリートが集う部署という見られ方をすることが多いわけですが、ここに登場している人事パーソンは、その殆どが、入社以来ずっと順風満帆に陽の当たる道だけを歩んできたわけでなく、個々のキャリアの中では不遇の時代があったことが窺えます。そうした逆境を彼らが乗り越えることができたのは、それぞれが持つ強い意志と実行力の賜物であったと共に、メンターとなる経営者や上司との出会いが、そのキャリアの節目にあったことも見逃せないと思いました。

 「人事」の役割は、個人の能力を最大限に引き出し"人を活かす"ことに外ならないと、あとがきの「発刊によせて」で、齋藤智文氏と共に本書の取材及執筆を務めた溝上憲文氏が書いています。
 同僚をやる気にさせるにはどうすればよいか、部分最適に陥らず経営の方向性を見据えた全体最適を見据え、社員を一つのベクトルに導いていくにはどうすればよいのか、といったことについて、随所に経験に裏打ちされた提言が見られ、一般のビジネスパーソンや会社経営者が読んでも啓発されるものは多分にあるかと思われます(いわんや人事パーソンをや)。

 溝上憲文氏は、「人事部に元気がないと言われて久しい」とも書いていますが、個人的にもそれは感じられ、金融不況による緊縮財政、相次ぐM&Aなどによる先行き不透明な状況下で、非常に優秀なはずの人材が、極々短期的な視点でしか制度の改革にあたっていなかったりするのを見ることもあります。
 その制度改革すら課題山積で、やる気はある(或いは、やる必要は感じている)ものの、どこから手をつけていいのか分からず、途方に暮れているという状況も、少なからずあるかと思われます。

 本書は「人事」への応援メッセージが多分に込められているとともに、本が売れるとすれば、やはり「人事」はやや元気喪失気味なのかとも思ったりします。ただ、そうした中でも、次代のリーダーたらんという人は少なからずいるでしょう。あとがきで齋藤智文氏が書いているように、そうした人にとって「リーダーシップ発揮のためのよりどころ」となる本ではないかと思いました。

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中核は自社メソッドの紹介だが、周辺部分において読みどころがあった。自社メソッドについては隔靴掻痒の感。

「育成型人事制度」のすすめ.jpg 『育成型人事制度のすすめ』(2011/06 東洋経済新報社)

 本書は、全4章から成り、第1章で日本の人事制度の変遷をたどり、第2章で、今後あるべき人事制度の骨格としての「育成型人事制度」について、その必要性と枠組みを解説、さらに、第3章で、「育成型人事制度」の柱となる組織診断ツールとしての「ヒューマン・アセスメント」について、その理論や歴史、方法論を解説、最後の第4章では、人事制度の運用例として2つの事例を紹介しています。

 日本の人事制度の変遷を追った第1章は、その源流から戦前まで、さらに戦後の混乱期、高度成長期を経て70年代の低成長期、80年代のバブル期、バブル崩壊から成果主義の進展、アンチ成果主義の展開に至る流れをたどるとともに、職務等級制度の復活、定期昇給の廃止、目標管理と報酬のリンク、コンピテンシーの導入といったトピックも併せて解説しており、簡潔かつよく整理されていて、人事パーソンの"一般常識"として読めるように思えました。

 そうした日本の人事制度の歴史を通して、第2章では、「成果主義人事制度」が曲がり角に来ている現在、企業がグローバル新時代に対応していくために人事面で目指すべきゴールは「人材の育成」であるとし、その必要性の根拠を、経済合理性、労働人口の減少、モチベーションの向上、日本的徒弟制度という4つの視点から述べるとともに(ここまでは、きっちりした内容)、「育成型人事制度」の枠組みを、組織診断、経験のDB化、個別人事制度の構築、制度の運用、効果の検証という5つのステップで示しています(この辺りからやや"商売"っぽい感じが...)。

 そして第3章で、「育成型人事制度」の柱となる組織診断ツールとしての「ヒューマン・アセスメント(HA)」とはどのようなプログラムなのか、その理論的背景や方法論が解説されていますが、本書で言うところの「ヒューマン・アセスメント(HA)」とは、米国のDDI社が開発し、日本では、著者の所属するMSC社が企業や官公庁にサービス提供を行っているメッソドを指しています(要するにこの部分は"自社メソッド"の紹介であるということか)。

 「ヒューマン・アセスメント(HA)」の実際について、例えば演習課題がどのように行われるかということが解説されており、アセスメント実施中の各人の演習行動を観察・記録し評価するアセッサーは、自社の人材を社内アセッサーとすることも可能であるとしていますが、アセスメントの実際についての解説がそれほど具体的に書かれていないため、本書を読んだだけでいきなりというのはまず無理なように思われ、このメソッドを用いるのであれば、やはり最初は著者のそのMSC社に指導を仰ぐことになるのではないかと思われました。

 むしろ第4章で、育成型人事制度を成果に結びつけるための施策として挙げている2つの事例(「目標管理におけるブレイクダウンミーティング」と「管理職養成を図る多面評価の効果的活用」)の方がより具体的に書かれていて分かり易く、個人的には、「目標管理におけるブレイクダウンミーティング」(上司と部下全員が一堂に会して組織目標達成のための方策をディベート形式で検討し、各人の目標を決めるというスタイル)に関心を持ちました。

 本書の中核部分は「ヒューマン・アセスメント(HA)」(自社メソッド)の紹介なのでしょう。それ以外の周辺部分での分かりやすさ(実際に示唆を得られる部分もあった)とは逆に、その中核部分については"隔靴掻痒"感があり、自社メソッドについて全部を本には書いてしまわないという、こうした類の本のパターンを踏襲しているように思えました。

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"イノベーションの人"であったことを改めて痛感。

スティーブ・ジョブズ全発言.jpg 『スティーブ・ジョブズ全発言 (PHPビジネス新書)』['11年]スティーブ・ジョブズ名語録.jpgスティーブ・ジョブズ名語録 (PHP文庫)』['10年]

 昨年('11年)11月の刊行(奥付では12月)ということで、10月のスティーブ・ジョブズの逝去を受けての執筆・刊行かと思ったら、昨年初から企画をスタートさせて脱稿したところにジョブズの訃報が入ったとのこと、著者には既に『スティーブ・ジョブズ名語録-人生に革命を起こす96の言葉』('10年/PHP文庫)という著作があり、今回はその際に収録できなかったものも網羅したとのことで、その辺りが「全発言」という由縁なのでしょうか。

 彼の言葉を11のテーマ毎に括ってそれぞれ解説していますが、解説がしっかりしているように思え(前から準備していただけのことはある?)、内容も面白くて、一気に読めました(新書で330ページ超だが、見開きの右ページにジョブズの言葉が数行あって、左ページが解説となっているため、実質、半分ぐらいの厚さの新書を読む感じ)。

 必ずしも時系列に沿った記述にはなっておらず、冒頭にジョブズの年譜がありますが、1冊ぐらいジョブズの伝記を読んでおいた方が、そうした発言をした際のシチュエーションが、より把握し易いと思われます。

 11のテーマは、「ヒットの秘密」「自分の信じ方」「イノベーション」「独創の方法」「仕事のスキル」「プレゼンテーション」「リーダーの条件」「希望の保ち方」「世界の変え方」「チームプレー」「生と死」となっていますが、全般的にイノベーションに関することが多く(特に前半部分は全て)、ジョブズが"イノベーションの人"であったことを、改めて痛感しました。

 著者の解説と読み合わせて、特に個人的に印象に残った言葉を幾つか―。

「マッキントッシュは僕の内部にある。」
 ジョブズは、設計図の線を一本も引かず、ソフトウェア一行すら書かなかったにも関わらず、マッキントッシュは紛れも無くジョブズの製品だったわけで、マッキントッシュがどういう製品であるべきかという将来像は、彼の内部にしかりあった―何だか、図面を用いないで社寺を建てる宮大工みたい。

「イノベーションの出どころは、夜の10時半に新しいアイデアが浮かんだからと電話をし合ったりする社員たちだ。」
 著者が「多くの企業がイノベーションを夢見ながら一向に果たせずにいるのは、『イノベーション実現の五ヵ条』といったものを策定して壁に貼り出すことで満足するからだ。イノベーションとは、体系ではない。人の動きなのだ」と解説しているのは、確かにそうなのだろうなあと。ジョブズは、「研究開発費の多い少ないなど、イノベーションと関係はない」とも言っています。

「キャリアではない。人生なのだ。」
 '10年の春にジョブズを訪問したジャーナリストの、「キャリアの絶頂を迎え、この恰好の引き際でアップルをあとにされるのですか」との問いに答えて、「自分の人生をキャリアとして考えたことはない。なすべき仕事を手がけてきただけだよ...それはキャリアと呼べるようなものではない。これは私の人生なんだ」と―。今の日本、キャリア、キャリアと言われ過ぎて、"人生"がどっか行ってしまっている人も多いのでは...。

 後には、「第一に考えるのは、世界で一番のパソコンを生み出すことだ。世界で一番大きな会社になることでも、一番の金持ちになることでもない」との言葉もあります。
 これは「お金は問題ではない。私がここにいるのはそんなことのためではない」との言葉とも呼応しますが、ヒューレット・パッカードの掲げた企業目的が「すぐれた」製品を生み出すことだったのに対する、ジョブズの「すぐれた」では不足で、「世界で一番」でなければならないという考えも込められているようです。

 個人的には、自己啓発本はあまり読まない方ですが、読むとしたら、やはりジョブズ関連かなあ。神格化するつもりはありませんが、元気づけられるだけでなく、仕事や人生に対するいろいろな見方を示してくれるように思います。

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コンパクトに纏まっている。アップル社およびジョブズについて知る上で手頃な本。

アップルの法則 青春新書.jpg 『アップルの法則 (青春新書インテリジェンス)』['08年]

 昨年('11年)10月にスティーブ・ジョブズが亡くなってから、ジョブズ関連本の刊行が相次ぎ、また結構売れているようですが、バタバタと急いで書かれた本よりは、ちょっと以前に書かれた本の方が良かったりもし、本書もその一つ。'08年の刊行であり、'07年のiPhone発表までをカバーしています。

 iMac、iPod、iPhoneとヒット製品を出し続けるアップル社がどのような会社で、どのように発想し、どのように製品を作ってきたのかが、アップルの誕生から凋落、そして奇跡の復活を遂げるまでのストーリーと併せてコンパクトに纏められています。

 著者はアップルを長年追いかけてきたITジャーナリストで、新書本は初めてとのことですが、一般向けに分かり易く書かれていて、既にアップルをよく知っている人が読むとあまり目新しい情報は無いかもしれませんが、今までアップル製品にあまり縁が無かったが、iPodやiPhoneを使い始めてから初めてアップル社やその製品に関心を持つようになったといった人には、アップル社を知る上で手頃な本かも。

 同じ年の1月に刊行された同著者の『スティーブ・ジョブズ―偉大なるクリエイティブ・ディレクターの軌跡』('08年/アスキー)が、ジョブズを撮った写真中心だったの対し(殆ど写真集?)、企画としては先行していたというこちらの方は、文章が中心であるため、相補関係にあつとも言えます。
 
 アップル社の歴史を追うということは、とりもなおさずスティーブ・ジョブズの歩んできた道を追うということになるとの思いを改めて抱かされ、ジョブズが亡くなってからジョブズという人物に関心を持ち始めた人にとって、ジョブズ自身の歩んできた道や、その製品戦略を知る上でも手頃な入門書と言えるかと思います(製品解説の部分、とりわけデザインについての部分は、もっと写真があった方が良かった)。

 著者は、アップル流のビジネスのやり方は、「日本の企業で、今すぐにそのまま実践しようとしても、なかなかうまくはいかないことも多いだろう」が、「アップルから今すぐ学んで取り入れることができることもある」と書いていますが、それは日本の企業に限らず言えることでしょう(ジョブズ亡き後、この会社がどうなるのか)。

 最後の方でジョブズが′05年にスタンフォード大学で行った、あの「ハングリーであれ、バカであれ」という言葉で締めくくられた有名なスピーチの内容が紹介されており、スタンフォード大学のWebサイトで「(英語の)文章として読むことができる」と補足されていますが、今はYouTube で日本語字幕付きで見ることができ、ちらっと見るつもりが、結局最後まで見てしまう―そんな味わい深い内容でした。

スティーブ・ジョブス スタンフォード大学卒業式辞

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大判の写真が充実(「写真集」に近い)。上質のクリエイティブ・センスで作られている本。

スティーブジョブズ偉大なるクリエイティブディレクター.jpgスティーブ・ジョブズ 偉大なるクリエイティブ・ディレクターの軌跡』['07年/アスキー]

スティーブ・ジョブズ3.jpg 昨年('11年)10月に56歳で亡くなったスティーブ・ジョブズの軌跡を追った本ですが、彼の人生のターニングポイントとなった幾つものシークエンスにおけるジョブズを撮った、余白スペース無しの大判の写真が充実していて、ジョブズの様々な発言と組み合わせたレイアウトも美しく、ジョブズの言葉の力強さを引きたてています。

 '07年末の刊行であり(奥付では'08年1月)、勿論その時点では大方の人がジョブズの死というものを('05年に一旦ガン克服宣言をしていることもあって)こんなに早く現実になるものとしてイメージしていなかったのではないかと思われ、そんな中、映画スターでもない企業経営者で(しかも存命中に)このような「写真集」のような本が刊行されたというのは、ジョブズの絶大なカリスマ性ならでのことではないでしょうか。

 長年アップル社及びジョブズを追いかけてきたITジャーナリストである著者が、ジョブズの軌跡を分かり易い文章で綴っていて、'07年のiPhone発表までをカバーしており、解説そのものは概ねジョブズやアップル製品のファンには既に知られていることが多いと思われますがが、中にはきらりと光るエピソードもあり、また、強いて言えば、サブタイトルにある「クリエイティブ・ディレクター」としての彼にスポットが当てられたものとなっています。

 写真の方も、冒頭の一枚に、今や多くのジョブズ関連本の表紙にその場面が用いられているiPhone発表の際のプレゼンテーションのものが、「今日、アップルは電話を再発明する」という彼の言葉とともにあり、最後のカラー写真は、そのプレゼンの最中に機材の不具合で中断を余儀なくされた際に、ジョブズが慌てる素振りも見せず、創業期に共同創業者のウォズニーらとやっていた悪戯を壇上にて身振りで紹介し、聴衆の笑いをとっている様を撮ったものであり、う~ん、大人の風格!

 ビル・ゲイツ('07年)との公開インタビューの写真で「昨日のことでクヨクヨするのではなく、一緒に明日をつくっていこう」との言葉があるのは、実際にその場でその通りのことを言ったにしても、やや出来過ぎの感もありますが('05年のスタンフォード大学の卒業式のスピーチでは、「WindowsはMacのコピーに過ぎない」と冗談っぽく言って、学生の笑いをとっていたけれど...)。

スティ―ブ・ジョブズIMG_2707.JPG 若い頃の写真もいい。アップル追放時代の中盤期の写真も少ないながらも何枚かあるようですが、「言葉」に年代が入っているのはいいけれど(「二十億ドルの売上と四三〇〇人の社員を抱える大企業が、 ジーンズを穿いた六人組と張り合えないなんてバカげている」という言葉は、アップル社に対して言っていたのだなあ)、出来れば「言葉」だけでなく「写真」の方にも年代を入れて欲しかったようにも思います。

 それでもグッドなエディトーリアル・デザイン。本書そのものが、上質のクリエイティブ・センスで作られているとの印象を受け、ファンには垂涎の1冊とまではいかなくても(価格的にも内容の割には安いと思う)手元に置いておきたい本ではないでしょうか。

《読書MEMO》
●目次
プロローグ ─iPhone─
「今日、アップルは電話を再発明する」
[第一章] さらばアップル
創業
「実はエジソンのほうが、世の中に貢献しているんじゃないかと思えてきた」
六色のロゴ
「私は、自分の思う方法で好きにやるチャンスを手に入れたんだ」
Apple II
「どうあってもコンピューターをプラスチックのケースに入れたいと思った」
Lisa
「どうしてこれを放っておくんだ? これはすごいことだ。これは革命だ!」
Mac
「海軍に入るくらいなら、海賊になったほうがましだ」
NeXT
「20億ドルの売り上げと4300人の社員を抱える大企業が、ジーンズを穿いた6人組と張り合えないなんてバカげている」
ピクサー
「ディズニーの白雪姫以来、最大の進歩だ」
[コラム] ジョブズとゲイツ

[第二章] アップル復活
Think different.
「私にはアップルを救い出す計画がある」
iMac
「いまの製品はクソだ! セックスアピールがなくなってしまった!」
Mac OS X
「画面上のボタンまで美しく仕上げた。思わずなめたくなるはずだ」
デジタル・ライフスタイル
「これは、われわれがリベラル・アートとテクノロジーの接点に立つ企業であることを示している」
iPod
「われわれはレシピを見つけただけではない。"アップル"というブランドが素晴らしい効果をもたらすと考えたのだ」
iTunes Store
「これは音楽業界のターニングポイントとして歴史に残るだろう。まさに画期的なものなんだ」
[コラム]
人々が語った「スティーブ・ジョブズ」
エピローグ ─ スタンフォードにて ─
「ハングリーであれ、バカであれ」

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分かり易いけれど物足りない?

勝つプレゼン 負けるプレゼン.jpg 『勝つプレゼン 負けるプレゼン (PHPビジネス新書)』['11年]

 「準備6割、本番3割、振り返り1割」―これが、プレゼン成功と上達の秘訣であるという考えの下に、何がプレゼンの良否を分けるのかが分かり易く解説されています。

 プレゼンにおける基本的なことをよく網羅しており、とりわけ「準備」にフォーカスして書かれていますが、「何を感じてほしいか」 をよく考え、「準備で目的を明確にする」ことは確かに重要だなあと。流暢に話すことばかりに気を取られるなという考えには共感しました。

 そうした「準備」の段階でのコンセプチュアル・ワークのポイントについて、「本番」での質疑応答などを想定しながら解説しているのは、一つの解説の「方法論」として分かり良かったように思います。

 ビジネスの場では、日々の業務で他者と関わる行為の全ておいてプレゼン能力が求められるとしながらも、タイトルからも窺えるように、新製品や企画の提案・コンペティション(他社競合)といった"勝負所"を想定して書かれているように思いました。

 その割には、「本番」の解説などは、かなり初歩的なレベルだったかも。管理職昇進試験などで、普段やったことのないプレゼンをやることになった人には応用的に役立つかも知れないけれど、広告代理店などで常日頃から競合プレをやっている人などにとっては、特に目新しい知識や見方は得られないかも知れません(「知っている」というのと「出来ている」というのは違うことであるとは思うが)。

 目新しいことに奔る前に、まず基本を押さえるということは大事なことなのだろけれども、プレゼンの際の服装などの解説は、殆どビジネスマナーの世界のような気もしました。

 基本書としては良書だと思いますが、そうした意味では物足りない感じもあり、著者は「研修女王」と呼ばれているそうですが、どちらかと言うと、著者自身が「コンペティション型」「企画提案型」というより「セミナー講師」型ではないでないかとの印象を受けました。

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トラディショナル・タイプの啓啓蒙書。自分自身は本書のあまり良い読者ではなかったかも。
 
伸びる会社には必ず理想のリーダーがいる.jpg              夢を実現する戦略ノート.jpg 「戦う自分」をつくる13の成功戦略.jpg
伸びる会社には必ず理想のリーダーがいる』(2011/11 辰巳出版)/『夢を実現する戦略ノート』/「戦う自分」をつくる13の成功戦略

 リーダーシップに関する啓蒙書で、著者のジョン・C・マクスウェルは全世界で200万人以上のリーダー育成に携わってきたリーダーシップ論の世界的権威で、世界の指導者・思想家を評価するサイトで「世界最高のリーダーシップ指導者」に選ばれたとのこと(日本では、あんまりこうした格付け評価というのはやらないなあ)。

 日本でも多くの著作が翻訳されており、ここ何年かだけでも『統率者の哲学―リーダーシップ21の法則』('05年/アイシーメディックス)、『夢を実現する戦略ノート』(齋藤孝:訳、'05年/三笠書房)、『あなたがリーダーに生まれ変わるとき―リーダーシップの潜在能力を開発する』('06年/ダイヤモンド社)、『その他大勢を味方につける25の方法―成功を勝ち取る人間関係のつくり方』('06年/祥伝社)、『求心力―人を動かす10の鉄則』(齋藤孝:訳、'07年/三笠書房)、『すごい「考える力」!』(齋藤孝:訳、'08年/三笠書房(知的生き方文庫))、『「戦う自分」をつくる13の成功戦略』(渡邉美樹:訳、'09年/三笠書房)、『「人を動かす人」になるために知っておくべきこと』(渡邉美樹:訳、'10年/三笠書房)、『夢をかなえる10の質問にあなたは「YES」で答えられるか?』('11年/辰巳出版)、『励ましの言葉が人を驚くほど変える』('11年/扶桑社)などと、毎年のように刊行されています。

 これで全部ではないからスゴイね。不況時にはこうした本がウケルのでしょうか?
 齋藤孝氏や渡邉美樹氏が自分で丸々1冊を翻訳しているわけではないでしょうが、著者名より翻訳者名の方が大きな字で書かれているので、この人たちの執筆した本だと思った人もいるのではないかなあ。

 本書は、そうした日本において訳出されたものも含め、著者のこれまでの著作から著者自身がエッセイを130篇抜粋して、26週間の月曜から金曜まで毎週5日、それぞれ1日1頁に収まるような形で割り振ったものです(原題:"Go for Gold: Inspiration to Increase Your Leadership Impact"(2008))。

 こうした構成からも窺えるように、本来ならば、26週間かけてじっくり内省を深めながら読むべきなのだろうけれど、これを一気に読んでしまったので、何だか"お腹一杯"であまり頭に残らなかった感じも。

 そもそも、この人の本は、「有名な○○である○○はこう言っている」的な従来型の啓蒙書スタイルの表現が多く、その「有名な○○」というのが、昔の米国大統領だったりするほかは知らない人ばかりで(昔の大統領だって、どんな人だったかはよく知らないのだが)、全てがそうとは言わないが、ぴんとこないと言うかイメージしにくい面も。

 エピソードが豊富であることは認めるけれども(デール・カーネギーなどの系譜か。トラディショナル・タイプの啓啓蒙書)、人によって「合う、合わない」があるかもしれません(嵌る人は嵌るんだろなあ)。こうした本を無碍に否定するわけではありませんし、部分的には、いいこと言っているなと思わせる箇所もありましたが、如何せん、あまり記憶に残らなかった―ということからして、自分自身は本書の、あまり良い読者ではなかったのかも知れません。

《読書MEMO》
●目次
第1週  リーダーが孤独を感じるなら、何かが上手くいっていないのだ
第2週  もっともやっかいな部下は、自分自身
第3週  「決断」がリーダーシップを決める
第4週  後ろから蹴飛ばされたら、それだけ前に進むことができる
第5週  情熱の火を絶やさない
第6週  よいリーダーは、よい聞き手である
第7週  得意分野を見つけたらそこにとどまれ
第8週  現状を明らかにすることが、リーダーの第一の仕事
第9週  リーダーの仕事ぶりは、部下を見ればわかる
第10週 適材適所はリーダーの務め
第11週 核心に集中せよ
第12週 最大の過ちは、過ちが何であるかを知ろうとしないこと
第13週 管理すべきは、時間ではなく人生
第14週 リーダーであり続けることは、学び続けること
第15週 試練のときにこそ、リーダーの力が明らかになる
第16週 人は会社を見限るのではない、人を見限るのだ
第17週 経験は必ずしも最良の教師ではない
第18週 よい会議の秘訣は、会議の前にある
第19週 人との結びつきを大切に
第20週 あなたの選択が未来のあなたをつくる
第21週 影響力が、誰かから授けられることはない
第22週 何かを得ることは、何かを失うこと
第23週 旅を始めたものと一緒に旅を終えることは少ない
第24週 部下に望まれないリーダーに明日はない
第25週 質問しなければ、答えは得られない
第26週 未来に残すべきもの

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コミュニティの変化と経営環境の変化をパラレルに論じ、『貢献力』による自社の改革事例を社会の変化に敷衍化。

貢献力の経営.jpg 『貢献力の経営(マネジメント)』(2011/05 ダイヤモンド社)

 他者への「貢献」を通して社会の一員として認められたいという欲求は人間本来の欲求であり、集団主義的な思考や行動様式をとる傾向にある日本人の場合、こうした欲求を特性的に備えていると考えられる一方で、その「貢献」の対象が、特定のグループやコミュニティに限定されがちであるというのもまた、日本人の特性なのかも知れません。

 より広い視野に立ち、そうした「貢献」欲求を上手く活かせば、それが社会や企業の活性化に繋がるのではないか―NTTデータ社長である著者は、本書冒頭において、「今、まさに正念場を迎えている日本社会、そして企業経営において、最も必要なものは『貢献力』ではないだろうか」と述べています。

 そう考えるようになった背景として、近年、日本で起きている『2つの大きな変化』を挙げており、その1つは、"個人"間での「既存のコミュニティ(地域や職場など)の衰退」と「新しいコミュニティ(ツイッター、ブログ、SNSなど)の台頭」という『コミュニティにおける変化』であり、もう1つは、企業における、「グローバル化」や「働く意味」の変化といった『経営環境の変化』であるとのことです。

「マズローの欲求5段階説」と「貢献」の欲求.jpg こうした、ますます複雑化・多様化する社会や企業において、多くの人や組織が直面している「孤立」や「セクショナリズム」といった問題に解決するには、「個々の知を結集させ、皆で立ち向かう仕組み」が求められ、個人や個々の組織が独力で乗り越えられない壁に直面した時は、従来の「(チーム内)チームワーク」という概念を超えて、あらゆる知恵を総動員する必要があるのではないか、一人ひとりがコミュニティに貢献し、全員が力を合わせる時代が今ではないか―というのが、著者の主張です。

 著者は、「マズローの5段階欲求モデル」の最上位にある「自己実現の欲求」とは、「役に立っていたい、意義を感じたい」欲求ではないかとし、その下位にある「承認(尊厳)の欲求」の充足が「チームや組織への貢献」で得られるものであるならば、「自己実現の欲求」の充足は各種コミュニティへの貢献により得られるものであり、こうしたチーム外コミュニティへの貢献に達成感を求める人は今後増えるのではないかとしています。

 企業もそうした貢献を支援し、外部との交流を通して得た知見を会社に還元してもらうことで、社員も会社も時代の変化に対応していくべきであるとのことを、著者は、自社における社内SNSが、組織や役割を超えた絆づくりに一役買った成功例などを挙げて解説しています。

 更に、こうした社員によるボトムアップ型の貢献活動の事例と併せて、企業による「社員が『貢献力』を向上させるためのトップダウン型の仕掛け」が紹介されており、 具体例として、自社の人事評価制度を業績重視から行動重視へとシフトし、人事等級のグレード基準においては、「行動ガイドライン」から抽出した「挑戦」「連携・貢献」「構想・実現」の3つの要素に「専門性(プロフェッショナリティ)」を加えた4つの要素で行動の評価を行うようにしたことなどが紹介されています。

 また、ボトムアップ型の貢献活動におけるキーワードとして〈独創〉〈プロフェッショナル〉〈多様性〉の3つを掲げていますが、これをトップダウンによる貢献活動にも当て嵌めて、それぞれ「仕事の見える化で課題を共有し、常に進化する職場に」、「次世代を担う人材育成。イノベーションをカタチに」、「社員も、組織も、会社も相互に貢献、支え合う社会に」という考えのもと、自社内での事例が紹介されています。

 最後に3つの論点として、「社会に果たすべき企業の役割」を再考し、「セクショナリズムの打破」によって競争から協創への転換を促すことを呼びかけるとともに、「『貢献』は人間の自然な欲求」であるとして締め括っています。

 NTTデータという会社の"広報"的要素も含んだ本であるともとれ、中にはこんなに上手くいくのかなとか、巨大IT企業であるから可能なんだよなとか思わされる部分も無きにしもあらずですが、自社の改革事例を社会の変化に敷衍化させ、更に、コミュニティの変化と経営環境の変化をパラレルに論じることで、より広い視野に立った提言内容となっているように思いました。

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マネジャー論(育成本能)、リーダーシップ論(未来志向)としても、啓蒙書としても上質。

最高のリーダー2.jpg 最高のリーダー.jpg     Marcus Buckingham.jpg Marcus Buckingham
最高のリーダー、マネジャーがいつも考えているたったひとつのこと』(2006/01 日本経済新聞社)

 こうした「最高の」とか「たったひとつの」のとかをタイトルに冠した最近の本は、中身を読んでも、その「最高」や「たったひとつの」が当たり前過ぎてしょうも無かったり、或いは沢山のことを取り上げ過ぎていて結局は何が「たったひとつ」なのかよく分からなかったりすることが多いのですが、少し以前('06年)に刊行された本書は、至極まともなマネジャー論、リーダーシップ論であり、啓蒙書です。

Marcus Buckingham2.jpg 原題は"The One Thing You Need To Know...About Great Managing, Great Leading, and Sustained Individual Success"(2005)で、ギャラップの調査員だった著者(Marcus Buckingham(左写真)、現在は作家兼コンサルタントとして執筆・講演活動を行っている)が、多くのマネジャー、リーダー、仕事面での成功者へのインタビューを通して得た知見に基づいて、優れたマネジャー、優れたリーダー、個人として継続して成功を収めている人に共通する特性を、それぞれに端的に絞り込んで示しており、まさにタイトル通りの内容となっています。

 まずマネジャーとリーダーの違いについての考察から入って、ドラッカーら先人達のマネジメント論やリーダーシップ論を引きつつ、すぐれたマネジャーは部下の成功を手助けせずにはいられない「教育本能」を持っていることを示しています。

 ケーススタディとして挙げている、「ウォルグリーン」(Walgreens、米国最大のドラッグストア・チェーン)で、販売員として最高成績を収めている店員の話が大変面白い。この店員はインド人の女性で、昼間コンピュータの専門学校に通いながら、夜間零時過ぎから朝まで働いていて、要するに夜間パートなのですが、その彼女がどうして多くの店員の中でトップの成績を収めることができたのか、そこに、上司である日系人店長の、彼女の能力を最大限に引き出し、それを業績に結び付ける創意と工夫があることが分かり、優れたマネジャーは「部下一人ひとりの個性」に注目し、その個性が活かせるように、彼らの役割や責任の方を作り変えるとしています(これを「チェスをする」という表現をしている)。

 一方、優れたリーダーは、今どこに向かっているのかを明確にすることで、皆が抱く未来への不安を取り除くとしていて、ここでは、炭鉱事故で鉱員達の生きる望みを繋いだ男性のケーススタディが出てきますが('10年のチリの鉱山で落盤事故で33人が奇跡の生還を遂げた出来事を彷彿させる)、これも凄く説得力があります。

 そのケーススタディを通して言えることは、優れたリーダーとは、「部下達に共通する不安を取り除いて」今とれる行動は何かを明らかにすることで「未来を描く」ことができる人であるということです。不安は将来が不明確であることから生じるものであり、そのために、人々が一番明確さを求めているのはどこかを探ることが、リーダーの最初の役割ということになります。

 優れたマネジャーが「部下一人ひとりの個性」に注目するのに対し、優れたリーダーは「部下達に共通する不安」に注目する、優れたマネジャーは、個人の特色を発見し活用するのに対し、優れたリーダーは、将来の不安を取り除いてより良い未来に向けて皆を一致団結させる、優れたマネジャーは会社の指示や業績よりも「人間」そのものに関心があり、一方、優れたリーダーは「未来」志向であり、現実を冷静に見極めながらも、その未来に対しては楽観的な姿勢を失わない―こうした対比が(図表など一枚も用いていないが)スンナリ飲み込める内容となっています。

 著者自身は、リーダー「素質」論者のようですが、一方で、生まれつきのリーダーはいないという考えで(本書では遺伝学や脳科学的な考察もあって、これもトンデモ本にあるようないい加減なものではなく、知的関心をそそられるもの)、より良きリーダーとなるには、情熱的でも魅力的でなくてもいい、弁舌に長けてなくてもいい、ではより良きリーダーとなるにはどのようなことに関心を払い努力すればよいのかということについても書かれています。

 マネジャー論、リーダーシップ論として纏まっており、啓蒙書としても上質、且つ面白く読める本だと思います。

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考え方はマットウ。「勝間」本などの啓発本批判は明快。どう若い世代に理解させるかが課題。

社畜のススメ.jpg  藤本 篤志 『社畜のススメ (新潮新書)断る力.jpg 勝間 和代『断る力 (文春新書)

 目立つなあ、このタイトルは―。著者は、USENの取締役などを経て独立して起業した人ですが、IT企業出身の人というと、華々しく転職を繰り返しているイメージがあるけれど、著者に関して言えば、一応USENだけで18年間勤めていて、スタート時はそれこそ、カラオケバーやスナックを廻る「有線」のルートセールスマンだったようです。

 本書では冒頭で、「個性を大切にしろ」「自分らしく生きろ」「自分で考えろ」「会社の歯車になるな」という、いわゆる"自己啓発本"などが若いサラリーマン(ビジネスパーソン)に対し、しばしば"檄"の如く発している4つの言葉を、サラリーマンの「四大タブー」としています。

 こうした自己啓発本が奨める「自分らしさ」を必要以上に求め、自己啓発本に書かれていることを鵜呑みにすることから生まれるのは、ずっと半人前のままでいるという悲劇であり、そこから抜け出す最適の手段は、敢えて意識的に組織の歯車になることであるとしています。したがって、これから社会に出る若者たちや、サラリーマンになったものの、どうもうまく立ち回れないという人に最初に何かを教えるとすれば、まずは「会社の歯車になれ」と、著者は言うとのことです。

守破離.jpg さらに、世阿弥の「守破離」の教えを引いて、サラリーマンの成長ステップを、最初は師に決められた通りのことを忠実に守る「守」のステージ、次に師の教えに自分なりの応用を加える「破」のステージ、そしてオリジナルなものを創造する「離」のステージに分け、この「守」→「破」→「離」の順番を守らない人は成長できないとしています(「守」が若手時代、「破」が中間管理職、「離」が経営側もしくは独立、というイメージのようです)。

 「守」なくして「破」や「離」がありえないと言うのは、ビジネスの世界で一定の経験年数を経た人にはスンナリ受け容れられる考えではないでしょうか。先に挙げたような"檄"を飛ばしている"自己啓発本"を書いている人たち自身が、若い頃に「守」の時期(組織の歯車であった時期)を経験していることを指摘している箇所は、なかなか小気味よいです。

 
 その冒頭に挙っているのが、勝間和代氏の『断る力』('09年/文春新書)で、これを機に勝間氏の本を初めて読みましたが(実はこのヒト、以前、自分と同じマンションの住人だった)、確かに書いてあるある、「断ること」をしないことが、私達の生産性向上を阻害してストレスをためるのだと書いてある。「断る」、すなわち、自分の考え方の軸で評価し選択することを恐れ、周りに同調している間は、「コモディティ(汎用品)を抜け出せないと。

 これからの時代は「コモディティ」ではなく「スペシャリティ」を目指さなければならず、それには「断る力」が必要だ、との勝間氏の主張に対し、著者は、こうした主張は「個性」を求めるサラリーマンの耳には心地よく響くだろうが、それは、本書で言う「四大タブー」路線に近いものであり、勝間氏のような人は「天才」型であって、それを「凡人」が鵜呑みにするのは危険だとしています。

 勝間氏は、自分が「断る力」が無かった時代、例えばマッキンゼーに在職していた頃、「究極の優等生」と揶揄されていたそうですが、「断る」ことをしないことと引き換えに得られたのは、同期よりも早い出世や大型クライアントの仕事だったとのこと、その仕事を守るために、何年間も自分のワークライフバランスや健康を犠牲にしたために、32歳の時にこんなことではいけないと方針転換して「コモディティ」の状態を脱したそうですが、藤本氏が言うように、「コモディティ」状態があったからこそ、今の仕事をバリバリこなす彼女があるわけであって、20代の早い内から「断る」ことばかりしていたら、今の彼女の姿はあり得ない(いい意味でも、悪い意味でも?)というのは、想像に難くないように思えます(そうした意味では自家撞着がある本。元外務省主任分析官の佐藤優氏が「私のイチオシ」新書に挙げていたが(『新書大賞2010』('10年/中央公論社))、この人も何考えているのかよく分からない...)。

 但し、『社畜のススメ』の方にも若干"難クセ"をつけるとすれば、日本のサラリーマンの場合、藤本氏の言う「歯車」の時代というのは、単に機械的に動き回る労働力としての歯車ではなく、個々人が自分で周囲の流れを読みながら、その都度その場に相応しい判断や対応を求められるのが通常であるため、「歯車」という表現がそぐわないのではないかとの見方もあるように思います(同趣のことを、労働経済学者の濱口桂一郎氏が自身のブログに書いていた)。そのあたりは、本書では、「守」の時代に漫然と経験年数だけを重ねるのではなく、知識検索力を向上させ、応用力へと繋げていくことを説いています(そうなると「社畜」というイメージからはちょっと離れるような気がする)。

 むしろ気になったのは、本書が中堅以上のサラリーマンに、やはり自分の考えは間違っていなかったと安心感を与える一方で、まだビジネ経験の浅い若い人に対しては、実感を伴って受けとめられにくいのではないかと思われる点であり、そうなると、本書は、キャリアの入り口にある人へのメッセージというより、単なる中高年層向けの癒しの書になってしまう恐れもあるかなと。

 前向きに捉えれば、中高年は、自分のやってきたことにもっと自信を持っていいし、それを若い人にどんどん言っていいということなのかもしれないけれど。例えば、「ハードワーカー」たれと(これ、バブルの時に流行った言葉か?)。


 第5章には、サラリーマンをダメにする「ウソ」というのが挙げられていて、その中に「公平な人事評価」のウソ、「成果主義」のウソ、「学歴神話崩壊」のウソ、「終身雇用崩壊」のウソといった人事に絡むテーマが幾つか取り上げられており、その表向きと実態の乖離に触れています。

 著者は、世間で言われていることと実態の違い、企業内の暗黙の了解などを理解したうえで行動せよという、言わば"処世術"というものを説いているわけですが、これなんかも人事部側から見ると、図らずも現状を容認されたような錯覚に陥る可能性が無きにしも非ずで、やや危ない面も感じられなくもありません。

 色々難点を挙げましたが、基本的にはマットウな本ですし、「自己啓発本」批判をはじめ、個人的には共感する部分も多かったです。でも、自分だけ納得していてもダメなんだろうなあ。
 
 「マズローの欲求五段階説」が分かり易く解説されていて、「社会的欲求」の段階を軽んじてしまい、いきなり「尊厳の欲求」と「自己実現の欲求」を満たそうとするサラリーマンが多くなっていることを著者は危惧しているとのことですが、それは同感。そうした若い人の心性とそれを苦々しく思っている中高年の心性のギャップをどう埋めるかということが、実際の課題のように思いました。

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