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擬古文が平安の物語に調和し、まさに達人の領域。
『少将滋幹の母 (新潮文庫)』
『少将滋幹の母 (中公文庫)』 〔'06年〕
1949(昭和24)年から翌年にかけて新聞連載された谷崎潤一郎(1886‐1965)の63歳の作で、「今昔物語」など平安朝の古典に材を得た円熟味のある作品。
文庫で150ページ程度とそれほど長くない中に、関連する3つから4つの話が入っているという構成。
最初が、80歳の大納言が美人の若妻を、プレイボーイである甥の左大臣に奪われる話。
そして、その後も妻を思う気持ちが絶ち難い老人が極めつけの修行をする話と、自身も若妻に気があったのに左大臣の手引きをした形となった平中(へいじゅう)という名うての色男が、若妻を諦め、その侍従をストーカーのごとく追う話が中盤に入り(後の方の話は、芥川龍之介も小説にしている(『好色』))、最後に若妻の子どもが40年後に母親に再会しようとする、言わば「母子物」の話が来て、この若妻の子(今は中年)が表題の「滋幹(しげもと)」であるということです。
大納言が若妻を左大臣に奪われたという話は、左大臣の策略に嵌まり酒席で勢いに駆られて自分の妻を甥にくれてやったという感じで、これだけの話だとこの老人はなんら同情に値しない気がしますが、この一見愚かな行動を、翌日に老人自身が振り返えるかたちで展開される、谷崎による老人の心理分析が、妻を奪われることが老人の潜在願望であったというなかなか穿ったもの。
それでも老人は恋慕と絶望に苦しみ、色欲から解脱するために"修行"に励みますが、悟りきれないところも谷崎の人生観を表象しているなあと。
擬古文の文調が平安の物語に絶妙に調和していて、まさに達人の領域にあり、読み心地もいいです。
何れの話も原典が示されていますが、その中に1つだけ、実在しないもの(つまり「鵙屋春琴伝」のような谷崎の創作)があるのも味な趣向だと思いました。
【1953年文庫化[新潮文庫]/2006年再文庫化[中公文庫]】
《読書MEMO》
●「少将滋幹の母」...1949(昭和24)年発表
