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「新型うつ」の見分け方から企業としての対応の在り方や予防法までを分かりやすく解説。

「新型うつ」な人々.jpg「新型うつ」な人々 (日経プレミアシリーズ)

 真面目な人が「うつ」になり易く、「うつ」になった場合は自分を責める傾向にある―という「従来型のうつ」に対し、軽く注意したら不調を訴え会社に来なくなった、本人からは上司に叱責されたために「うつ病」になったとの訴えがあり、配置換えを申し出てくる―そうした、いわゆる「新型うつ」ではないかと思われるケースが、最近若い社員を中心に増えていると言われますが、本書はその「新型うつ」と呼ばれるものについて、経験豊富な産業カウンセラーが分かりやすく解説した新書本です。

 前半部分では、「新型うつ」の特徴や「従来型うつ病」との違い、「新型うつ」になりやすいのはどんなタイプの人かなどが事例をあげて解説されており、後半は、「新型うつ」と思われる社員への対応から、社員を「新型うつ」にしないための対策やストレス・マネジメント法まで、対処法が提案されています。

 このように、「新型うつ」の見分け方から企業としての対応の在り方や予防法まで、全体によく網羅されていて、内容のバランスもとれていると思いますが、新書であるため、その分一つ一つの事柄がそれほど深く書かれているわけではありません。それでも個人的には、「新型うつ」は若者だけの問題ではなく、四十代、五十代でもなることがある、といった新たな知識を得ることができました。

 また、企業内で、メンタル不調者一人ひとりに対しどのようなアプローチが必要なのかを総合的にアセスメントできる人材、「メンタルヘルスのスペシャリスト」を育てることを提案している点は、まったく同感だと思いました。

 この分野の知識を深めようとするならば、精神科医など専門家の書いた本も読むといいと思われ、最初に読む入門書としては、野村総一郎『うつ病をなおす』(2004/11 講談社現代新書)などがお薦めです。逆に、医師であっても専門医ではない人が書いた本には、特殊な見解や特定の療法に偏っていたりするものもあり、危うさを感じることがあります。一方で、専門医は専門医で、"病態区分"などに関して、それぞれの立場ごとに書かれていることが異なったりすることもあります。

 例えば、林公一『それは、うつ病ではありません!』(2009/02 宝島社新書)では、"「ディスチミア親和型うつ病」(「うつ病」と診断されるには至らない軽症のうつ状態が慢性的に長期間持続するもの―岩波 明『ビジネスマンの精神科』(2009/10 講談社現代新書))などをうつ病と呼ぶ派"などという言い方で、「新型うつ」と呼ばれるものは「擬態うつ」であってうつ病ではないとしています。一方で、吉野聡『それってホントに「うつ」?―間違いだらけの企業の「職場うつ」対策』(2009/03 講談社+α新書)では、「ディスチミア親和型うつ病」などを「現代型うつ病」とし、さらに、「職場うつ」と呼ぶべきものの中には、パーソナリティ障害や内因性精神障害(統合失調症や躁うつ病など)も含まれる場合があるとしています。

 本書『「新型うつ」な人々』の場合、精神科医による典拠を示し、さらに「私の解釈」と断ったうえで、「うつ病」の領域には「ディスチミア親和型」も含まれ、「新型うつ」を理解するためには、「適応障害」や「パーソナリティ障害」の理解も必要であるとしており、これは吉野氏の立場に比較的近く、また「新型うつ」に関するオーソドックスな解釈であると言えるのではないでしょうか。

 「ディスチミア親和型うつ病」は、かつては「軽症うつ」などという言われ方もし、従来型のうつ病に比べて軽度のものであると思われがちですが、岩波明『うつ病―まだ語られていない真実』(2007/11 ちくま新書)では、非常に重篤で大きな事故に繋がった「ディスチミア親和型うつ病」の症例が報告されています(但し、岩波氏の場合、岩波明『ビジネスマンの精神科』(2009/10 講談社現代新書)の中で、「新型うつ病」を「ジャンクうつ」と"断罪"し、「ディスチミア親和型うつ病」とは峻別している)。

 また、貝谷久宣『気まぐれ「うつ」病―誤解される非定型うつ病』(2007/07 ちくま新書)では、かつて「神経症性うつ病」と呼ばれた「非定型うつ病」について解説されています。岡田尊司『パーソナリティ障害―いかに接し、どう克服するか』(2004/06 PHP新書)は、パーソナリティ障害の入門書としてお薦めです。

 メンタルヘルス対策の専従部門を設けることができるのは、限られた数の大企業だけでしょう。普通の会社だと、結局、人事労務部門にいる人たち自らが「メンタルヘルスのスペシャリスト」となるべく自助努力をしなければならないような気もしますが、新書レベルでも、一人の専門家に偏らず何冊かを読むようにすれば、一定の知識は得られるように思います。

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管理者(管理職)によるケア(ラインケア)について、分かり易く実践的に書かれている。

職場のメンタルヘルス実践ガイド.jpg 『職場のメンタルヘルス実践ガイド―不調のサインの見極め方診断書の読み方から職場復帰のステップまで』(2011/01 ダイヤモンド社)

 厚生労働省の「「労働者の心の健康の保持推進のための指針(メンタルヘルスケア指針)」(平成18年3月策定)」では、事業者は、メンタルヘルスケアに関する事業場の問題点を解決する具体的な実施事項等についての基本的な計画(「こころの健康づくり計画」)を策定する必要があるとし、この計画の実施に際しては、
 「セルフケア(自分自身で行う対策)」
 「ラインによるケア(上司や管理者が行う対策)」
 「事業場内産業保健スタッフによるケア(社内の保健関係スタッフによる対策)」
 「事業場外資源によるケア(社外の専門家に等に依頼して行う対策)」
の4つのメンタルヘルスケアが継続的且つ効果的に行われることが必要だとしています。
 
 この内、職場でのメンタルヘルス推進の基本は、ラインによるケア(上司や管理者が行う対策)にあると言われていますが、本書は、そうした管理職のためにラインケアの実践の在り方を説いたものです。

 第1章の「職場の心の健康を守る技術―ラインケア」では、ラインケアの実行項目のポイントやヒントについて書かれています。第2章では、メンタルヘルス診断書が職場に提出された後の対応について、第3章では、職場復帰を成功に導く方法について述べられています。第1章はいわば「予防」にあたり、第2章・第3章は、メンタル不全者が出てしまった場合の「事後の対応」にあたると言えるでしょう。

 メンタルヘルス関連の書籍は数多く刊行されていますが、本書の特徴は、第1章の「ラインケア」の部分に全体の3分の2ものページを割いていることで、職場で増加するメンタルヘルスの問題を未然に防ぐために、あるいは重篤化しないようにするために、現場のリーダーとして「すべきこと」「してはいけないこと」が丁寧且つ実践的に書かれています。

 具体的には、管理職がなすべきラインケアを「見る」「「話す」「聴く」「対処する」の4つに分け、全部で12のチェックポイントを示していますが、例えば「見る」については「サインを見る」「能力を見る」「人間関係を見る」という3つのポイントが掲げられていて、従来のラインケアの解説書よりも視野が広いように思われました。

 個人的には、結局これらは、管理職として自分が部下に対してやるべきことをやっているかということのチェック項目であると言い換えることが出来るようにも思われ、メンタルヘルスケアというのは、現場のリーダーにとってはマネジメントの延長線上にあり、マネジメントの一環であるとの思いを改めて抱きました。

 現場の管理職向けに分かりやすい言葉で書かれていて、カウンセリング手法をベースとした部下コミュニケーションの具体例などがポイントごとに織り込まれているため、現状で部下がメンタルヘルス不全になりかけているといった問題を抱えているリーダーには、参考になるのではないでしょうか、

 また、特に現状では自分の職場に関してはメンタル不全の問題は無く、と言って、本書に書かれていることを一時(いちどき)に実行するのは難しい(確かに...)、或いはそうした機会がすぐには訪れるとは思えないという管理職やリーダーもいるかもしれませんが、過去の自らの経験等を顧みつつ本書を読むことで、メンタルヘルス推進に対する認識のレベルを日頃から高めておくという自己啓発的な読み方でいいのではないでしょうか。よくポイントが整理されているため、再読もしやすいかと思います。

 第1章の終りで、職場でメンタルヘルスを推進するリーダー像とはいかなるものかについて、組織とリーダーシップという視点で「PM理論」をベースに解説されているのが興味深かったです。
 「PM理論」については既知の人事担当者も多いかと思いますが、メンタルヘルスにおけるラインケアという文脈の中で読み返してみるのもいいのではないかと思います。

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メンタルヘルス対策を経営戦略の一環として捉えた本、だったが...。

メンタルタフネス経営.bmpメンタルタフネス経営―打たれ強く成長する』(2009/09 日本経済新聞出版社)

 タイトルは「メンタルタフネス経営」となっていますが、中身は職場の「メンタルヘルス」施策を経営の観点から書いた本と見てよいでしょう。

 著者は、外資系IT企業の事業部長などを経て、企業を対象としたメンタルヘルスに関するコンサルティングを行う会社を'03年に立ち上げた人であり、転職の契機は、著者自身が会社員時代にハードワークのためうつ病に罹患し、そこから回復した経験にあり、本書で取り上げられているうつ病の事例の中には、自身の経験も含まれています。

 前書きに「職場のメンタルヘルスというのは単なる産業保健や福利厚生、医療の問題だけでなく、技術革新への投資、人材育成やコストコントロールなどと同様に、企業が戦略的に取り組むべき最も重要な経営課題のひとつ」とあるように、医師や心理療法士の書いた本と異なり、マネジメントの観点から書かれているのが、本書の特徴です。

 本書の「メンタルタフネス」という言葉には、個人のストレス耐性のことも含まれてはいますが、むしろ「メンタル問題に強い会社」という意味で、経営体質に係っている言葉であると言え、「メンタルヘルス」という言葉の企業側の受けがイマイチなのに対し、「メンタルタフネス」と言うと相手が身を乗り出してくるという状況がやはりあるのかなあと。
 但し、「従業員の健康を守ることが経営トップの使命であると」との主張には、全くその通りであると思いました。

 また、メンタルヘルスの改善と併せて、ワークライフバランスの実現を図ることで、従業員のモチベーションを高め、会社の生産性を向上させることを説いており、そうしたストレスマネジメントと組織活性化を包括したトータルな施策を、「メンタルリエンジニアリング」として提唱しています。

 著者の言う「メンタルリエンジニアリング」とは、「メガストレス時代を乗り切るために開発された認知療法の考えを活かした人材と組織の経営戦略」とのことで、「ABC理論による認知療法」というのが前面にきていますが、その認知療法と著者の提唱する社内研修などの施策の関係性が、本書においてはやや曖昧な気がしました。

 精神科医の中には、本書に多く取り上げれている「うつ病」の治療において、認知療法が効果的であるのはごく限られた患者であるとの見解もあります(岩波明著『ビジネスマンの精神科』('09年10月/講談社現代新書)。

 個々には賛同する部分、ナルホドと思わされる部分もありましたが、研修やトレーニングについては、もう少し詳しく具体的に書いて欲しかった気もします(企業秘密なの?)。

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メンタルヘルス関連の知識習得の初期段階で読む分には、手に取り易い本。

人事担当者、管理職のためのメンタルヘルス入門.bmp 『人事担当者、管理職のためのメンタルヘルス入門―図でわかる、適切な対応ができる』(2009/03 東洋経済新報社)

 本書前書きにもありますが、バブル崩壊後、日本企業を取り巻く環境は厳しいものとなり、多くのビジネスマンが強いストレスを感じながら仕事を続け、その結果、メンタルヘルス不調に陥り、休職や退職に至るケースが増えているとのこと(本書データによれば、日本人のうつ病は過去20年で6倍に)、それに加えて、サブプライム問題に端を発した経済不況で、今後もメンタルヘルス不調者は増加することが懸念されています。

 本書の著者はベテランの産業医で、産業医を目指す人の育成にもあたったことがあり、現在は、企業のメンタルヘルス対策のコンサルタント会社を経営している人ですが、企業がメンタルヘルス不調の従業員を抱えることは、労働生産性の低下ばかりでなく、それが労災請求や民事訴訟、行政訴訟に発展すれば、多額の賠償金を支払わなければならなくなる危険性もあると指摘しています。

 そうした事態を招かないようにするために、「人事担当者や管理職が果たすべき役割」というを視点を軸として、メンタルヘルス対策の必要性、うつ病・新型うつ病・そう病・統合失調症・適応生涯・不安障害・人格障害などのメンタルヘルス不調の典型症状の概要、それらがどのように現われるのか、また、対策を進める仕組みづくりや不調者の「復帰支援」をどのように進めていくのか、予防・早期発見をどうするか、などを本書において解説しています。

 ほぼ、見開きの片側が図解になっているため、たいへん解り易いのが特長で、メンタルヘルス不調についての知識、メンタルヘルス対策の基本事項を押えるには良い本だと思います。

 メンタル不調で休業・休職していた従業員の「職場復帰支援」などは、厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」に準拠して解説されていて、「リハビリ出勤」についてや、業績評価での「不調」を考慮すべきかどうかという問題にも触れられていて、全体に偏りが無く、バランス良い解説書となっているように思います。

 但し、紙数の制約のためか、事例的なものに割くスペースが殆ど無く(守秘義務を遵守している?)、ワンテーマごとの解説がスッキリしている分、やや物足りなさも。
 人事担当者が、知識習得の初期段階で読む分には、手に取り易い本であるとは思いました。

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入門書として読み易く、実務対応に絞って書かれている良書。

人事・管理職のためのメンタルヘルス・マネジメント入門.bmp          真野俊樹 世界一受けたい授業.bmp 真野 俊樹 氏(NTV系「世界一受けたい授業」)
人事・管理職のためのメンタルヘルス・マネジメント入門』(2009/03 ダイヤモンド社)

 本書の著者は、病院、企業、大学など9つの組織に勤務した経験を持つ産業医で、最近はテレビ番組(NTV系「世界一受けたい授業」など)のコメンテーターとしても活躍している現役の内科医ですが、本書は、そうしたマネジメント、企業社員、産業医としての経験と知識をもとに書かれた、人事部・管理者向けの「メンタルヘルスの対応書」です。

 「世界一受けたい授業」は個人的には殆ど見ない番組なのですが、たまに見た際に、同じ精神科医でもちょっと偏った考えの人も出演したりしていたのでどうかなと思ったけれども、本書に関してはマトモでした。

 前半は"基礎知識編""応用知識編"で、「うつ」という病気を事例により解説するとともに(併せて、適応障害や人格障害についても解説されている)、なぜ「できる人」がうつになるのかを解き明かし、社員がうつ病ににならないようにするために、人事あるいは管理職が知っておくべきことは何か、また、社内・社外の資源をどう使うかなどが示されてされています。

 後半は"個別対応編""予防策編"で、メンタルヘルス問題社員に何をすべきか、その具体例と対処法を示すとともに、うつが出にくい会社を作るにはどうすればよいのか、社員のメンタルを強くするモチベーション・マネジメントや、予防対応としてのメンタルマネジメントなどについてが書かれています。

 本書の第一の特長は、読み易さにあるのでは。課題ごとに項目を1ページぐらいずつに区切って、それぞれに大きな活字でポイントを要約した見出しがつけられていて、本文も平易な言葉で書かれているため、前提知識があまりない一般の読者でも、読むのにそれほど苦労はしないと思います。

 専門書によくある「現場から見ると無理な注文」がなく、現時点で「対応する側ができること」に絞ってあり(従って、本書での対応策は「適応障害」を主に対象としており、重篤なうつ病の場合は早期に専門家に委ねるよう指導されている)、また、必要に応じて項目ごとに、これは人事部の役割なのか管理職の役割なのかを記してあるのも親切です。

 入門書でありながらもやや驚かされたのは、産業医とのコミュニケーションが"死活を握る"と説く一方で、病院勤務に疲れたので「産業医でもするか」とか、「産業医しか」できない医師、いわゆる「でもしか」産業医がいるかもしれないという指摘で、そうした現状への対応として、産業医の選び方のポイントも書かれています。

 また、うつ病対策に効果的なのが「カウンセリング機能の充実」であるとしていますが、大企業ならともかく中小企業ではなかなかそこまでは難しいのではないかと思っていたのが、実は健保組合などが専門の医療機関と契約しているケースが多く、対面のみでなく電話でも、また、土日や夜も対応してくれるとのことで、こうしたことは、人事や総務の仕事をしている人にも知られていないケースが多いのではないかと思われます。

 うつが出にくい職場を作るにはどうすればよいのかということを、「プロフェッショナルタイプによい職場」と「安定を求めるタイプによい職場」に分けて解説しているのが興味深く、「目標達成した人は、報酬よりも言葉の評価を待っている」というモチベーション論にも頷かされました。

 本書は対策本としての実務書の要素が強いため、巻末に、知識を補うための参考書籍のリストを掲げているのも親切で、そのカバーしてるジャンルは広く、人事担当者ならばこのうちの何冊かは既に読んだことがあるとは思われますが、是非、この中から何冊かを選んで読み進んでみることをお勧めします。

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一般社会人が身につけておきたい精神医学の知識。"新型うつ病"を"ジャンクうつ"と断罪。

ビジネスマンの精神科.gif 『ビジネスマンの精神科 (講談社現代新書)』 ['09年] うつ病.jpg  『うつ病―まだ語られていない真実 (ちくま新書 690)』 ['07年]

 タイトルからすると職場のメンタルヘルスケアに関する本のようにも思われ、「中規模以上の企業」に勤めるビジネスマンを読者層として想定したとあり、実際、全11章の内、「企業と精神医学」と題された最終章は職場のメンタルヘルスケアの問題を扱っていますが、それまでの各章においては、うつ病、躁うつ病、うつ状態、パニック障害、その他の神経症、統合失調症、パーソナリティ障害、発達障害などを解説していて、実質的には精神医学に関する入門書であり、タイトルの意味は、一般社会人として出来れば身に着けておきたい、精神医学に関する概括的な知識、ということではないかと受け止めました(勿論、こうした知識は、職場のメンタルヘルスケアに取り組む際の前提知識として重要であるには違いないが)。

 基本的にはオーソドックスな内容ですが、うつ病の治療において「薬物療法をおとしめ、認知療法など非薬物療法をさかんに推奨する人」を批判し、例えば「認知療法を施行することが望ましい患者は、実は非常に限定される」、「そもそも、認知療法を含む非薬物療法は急性期のうつ病の症状に有効性はほとんどない。かえって症状を悪化させることもある」といった記述もあります(前著『うつ病―まだ語られていない真実』('07年/ちくま新書)では、高田明和氏とかを名指しで批判していたが、今回は名指しは無し。名指ししてくれた方がわかりやすい?)。

 その他に特徴的な点を挙げるとすれば、「適応障害」は一般的な意味からは「病気」とは言えないとしているのは、DSMなどの診断基準で"便宜的"区分として扱われて売ることからも確かに"一般的"であるとしても、「適応障害よりもさらに"軽いうつ状態"を"うつ病"であると主張する人たちがいる。その多くは、マスコミ向けの実態のない議論である」とし、「"新型うつ病"という用語がジャーナリズムでもてはやされた時期があった」と過去形扱いし、「分析すること自体あまり意味があるように思えないが、簡単に述べるならば、"新型うつ病"は、未熟なパーソナリティの人に出現した軽症で短期間の"うつ状態"である。(中略)精神科の治療は必要ないし、投薬も不要である」、「こうした"ジャンクなうつ状態"の人は、自ら病気であると主張し、これを悪用することがある。彼らはうつ病を理由に、会社を休職し、傷病手当金を手にしたりする」(以上、98p-99p)と断罪気味に言っていることでしょうか。

 『うつ病―まだ語られていない真実』には、「気分変調症(ディスサイミア)」の症例として、被害妄想から自宅に放火し、自らの家族4人を死に至らしめた女性患者が報告されていて(これ読むと、かなり重い病気という印象)、うつ病や気分変調症と、適応障害やそれ以外の"軽いうつ状態"を厳格に峻別している傾向が見られ、個人的には著者の書いたものに概ね"信を置く"立場ですが、自分は重症うつ病の"現場"を見てきているという自負が、こうした厳しい姿勢に現われるのかなあとも。

 但し、個人における症状を固定的に捉えているわけではなく、適応障害から「気分変調症」に進展したと診断するのが適切な症例も挙げていて、この辺りの判断は、専門医でも難しいのではないかと思わされました。

 その他にも、「精神分析」を「マルクス主義」に擬えてコキ下ろしていて(何だか心理療法家そのものに不信感があるみたい)、フロイトの理論で医学的に証明されたものは1つもないとし、フーコーやラカンら"フロイトの精神的な弟子"にあたる哲学者にもそれは当て嵌まると(125p)。
 
田宮二郎.jpg 入門書でありながら、所々で著者の"持ち味"が出るのが面白かったですが、
一番興味深かったのは、「躁うつ病」の例で、自殺した田宮二郎(1935-1978/享年43)のことが詳しく書かれていた箇所(72p-77p)で、彼は30代前半の頃から躁うつ病を発症したらしく、テレビ版の「白い巨塔」撮影当初は躁状態で、自らロケ地を探したりもしていたそうですが、終盤に入ってうつ状態になり、リハーサル中に泣き出すこともあったりしたのを、周囲が励ましながら撮影を進めたそうで、彼が自殺したのは、テレビドラマの全収録が終わった日だったとのこと。
 躁状態の時に実現が困難な事業に多額の投資をし、借金に追われて、「俺はマフィアに命を狙われている」とかいう、あり得ない妄想を抱くようになっていたらしい。
 へえーっ、そうだったのかと。

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現代型うつ病(ディスチミア親和型うつ病など)への企業内での現実的対応法を示した良書。

それってホントに「うつ」?.jpg 『それってホントに「うつ」?──間違いだらけの企業の「職場うつ」対策 (講談社+α新書)』 ['09年]

 精神科医であると同時に産業医でもある著者によるもので、若者を中心に増えつつあり、企業の人事担当者を惑わせる「職場うつ」に対する対応の在り方について書かれたものですが、それ以前に、「うつ」とは何かが簡潔に解説されているため、「うつ」の入門書としても読めます。

それは、うつ病ではありません.jpg 同じ頃に刊行された林公一(きみかず)氏の『それは、うつ病ではありません!』('09年/宝島社新書)が、事例から入って、これは「うつ病」でありこれは「擬態うつ」だとして後付で解説しているのに比べると、最初に体系を示しているためより解り易かったです。
 そして何よりも、『それは、うつ病ではありません!』が「気分変調性障害」などを「擬態うつ」として排斥しているのに対し、本書は、「現代型うつ病」としているのが大きな違いで、DSM-Ⅳに対しては批判も多いものの、とりあえずは現行の診断基準になっているのだから、それに沿って解説するのが筋でしょう。そうした意味では本書の方がオーソドックス。

 その上で、巷に氾濫している「職場うつ」という概念を、①従来型うつ病(大うつ病障害)、②現代型うつ病(気分変調性障害)、③パーソナリティ障害、④内因性精神障害(統合失調症や躁うつ病など)に区分し、それぞれの特徴を述べるとともに、治療方法や周囲の接し方、職場復帰プログラムの在り方などをタイプ別に解説しています(③、④など「うつ病」の診断基準を満たさないものを「排除」するのではなく、それらも含めて、産業医の立場から人事担当者と共に現実対応を考えていこうという姿勢がいい)。
 
 とりわけ、著者が「現代型うつ病」と呼ぶところの気分変調性障害(ディスチミア親和型うつ病)に対する見分け方や対応方法が類書に比べて解り易く書かれていて、例えば、「現代型うつ病」であっても敢えて「従来型うつ病」と同じ職場復帰プログラムを用いればよいことをその理由と共に書いている部分には、ナルホドと共感しました。

 「職場うつ」への企業内での対応について、産業医としての現場での経験を踏まえた上で(もちろん著者は、主治医としても患者を診ている)、精神科医としての専門家の立場から、現実的な対応法、実践的な示唆やアドバイスが分かり易く書かれた良書だと思います。

 惜しむらくはタイトルで、林公一氏の『それは、うつ病ではありません!』と同じようなニュアンスになってしまっているため、これもまた「擬態うつ」を告発するような内容かと錯覚する読者もいるのではないでしょうか。
 更に、「職場うつ」という言葉が混乱を招いているとしながら、「企業の『職場うつ』対策」というサブタイトルを用いているのもどうかと(「職場うつ」には"非うつ"も含まれると断り、また、そのことを"悲劇"としてはいるが)。
 
 著者の最近のセミナーの1つに、「傲慢なのに打たれ弱い『現代型うつ病』への職場対応」という演題ものがありましたが、本書では、「現代型うつ病」に当たる気分変調性障害(ディスチミア親和型うつ病)だけでなく、非うつ病である「パーソナリティ障害」や「内因性精神障害」についても触れているので、このサブタイトルは止むを得ない(「職場うつ」という言葉を条件付きで使わざるを得ない)のかも知れませんが、メインタイトルの方はちょっと...。

 林公一氏の著書とのタイトルの類似を個人的に意識し過ぎたかも知れませんが、中身的には、こちらの方が圧倒的に良書です。

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1人の精神科医の1つの考え。入門書と言うより「意見書」として読んだ方がいい。

林 公一 『それは、うつ病ではありません!』.jpg 『それは、うつ病ではありません! (宝島社新書)』 ['09年] 擬態うつ病.jpg擬態うつ病 (宝島社新書)』 ['01年]

「Dr 林のこころと脳の相談室」(http://kokoro.squares.net)というサイトを運営し、人事担当者の間でも評判の高い精神科医である著者の『擬態うつ病』('01年/宝島社新書)に続く第2弾で、それぞれのタイトルからも解るように、うつ病と外見は似ているが本質は異なる「擬態うつ病」(=うつ病もどき)というものをテーマにしています。

 実際、著者が言うところの「擬態うつ病」というのは社会に、また企業の内に蔓延していて、人事担当者を大いに惑わせるものであり、『擬態うつ病』はタイムリーな刊行であったと思いますが、但し、当時それを読んでやや個人的には引っ掛かるものがあり、精神医学やうつ病の本を何冊か読んだ後に今回の続編を読んで、ああ、これも1人の精神科医の1つの見方に過ぎないなあという思いを強くしました。

 20のケースを挙げ、「これはうつ病でしょうか?」というQ&A形式で解説を進めていますが、最初の方は結構わかりやすい事例のように思え、但し、では「うつ病」でなければ何なのかということで、例えば境界性人格障害や統合失調症であるといった具合に言い切っていますが、果たしてこれだけでそうと言えるのか。著者が描いている事例のイメージの中ではそうかも知れませんが、一般の読者がこれだけを読んで、こうしたケースは境界性人格障害や統合失調症であると(それら自体の解説はあまりされていないのに)決め込んでしまう恐れがあるように思いました。

 また、「うつ病」の定義に著者独自の考えがかなり入っているように思え、実際、著者自身、後半の方では、医学界が「カオスの時代」にあり、「現代の診断基準では、うつ病ということになります」、「こうしたケースはうつ病と呼ぶべきではない、と私は思います」といった物言いになっていたりします。

 決定的なのは、"「ディスチミア親和型うつ病」などをうつ病と呼ぶ派"などという言い方で、社会に「擬態うつ病」が蔓延しているのは困ったものだという一般感情にかこつけて、現代のメジャーな診断基準および「うつ病(うつ病性障害)」の概念範囲を否定していることで、うつ病の入門書として本書を読んでしまった読者がいたら、その前後に読む真っ当な本に書かれている内容との齟齬のために相当混乱させられるのではないでしょうか。

 入門書と言うより、1つの「意見書」として読んだ方がいいと思います。

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企業のメンタルヘルス対策の底の浅さ、考課システムから抜け落ちるアナログ面を指摘。

職場はなぜ壊れるのか.jpg 『職場はなぜ壊れるのか―産業医が見た人間関係の病理 (ちくま新書)』 こんな上司が部下を追いつめる.jpg 『こんな上司が部下を追いつめる―産業医のファイルから (文春文庫)

 前著『こんな上司が部下を追いつめる-産業医のファイルから』('06年/文芸春秋、'08年/文春文庫)は、職場で業務に追われて過労死し、或いはそこまでいかなくとも、精神的余裕を失っている労働者の背後には、部下の仕事をマネジメントする意識が薄く、何らサポートせず何もかも部下に押しつけて部下を追い込み、人材潰しをしている上司がいることを、産業医の視点からリアルに指摘していましたが、働く側の共感を得るところが大きかったのか、よく売れたようです(それなりの数の上司たる人も読んだとは思うが)。
 
 但し、「こうした問題を組織体としてどうするかを考えるのがカイシャではないか」という意見も前著には寄せられたようで、個人的にも、サラッと読めて終わってしまった物足りなさのようなものがありましたが、本書はそれに応える形で、上司個人の問題からより踏み込んだ「職場の人間関係」に視野を拡げ、その背景にある人事システム、端的に言えば「成果主義」に対する、問題点の指摘と批判を行っています。

 前半部分は、事例を挙げて前著をリフレイン(現象面の表記)している感じでしたが、中盤から、成果主義がもたらした職場における人間関係の変容や、目標管理・人事考課制度の問題点などを指摘していて、ぐっと考察が深まる感じ。
 但し、成果主義に警鐘を鳴らしながらも、それに代わるシステムを提唱することは、(ここまで企業の人事制度等の内実に通暁していれば、出来ないこともないのだろうが)「専門外」であるとして敢えて行っておらず、そのことに対する批判もあるかも知れませんが、個人的にはむしろ、自らの専門領域に留まることで、メンタルヘルス対策に対する国や企業、医療関係者のあり方への痛烈な批判の書となっているように思えました。

 例えば、過労自殺を巡る裁判のあった会社の「結果を厳粛に受け止め、社員の健康管理について改善を進めたい」というコメントに対し、「労働衛生の3管理」と言われる「作業環境管理、作業管理、健康管理」は、この順番で優先されるべきであり、「健康管理」よりも先に「作業環境管理」や「作業管理」を行わなければならない(社員を守るのは「健康管理」ではない)と著者は述べていますが、この点をわかっている経営者はどれぐらいいるでしょうか。

 ひと月当たり100時間を超える時間外労働をした人が疲労を訴えた場合は、医師による面談を行うことが、安衛法の改正により義務づけられましたが、労働者が「ノルマが達成できない」と言えば「達成できるノルマに代えてもらったら?」と言い、「仕事が終わらない」と言えば「社員を増やしてもらったら」と医師が言うだけでは、労働者にとっては何ら解決にならず、却って落ち込むというのは、確かにその通りで、労基署の監督官などにも、これに近い対応が見られるのではないでしょうか。

 人事制度そのものには踏み込んでいないものの、目標管理と人事考課のデジタルな連動には大いに疑念を挟んでいて、個人的には成果主義そのものが悪であるとは思わないのですが(著者自身も、そうした仕組みを入れざるを得ない業態があることを認めている)、人事考課がゲーム感覚となり、人事のアナログの部分が抜け落ちてしまうことを著者が指摘している点は、大いに共感しました。

 アナログ面、例えば、職場のモラルとか…。上司が部下を立たせたまま長時間にわたり説教してたり、女子社員が机に伏して泣いているのに周りの社員は「またか」と言う感じで仕事を続けている、といった職場は、どれだけ業績を上げていても、やはり「壊れている」のだろうなあ。

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様々な「うつ」との闘いを取材。医療機関、行政、NPO、企業などの取り組みも。

うつを生きる2.gif 『うつを生きる』 (2007/06 朝日新聞社) やまない雨はない.jpg 倉嶋 厚 『やまない雨はない―妻の死、うつ病、それから...』 (2002/08 文藝春秋)

 '06年から'07年にかけて朝日新聞に断続的に連載された「うつ」関連の特集コラムを再編集したもので、複数の記者が「うつ」で悩む様々な人を取材し、彼らがそれをどう克服したか、また、医療機関や行政、NPO、企業などがどのような対応や対策を講じているかが記されています。

高島忠夫.jpg 冒頭に高島忠夫氏のことが事例として紹介されていますが(新聞なので、有名人でアイキャッチを狙った部分もあるかと思うが)、本書を読むと、26年間続いた料理番組の司会を代わった2年後に発病したとのことで、長く続けた仕事を辞めた時は、危ない時期なのだろうか。この人は、治ったと言うより、まだ闘病中でしょう。今でも毎日、抗うつ剤を服用しているとのこと。

倉嶋厚.jpg 元・気象キャスターの倉嶋厚氏も「うつ」に罹患経験者の1人として紹介されていますが、発症したのが妻が癌で亡くなった73歳の時で、この人のように伴侶の死が発症の契機となることも、やはり多いのかも(倉嶋氏のうつ病の発症と闘病の記録は、自著『やまない雨はない―妻の死、うつ病、それから...』('02年/文藝春秋)に詳しい)。

 ワイドショー「小川宏ショー」の司会を通算17年務めた小川宏氏もうつ病に罹患しているから、やはり長寿番組を終えた後の虚脱感は大きいのかなあ(妻が癌になった点では、本書の倉嶋厚氏と同じ)。

 高齢者のうつだけでなく、女性特有のうつ(中高年齢者は更年期障害と見分けにくく、また、それより下の年齢では"産後うつ"などといったものもある)や、エリート・サラリーマン、医師などがうつになった例なども取材していて、その治癒方法も、薬物療法だけでなく、認知療法や磁気療法など様々で、こうして見ると、どの療法がその人に合っているかということの見極めが難しいなあと思わざるを得ませんでした。

 うつ病から回復して職場復帰を目指す人のために、相手を人事担当者に見立てた模擬面接訓練をやっている組織もあることを知り、それだけ、復職の壁は厚いということなのでしょうか(ただ、企業側が積極的に、職場復帰支援プログラムを策定している例も紹介されてはいるが)。

 この職場復帰支援組織の人がうつ病患者の家族に説いている、本人との接し方には「温かな無関心」 という姿勢が必要という話と、同じく職場復帰支援に力を入れている不知火病院(大牟田市)の院長が退院患者に渡したメモにある、「7割の力、3割の余力」 という言葉が印象的でした。

 本書によれば、'04年に、精神科医の島悟・京都文教大教授が全国ネットのメンタルヘルスコンサルティング機構を立ち上げ、主として、社員を復職させるかどうかなどに迷う上司や人事担当者への助言を行っているそうですが、これからは、企業側からも積極的にこうした外部機関との連携・活用を進めていく必要があるように思いました。

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