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中核は自社メソッドの紹介だが、周辺部分において読みどころがあった。自社メソッドについては隔靴掻痒の感。

「育成型人事制度」のすすめ.jpg 『育成型人事制度のすすめ』(2011/06 東洋経済新報社)

 本書は、全4章から成り、第1章で日本の人事制度の変遷をたどり、第2章で、今後あるべき人事制度の骨格としての「育成型人事制度」について、その必要性と枠組みを解説、さらに、第3章で、「育成型人事制度」の柱となる組織診断ツールとしての「ヒューマン・アセスメント」について、その理論や歴史、方法論を解説、最後の第4章では、人事制度の運用例として2つの事例を紹介しています。

 日本の人事制度の変遷を追った第1章は、その源流から戦前まで、さらに戦後の混乱期、高度成長期を経て70年代の低成長期、80年代のバブル期、バブル崩壊から成果主義の進展、アンチ成果主義の展開に至る流れをたどるとともに、職務等級制度の復活、定期昇給の廃止、目標管理と報酬のリンク、コンピテンシーの導入といったトピックも併せて解説しており、簡潔かつよく整理されていて、人事パーソンの"一般常識"として読めるように思えました。

 そうした日本の人事制度の歴史を通して、第2章では、「成果主義人事制度」が曲がり角に来ている現在、企業がグローバル新時代に対応していくために人事面で目指すべきゴールは「人材の育成」であるとし、その必要性の根拠を、経済合理性、労働人口の減少、モチベーションの向上、日本的徒弟制度という4つの視点から述べるとともに(ここまでは、きっちりした内容)、「育成型人事制度」の枠組みを、組織診断、経験のDB化、個別人事制度の構築、制度の運用、効果の検証という5つのステップで示しています(この辺りからやや"商売"っぽい感じが...)。

 そして第3章で、「育成型人事制度」の柱となる組織診断ツールとしての「ヒューマン・アセスメント(HA)」とはどのようなプログラムなのか、その理論的背景や方法論が解説されていますが、本書で言うところの「ヒューマン・アセスメント(HA)」とは、米国のDDI社が開発し、日本では、著者の所属するMSC社が企業や官公庁にサービス提供を行っているメッソドを指しています(要するにこの部分は"自社メソッド"の紹介であるということか)。

 「ヒューマン・アセスメント(HA)」の実際について、例えば演習課題がどのように行われるかということが解説されており、アセスメント実施中の各人の演習行動を観察・記録し評価するアセッサーは、自社の人材を社内アセッサーとすることも可能であるとしていますが、アセスメントの実際についての解説がそれほど具体的に書かれていないため、本書を読んだだけでいきなりというのはまず無理なように思われ、このメソッドを用いるのであれば、やはり最初は著者のそのMSC社に指導を仰ぐことになるのではないかと思われました。

 むしろ第4章で、育成型人事制度を成果に結びつけるための施策として挙げている2つの事例(「目標管理におけるブレイクダウンミーティング」と「管理職養成を図る多面評価の効果的活用」)の方がより具体的に書かれていて分かり易く、個人的には、「目標管理におけるブレイクダウンミーティング」(上司と部下全員が一堂に会して組織目標達成のための方策をディベート形式で検討し、各人の目標を決めるというスタイル)に関心を持ちました。

 本書の中核部分は「ヒューマン・アセスメント(HA)」(自社メソッド)の紹介なのでしょう。それ以外の周辺部分での分かりやすさ(実際に示唆を得られる部分もあった)とは逆に、その中核部分については"隔靴掻痒"感があり、自社メソッドについて全部を本には書いてしまわないという、こうした類の本のパターンを踏襲しているように思えました。

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報酬制度改革がまだ不十分というのは現場感覚に近い。人事の課題と今後の取り組みの方向性がよく纏まっている。

2013年、日本型人事は崩壊する.jpg 『2013年、日本型人事は崩壊する! 企業は「年金支給ゼロ」にどう対応すべきか』(2011/03 朝日新聞出版)

 タイトルにある「2013年」問題というのは、「2013年度からは60歳になっても厚生年金が受給できなくなる」ことにより起きると予想される問題を指しています。現在も、60歳から64歳までの間に支給される特別支給の老齢厚生年金は、1階の定額部分相当の支給開始年齢が60歳から65歳へと段階的に引き上げられていますが、2013年度からは、2階の報酬比例部分も60歳から65歳へと引き上げられることになっています。

 但し、こちらも支給開始年齢の引き上げは段階的に行われるため、完全に65歳支給開始となるのは2025年度であり、ちょうどその時に64歳になる人については、その年も含めた前5年間(2021年度~2025年度)は年金が支給されないことになります。2013年度から60歳到達者がすぐに年金をもらうことができなくなるのは確かですが、2013年度に60歳になる人は、2014年度からは報酬比例部分の支給が始まります。60歳到達者を基準に、その人に報酬比例部分が支給されるのはいつかと考えると、それは2013年度から2021年度にかけて段階的に起きる問題であるととれなくもありません。

 しかし、いずれにせよ企業は、被用者の65歳までの雇用を実現し、さらには70歳までの雇用を考えていく必要があり、その1つの節目が2013年であることに異論はありません。こうした時代を迎え、わが国の人事制度や人材戦略は大きく変わらざるを得ないだろうと著者は予測しています。

 著者によれば、成果主義が流行したといえ、真の報酬改革を断行した企業は少なく、リーマンショックの影響で人材育成や人材活用への取り組みも道半ばであり、多くの企業で、嘱託者の処遇是正、実力主義への転換、若年層の効率的育成、高齢者や女性の活用といった課題が残されているとのことです。

 その上で、これからの報酬制度は、能力によって報酬が変わる制度から、同一労働同一給与の原則に基づく職務給制度への転換が求められるとし、給与については、職務評価をシンプルにして要員管理にも応用可能な日本型職務給制度を、賞与については、業績と賞与総原資との相関を強めた業績連動賞与を提唱しています。

 この部分はオーソドックスな提案であるがゆえに、2000年代前半までに何度もなされてきたものと重なる部分は多いのですが、企業の関心事はリーマンショック前にはすでに人材開発の充実やES(従業員満足度)の向上に移行しており、報酬制度改革はそれ以前に完了しているという認識が風潮としてある中、その改革は充分なものではなく、例えば年功的賃金などは実態として今でも残っているという著者の主張は、大方の人事の現場の実感に近いものではないでしょうか。

 報酬制度改革に伴い、人事部の人材採用や人材育成にも変化が現れるであろうとし、後半部では、人材育成やキャリア開発の進め方についても実務的な視点から解説しています。例えば、20歳代後半から選抜型エリート教育を開始し、自主性に任せるのではなく、半強制的に教育をする必要があるとし、内部講師を起用する機会が増えるだろうが、嘱託者に先生になってもらうのも一案であるといった具合に、高齢者の活用なども視野に入れた提言がなされ、さらに、中堅層や高齢層のキャリア開発のポイント、女性の活用支援策も提言されています。

 最後に、「日本企業に必要な価値観/風土」として、①修羅場を体験できるローテーションに手を挙げる、②年長者を敬う、③部下をリスペクトする、④助け合いの精神を共有する、⑤完全リアイアするまで上昇志向と付加価値向上意識をもち続ける、の5つを掲げていますが、日本的風土として"守るべきもの"があり、それを失ってはならないという著者の考えが織り込まれているように思います。

 書名自体は煽り気味ともとれますが、人事の課題と今後の取り組みの方向性がよく纏まっていると思います。企業が国際競争力を身につけるうえで、報酬制度改革は避けて通れない課題であり、2013年問題がそうした改革の契機になればという思いが込められているように思われました。併せて、次なる改革においては、報酬制度だけではなく、人材育成・キャリア開発といった課題にも人事は目を向けなければならないことを示唆した良書だと思います。

 《読書MEMO》
●日本企業が抱える人事・報酬システムの課題(62p)
①"55歳定年"が根底に残っている
② 給与カーブが年功的である
③ 人件費が変動費化されていない
④ マスメディアさえ報酬ポリシーを誤解している
⑤ 嘱託者が活躍していない
⑥ 女性がまだまだ活躍していない
⑦ 大学全入世代の受け入れ体制が整っていない
⑧ ハングリー精神などの面で中国人に完敗している
⑨ 諸施策がモチベーション向上につながっていない
⑩ コア人材の育成が遅れている
●これからの人材育成キーワード(153p)
① 半強制
② 基礎
③ 体験
④ 終身教育
⑤ PDCA
●日本企業に必要な価値観/風土
①修羅場を体験できるローテーションに手を挙げる
②年長者を敬う
③部下をリスペクトする
④助け合いの精神を共有する
⑤完全リアイアするまで上昇志向と付加価値向上意識を持ち続ける

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"自己啓発本"ではなく、人事制度に関する基礎知識を得るためのオーソドックスな入門書。

こうすればあなたの評価は上げられる.jpg 『こうすればあなたの評価は上げられる―人事制度から読み解く』(2009/04 ダイヤモンド社)

 トータルな意味での人事制度の入門書であり、企業理念と人事制度の関係から始まって、経営計画・人件費予算と人事制度、職種と人事制度、社員モチベーションと人事制度、人材構成と人事制度の各関係を、章ごとにそれぞれ事例などを織り込みながら、分かり易くコンパクトに解説しています。

 テーマ(章)ごとに、「人事制度を読み解く考え方」「自社の人事制度を理解し行動するためのポイント」という節があり、一般社員の側から見た解説がされていますが、これも、社員側・会社側どちらからの視点でも読めるものであり、実質的には、何か突飛な秘策のようなものが明かされているというよりは、それまでに述べたことを踏まえ、より掘り下げた解説がされている箇所とみていいでしょう。

 会社で働く人間が自社の人事制度のことをよく理解しておくことは大事ですが、自己啓発本のようなタイトルとは異なり、その内容はかっちりしたもので、いかにも「三菱UFJリサーチ&コンサルティング」という感じであり、むしろ人事部初任者の入門書といった感じでしょうか(このシリーズはどれも、オーソドックスな入門書みたいな感じのようだが)。

 巻末には、資格等級制度、人事考課制度、報酬制度、人事異動・配置に関する仕組み、人材育成制度、就業体系、福利厚生制度、退職金制度など、具体的な制度の中身人事の解説があり、その中で更に、複線型人事制度とか社内公募・社内FA制度、カフェテリアプランなどが解説されていて、人事制度の入門書としては実にまっとう。

 「評価が上げられる」かどうかはともかく、人事制度についての一般的な基礎知識が偏りなく得られる本です。
 そうした意味では、人事の仕事をしたいと考えている人向きか。それでは読者ターゲットが限定されると考え、版元がこうした"自己啓発本"っぽいタイトルを付けたんだろなあ(評価は、タイトルずれで星半個マイナス)。

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人事の基本に原点回帰し、今日的かつ納得性の高い人事制度の再構築を探究した良書。

雇用ボーダーレス時代の最適人事管理マニュアル.jpg 『雇用ボーダーレス時代の最適人事管理マニュアル』(2010/07 中央経済社)

 脱年功序列型賃金から成果主義への懐疑を経て、近年のダイバーシティ、ワーク・ライフ・バランス、ES(従業員満足)など、人事のとらえ方もいっそう多様化、複雑化していますが、ベテランの人事コンサルタントによる本書は、今求められているのは「強い会社」にするための「柔軟な」人事制度であるとし、トータルかつ実務的な観点からそれらを提案しています。

 第1編の「人事の新しい動きを解析する」においては、ダイバーシティ・マネジメント、エンプロイアビリティ、ジェンダーフリー、ワーク・ライフ・バランスなど、人事の最近のトレンドを表す概念をとりあげ、実態に沿ってその裏側を読み解き、「全体」か「個」か、「仕事」か「プライベート」かといった二者択一、オールオアナシング的な発想には限界があること指摘しています。

 それらの概念に限らず、管理職と一般社員、正規と非正規、日本人と外国人など、人事の世界に従来あった多くの価値基準のボーダー(境目)が今揺らいでいるとし、こうした"ボーダーレス"な時代において、人事担当者には、多元的な見方を養い、TPOを踏まえたバランス感覚が求められるとしています。

 第2編の「人事システム再構築の実践」においては、マネジメントシステムと連動する人事のフレームワーク(等級制度)、賃金システム、評価システム、能力開発とコミュニケーション・システム、パート社員の人事システムなどについて、制度構築のあり方を具体的に提案しています。

 例えば人事のフレームワークについては、縦に等級等の階層、横に職種を大ぐくりにした職掌を設定した骨格図をもとに、「能力」をベースに「役割」という概念を組み合わせた等級制度を提唱しており、ここにも「属人」か「仕事」かという従来の二者択一的な発想を超えた柔軟性が見てとれます。

 これに呼応するかたちで、賃金システムにおいては、例えば月例賃金制度の場合、能力給・役割給・業績給の3つの要素を階層別・職掌別にウェイトを考慮し構成する「複合型賃金体系」を、いくつかのバリエーションのもと提唱しています。

 賞与制度、退職金制度についても独自の提案がされており、評価システムについても60ページを割いて詳説、そのうえで、能力開発や非正規雇用の活用についても言及するなど、カバーしている範囲は広いですが、1つ1つの提案が、多くの図表をまじえ非常に具体的に記されているため、"総花的"な印象はなく、あくまでも、トータル人事制度という観点で書かれた、かっちりした実務書であると言えます。

 トータル人事制度について書かれた本があまり多く出版されていない中、小手先の制度改革ではなく、人事の基本に原点回帰し、今日的かつ納得性の高い人事制度の再構築を探究した良書だと思われ、また、徒(いたずら)に制度を複雑化させることをしていないため、中小企業においても、制度導入の参考にし易い本でもあるかと思います。

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まさに「教科書」だが、実務にも供する。時代遅れにならず、廻り道せず、偏らないために。

賃金制度の教科書.jpg 『賃金制度の教科書』(2010/06 労務行政)

 '08年に労務行政から刊行された『人事評価の教科書』に続く「教科書」シリーズの第2弾で、本書『賃金制度の教科書』の後に『等級制度の教科書』『人材育成の教科書』と続きますが、いずれも実務者を読者層として念頭に置き、かつ、「教科書」と銘打っているだけに、分かりやすく書かれているのが特徴。また、この『賃金制度の教科書』は、シリーズの中でもややページ数は多い目です(336頁)。

 企業人事に携わる人事部門のマネージャーや賃金実務を担う担当者に向けて書かれた入門書であり、賃金の基本知識や、人事制度における賃金制度の位置づけ、制度の内容、これまでの賃金制度の変遷から、これからの賃金制度のあり方までを網羅しています。

 各論においては、基本給、諸手当、賞与、退職金について各1章を割いて、戦略的人材マネジメントという観点から、その政策的あり方や近年の動向、制度設計の実際までを解説しており、入門書でありながら、そのも密度はかなり濃いものです。

 年俸制についても1章を割いて解説していますが、年俸制は、これからの時代に大いに活用価値のある賃金の決め方であると思われ、個人的には、たいへん参考になりました。

 最後に、「多様な働き方の戦略」をキーワードとして、高齢者雇用制度の設計方法から入って、ダイバーシティに対応した「トータル人材マネジメント体系」の再編を提唱して締めくくっています。

 本書の位置づけは、「初めて賃金の実務を担当する人や労使の賃金担当者が、賃金決定の理論と実務の体系を学ぶことができる入門書」とのことですが、人事の最新トレンドを捉えながらも、先走りし過ぎること無くオーソドックスであり、かつ項目上も、理念と実務の関係上も、バランス良くまとまっていると思います。

 こうした入門書を初学者が読む場合、読む本によっては書かれていることが時代遅れで、かえって廻り道になったりすることもありますが、本書に関してはその心配はなく、アップトゥデートで偏りのない、"安心感"のあるテキストです(と思ったら、帯に、「もう旧い賃金テキストは捨てましょう!」とあった。確かに)。

 人事部門のマネージャーが新任の人事担当者などに薦めやすい本だと思いますが、その前に、まず自分自身が、制度づくりの理念的な面などを、本書を通して再チェックしてみるのもみるのもいいでしょう。

 また本書では、賃金制度の設計・運用等については、実務にストレートに供するような方法論や重点ポイント、具体的な事例などが、図説等を用いてかなり突っ込んで解説されています。
 
 かなり詳しく圧縮して書かれているため、全体を教科書的に一度通読しておいて、人事部に共有の参考書として部門に置いておき、課題が生じた際に参照するなり、勉強会のテキストとして用いるなりするといった利用法も考えられるかも知れません。

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50歳を過ぎたら管理者を除いて評価をやめ、給料も固定給にするというユニークな提言。

65歳定年時代に伸びる会社.jpg65歳定年時代に伸びる会社 (朝日新書)』['10年]

 産労総合研究所の人事専門誌「労務事情」の2009年3月1日号から9月1日号にかけて7回に分けて連載されたものに加筆修正して、1冊の新書にまとめたものです(連載時のタイトルは「定年前OB化―50代からのモチベーションアップにどう取り組むか」)。

 これまで多くの企業の人事制度を取材してきた著者によれば、企業に勤める社員は50代になると自分のゴールが見えてきてしまうために、定年前であるにもかかわらず、気分的に"OB化"してしまいがちであり、活躍の場を失って評価も給与も下がり、将来への希望も絶たれることから、「上昇停止症候群」「空の巣症候群」といったある種のうつ状態に陥るケースも少なくないと。

 本書では、そうした50代60代の社員の活性化を図るために、①中高年コーチ制度、②社内ダブルワーク制度、③マイスター制度、④NEWジョブタイトル制度、⑤社内人材マーケット制度などの多くの施策が提案されています。

 数ある本書の提案の中で最も目を引くのは、50歳を過ぎたら管理者を除いて評価制度の適用を廃止し、給料も固定給にすべきであるというものではないでしょうか。

 50代60代の社員を評価対象外とする理由として、①評価が処遇に反映されていないという現実からみて、評価する必要性があると思えない、②通常の評価制度では50代60代の社員に期待される役割能力を適正に評価することができない、③50代60代の社員を評価することのメリットよりも、かつての部下に評価されることで、プライドが傷つきモチベーションが下がるデメリットの方が大きいと考える、という3つを挙げています。

 そして、評価しないのであれば、50歳以降は固定給としてその後の昇給は行わず、そのかわり定年を65歳まで延長して、65歳まで50歳時の年収を固定することを提案しています。
そうすると、社員側からすれば、50歳以降の昇給分がなくても従来通りの生活水準を維持することは可能であり、企業側としても、人件費の伸びを抑えたまま65歳定年制を実現できるとしています。

 また、50歳以降は評価も昇給もしないという案に反発が予想される場合の施策として、評価は行うが、その結果を賃金にではなく労働時間(時短)やフリンジベネフィット(金銭外報酬)に反映させることなども提案しています。

 著者の新書での前著『人事制度イノベーション』('06年/講談社現代新書)では、同評価であれば上位職層ほど多く昇給するのが当然という従来の考えでは、バブル崩壊後に入社した社員は、いつまでたっても今の中高年の賃金水準に届かないと指摘し、若年層ほど成果主義の色合いが強い賃金制度にすべきであるという「世代別逆転」成果主義という考えが提唱されていて、企業の賃金制度の運用実態をよく知ったうえでの、パラダイム変革的な提言に思えました。

 本書での提言は、前著での提言と相互補完関係にあるともとれますが、同様にユニークかつ検討に値するものであるように思えました。
 但し、50歳以降は、上司と部下との間で定期的なコミュニケーション&カウンセリングの機会を持つことさえできれば、必ずしもそこに評価が介在する必要はないという考えは理解できる一方、50歳以降は昇給もしないということになると、中高年のモチベーションアップを図るための、中高年に特化した研修をそれなりに工夫しなければならないでしょう。

 本書はそのことをも踏まえ、そうした研修の在り方についても多角的な提案がなされています。賃金制度の在り方についての提案に目が行きがちですが、本書を読むに際しては、この部分を読み落とさず、自社適合を探ることが大切なのかも知れません。

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人事制度設計の実務テキストとして読め、現時点の傾向を再確認する上でも良書。

役割・貢献度賃金.jpg  役割貢献度賃金2.JPG 『役割・貢献度賃金―成果主義人事賃金制度の再設計』['10年]

 日本経団連が2007年5月に「今後の賃金制度における基本的な考え方」として発表した、〈年齢や勤続年数を基軸とした賃金制度〉から〈仕事・役割・貢献度を基軸とした賃金制度〉へ転換せよとの提言を受けて、日本経団連傘下の「人事賃金センター」が、人事処遇システムのあり方を、企業の実務担当者を交えて討議し、その内容を実務的な視点で取り纏めたものです。

 これからの成果主義人事・賃金制度のあり方を3つ視点(公平性・納得性の視点、仕事・役割・貢献度の視点、中長期的な人材育成の視点)から概説した後、「賃金体系」「等級制度」「賞与制度」「人事評価制度」のそれぞれについて、その目的や機能、今後の方向性や制度設計上の留意点等を、実務的な観点から解説、後半は、このワーキンググループに参加した企業の制度事例集になっています。

 賃金、等級、賞与、評価の4つのテーマそれぞれに1章を充てていますが、本のタイトルからみても、とりわけ「賃金」が核になるのではないでしょうか。
 定型職務、非定型職務のそれぞれについて、職群ごとにいくつかの賃金体系を提案していて、その内容は、概ね以下の通りとなっています。

◆定型的職務
 ① 一般事務職・現業技能職・販売職等
   ・職務給(単一型)+習熟給(積み上げ型)または職務給(範囲型)
   ・職務給(単一型)+習熟ランク給(習熟レベル別定額)
 ② 着任時に完全な職務遂行能力が求められる定型的職群
   ・職務給(単一型)
   ・職務給(単一型)+経験加給(積み上げ型)
 ③ 現業監督職
   ・職務給もしくは職能給(単一型)+成果給(業績給)
◆非定型職務
 ① 担当者の職務伸長等に応じて課業配分の一部分が変わる職務群(企画職、総合職等)
   ・職能給(範囲型)
   ・職務給(範囲型)
 ② 職務が一定レベルに達し自己裁量で職務を遂行できる職務群
   ・上限職能給+業績給(洗い替え方式)
 ③ 経営目的を達成するために役割等が予め決められた職位(管理職、営業職等)
   ・職務給(役割給)+業績給(洗い替え方式)
   ・職務給(役割給)+業績給(積み上げ方式)

 日本経団連の提言には、「従業員の異動などを容易にするためには、1つの職務に1つの賃金額を設定する"単一型"ではなく、同一の職務等級内で昇給を見込んで賃金額に幅を持たせる"範囲型"の制度とすることが一般的である」とある一方で、「職群ごとに賃金制度の基軸を変えるなど、自社の実情に合ったバランスのとれた制度とすることが望ましい」とあり、賃金制度に関するこうした木目細かい解説は、その提言に即したものであると言えるでしょう。

 また、このように仕事内容によって賃金制度に柔軟性と多様性を持たせるという考え方は、後半の企業事例(NEC、山武、JTなど大手企業中心)もほぼその考え方に沿ったものであることから、(先進的と言うよりは)現時点でのスタンダードであると思われます。
 コンパクトに纏められていて、賃金表の見本なども添えられていることから、賃金制度の設計に際しての実務上のテキストとなる本だと思います(但し、ページ数は多くないが、その分詰め込み気味なので、ある程度の実務経験者でないと、内容を十分に理解するのはきついかも)。

 このことは、「賃金」についてに限らず、等級、賞与、評価について書かれている部分にも当て嵌まり、それら制度のあり方についての自社適合を探る上で、本書に書かれていることは何れも押さえておきたいし、また、現在の人事制度設計の傾向を再確認する上でも、バランスのとれた(時代遅れでもなければ、進み過ぎでもない)内容であるように思いました。

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人事の課題について1テーマごとによく纏まって解説されている"テキスト"。

人事再考.jpg 『人事再考 ~プロが切り込む人事の本質~』(2010/03 文芸社)

 同じコンサルティング会社(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)に所属する人事コンルタント(所謂"人事のプロ")が自主的に集い、人事制度・人事施策に関する近年の重点テーマを抽出し、自らの研究成果を共同執筆したもので、テーマごとに、その基本的な考え方から本質まで、理論から実務的な課題の解決方法までを解説しています。

 取り上げられているのは、「人事フレーム」「目標管理制度」「業績連動賞与」「人事評価制度」「グローバル人材管理」「業務改善と人材育成」「モチベーション管理とES調査」「給与制度」「退職給付制度」の9つのテーマで、1人のコンサルタントが1章を執筆担当しています。

 各章とも、①テーマの本質、②テーマの本来の目的・意義、③テーマの具体的な設計法、④テーマのスムーズな運用方法、⑤まとめ(プロとしての主張)という構成で統一されているため読み易く、また再読し易いものとなっています。

 例えば「人事フレーム」について書かれた章では、能力・職務・役割に基づく等級制度のそれぞれの特徴を比較しつつ、「役割等級制度」の設計について具体的に解説するなど、人事制度の在り方の現時点でのスタンダードに即した内容であり、また、何れのテーマについても、それらについて再考することが企業の成長・発展に繋がっていくという考え方が貫かれているのがいいです。

 但し、「再考」という観点からすると、「目標管理制度」など一部で運用の形骸化が見られるものについては、本来の目的・意義に立ち返るという意味においてその言葉が当て嵌りますが、全般的には、1テーマ20ページそこそこという限られた紙数の中で実務的なポイントに触れ、事例なども掲げているいるため、紙数不足になってしまったと言うか、その分、今後に向けての提言という面ではやや弱いようにも思いました。

 テーマごとに要点整理され、簡潔に纏まっているという点では、経営者や一般のビジネスパーソンにも手にし易い本であると思われ、実務面での留意点を抽出し、ポイント解説しているという点では、これまで人事制度の策定にあまり携わった経験がない人事・経営企画の新任担当者にも読みやすい"テキスト"であると思います。

 書かれていることは何れも筋(すじ)論であり、そうした意味では良書だとは思います("一応"、評価は★4つ)、ハードカバー製本、関心を引くタイトルの割には、「論考」というよりむしろ「教科書」的な色合いの強い本のように、個人的には感じました(このままの内容で、日経文庫の1冊として刊行されていても違和感のない内容)。
 実際、実務面に関する記述のウェイトがそれなりに高いのですが、人事部以外の読者をも想定して、ビジネス書っぽい体裁にしたということでしょうか。

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シンプル・イズ・ベスト。制度コンサルティングの初学者にはうってつけのテキスト。

続・中小企業の人事制度・考課制度設計コンサルティング.jpg続・中小企業の人事制度・考課制度設計コンサルティング―制度設計の手法をすべて見せます! (アスカビジネス)』(2009/07 明日香出版社)

 '06年刊行の『中小企業の人事制度・考課制度設計コンサルティング』の続編、と言うより"改訂版"に近い内容ですが、シンプルによく纏まったテキストで(全体で約160ページ)、コンサルタントに限らず、中小企業の人事担当者でも読める内容です。

 冒頭で人事制度・考課制度の現状と問題点を解説し、以下、賃金・等級・評価制度の設計の進め方の基本をコンパクトに解説、賞与制度・退職金制度にも触れていますが、ここまでで67ページしか使っておらず、後半の約90ページは、新人事制度の実例と、就業規則及び諸規程(賃金規程・退職金規程・育児介護休業規程・旅費規程)のサンプルや届出書式集になっています。

 冒頭で職能資格制度の考え方や留意点に触れていますが、実際の制度設計の進め方に関する章(第2章「新制度設計コンサルティング)で解説されていたり、制度事例として取り上げられているものは、「職務グレード制」乃至「役割グレード制」です。

 賃金分析の手法や範囲給の設定の仕方など、制度設計コンサルティングの"手の内"を分かり易くオープンにしている姿勢に好感が持て、図表を効果的に用いているため、少ないページながらも、イメージが掴み易いものとなっています。

 考課制度も、業績評価と行動評価(又はコンピテンシー評価)の2本立てで、それぞれ評価シートのサンプルが掲げてあり、賞与については、ポイント制賞与制度の基本的なパターンを、退職金については、「中退共」や成果型退職金制度を解説しています。

 後半、規程例に多くのページを割いているのは、一見やっつけ仕事のように見えますが、実務対応の観点からすればむしろ親切であると言え、その前に、新人事制度の実例として、等級・賃金・評価などの諸制度の運用規程が掲げてあるのも丁寧。

 ある程度の経験を積んだコンサルタントにはやや物足りない面もあるかと思いますが、制度コンサルティングの初学者にはうってつけの本だと思います。

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「●人材育成・教育研修・コーチング」の インデックッスへ

人材育成・社員教育に力を注ぐ会社の施策を紹介。大企業・有名企業ばかりなのが少し気になる。

会社を利用してプロフェッショナルになる.jpg会社を利用してプロフェッショナルになる Excellent System of Human Resources Development (光文社ペーパーバックス)

 人事専門誌などに、企業の人事制度や施策等を紹介する記事を書かせたら、その分野では"第一人者"であろうと思われる著者ですが、光文社ペーパーバックスの前著『隣りの成果主義』('04年)は、殆ど図表等を用いずに賃金制度などの紹介をしていて、プロでも時には内容を把握するのが困難な他社の人事制度を、字面だけで一般読者に理解させるのは難しいように思え、結果として、著者の持ち味が活かされていなかったように思います。

 それに比べると、各社の人材育成・社員教育施策を紹介した本書は、テーマ的にも文章記述だけでカバー出来る部分が多い上に、今度は2色刷りになって図表(概念図)も多く取り入れられているため、前著よりは解りよいものになっているかと思います。

 前半のトヨタや東レ、日本ユニシスなどの超優良企業9社の事例紹介は、ほんのサワリだけで、また数だけ詰め込みすぎたかと思われましたが、後半の、"3年で「プロの専門職」に育てる会社"としての4社(ゴールドマンサックス、アクセンチュア、キーエンス、資生堂)と、"10年でプロのマネジメントに育てる会社"としての3社(ユニクロ、伊藤忠商事、住友商事)は、そうした分類の仕方も興味深く、また、著者らしい取材力が活かされているように思いました。

 これらの事例紹介の幾つかは、'06年から'07年にかけての雑誌「プレジデント」の連載がベースになっているようで、道理でそれぞれ突っ込んで書かれているというか、それなりに時間をかけて取材したものなのだなあと(ここでは1つ1つについて述べないが、個人的には参考になった)。

 但し、本書自体は、タイトルからも窺えるように、就職・転職を意識している一般のビジネスパーソンに対して、自分をプロフェッショナルにしてくれる会社を選びなさいと呼びかけるスタイルをとっているため、冒頭で、「知名度や規模」で会社選びをしてはならないとしながら、紹介されているのがそれなりの大企業・有名企業ばかりである(且つ、人材育成制度も充実しているのだが)という結果になっている、この辺りの事例の選択方法がが、ちょっとどうなのかなと。

 「プレジデント」という雑誌の性格や。「人材育成制度」というテーマからするとこうならざるを得ないのだろうけれども、本書を読むと、やはりプロ人材になりたければ、世に言う"一流企業"に行くにこしたことはないととる人も多いのではないでしょうか。

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