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異常を通して人間心理の不思議に迫る。記憶喪失の症例が印象的だった。
『異常の心理学』 講談社現代新書 〔'69年〕
相場 均 (1924‐1976)
本書では、魔女狩りから説き起こし現代の精神医学に至るまで異常心理の歴史とでも言うべきもの述べたうえで、群集心理、催眠現象、記憶喪失、知覚のゆがみ、異常性格などさまざま事象・症例をあげて考察し、人の心の中に潜む異常性を浮き彫りにしています。
前著『うその心理学』('65年/講談社現代新書)に続いての心理学全般にわたる入門書としても読めますが、病理学から社会心理学までやや間口を広げすぎた観もあります。
『うその心理学』 講談社現代新書 〔'65年〕
個人的に印象に残ったのは、ある記憶喪失の症例で、患者の青年が催眠療法で記憶を取り戻す過程で自分の家は富豪だったと思い出したように言ったが、実は貧農だったという話。
著者は記憶喪失を「精神の自殺」と表現していますが、この青年は過去の記憶を何重にも封印したことになります。
このことは精神力動論的にはわかりますが、理屈でわかっても、実際どうしてそうなるかは、やはり不思議だと思いました。
著者の相場均は、『孤独の考察』('73年/平凡社)などの名著がある心理学者で、クレッチメルの『体格と性格』('78年/文光堂)の訳者でもあります。
たまたま生前の著者に接する機会がありましたが、連続殺人犯・大久保清の精神鑑定を依頼されたけれども、「死刑になることがほぼ確実な人物の鑑定はやりにくい」として断ったと話していました。
学生の前で、石原慎太郎・裕次郎兄弟の性格の違いを分析してみせたりもしていた。慎太郎氏が瞬きが多いのは、作家特有の神経症的気質からきていると...。
また、自分の母親が最近亡くなったことを振り返り、「ボケて死ぬのが一番幸せかもしれない」とおしゃっていましたが、その数ヵ月後、大学の夏休み中に急逝されました。
まだ50代前半の若さだったのが惜しまれます。
