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芥川賞作家としての松本清張の作品。「火の記憶」もよかった。

『或る「小倉日記」伝』 新潮文庫

['65年/旧版]['97年/改版] 松本清張一周忌特別企画「或る『小倉日記』伝」('93年TBS/出演:筒井道隆、国生さゆり)
松本清張(1909‐1992)の初期12作を所収。
表題作「或る『小倉日記』伝」は'52(昭和27)年下半期・第28回「芥川賞」受賞作で、同じ期の直木賞候補作品にもなっています(まず直木賞候補となり、その後直木賞選考委員会から芥川賞選考委員会へ廻された)。
結果的に芥川賞の方を受賞しましたが、歴代の「芥川賞作家」で最も多くの読者を獲得したのは松本清張だと言われています。
「或る『小倉日記』伝」の主人公である脳性麻痺の郷土史家・田上耕作は実在の人物ですが、作者は見事な創作に昇華しています。
失われたとされる鷗外の「小倉日記」を再構築しようとする主人公の熱意。何が彼をそこまで駆きたて、また、その追跡努力に意義はあったのか?という大きな問いかけが主テーマだと思いますが、主人公に限らず、何らかの形で自らがこの世に存在したことの証を示したいという思いは誰にでも共通にあるものであり、それゆえに主人公のひたむきさが胸を打ちます。
伝記的なスタイルをとりながらも、叙情溢れる表現が随所に見られ、また、主人公の母親の子に対する愛情の深さには胸が熱くなりました(確かに、「芥川賞」と「直木賞」の両方の要件を満たすものをこの作品は持っているかも)。
'93(平成5)年に「松本清張一周忌特別企画」としてTBSでドラマ化されましたが、主演の筒井道隆は頑張っていたという感じ(この俳優は映画デビュー作の「バタアシ金魚」から観ている)。多くの賞を受賞しましたが、原作はミステリと言うより文芸作品に近いものだからなあ。原作の微妙な情感がどこまで表現されていたかと言うと微妙なところ。
同録のものでは、同じく純文学的色彩の濃い「火の記憶」が好きです。
この作品の"ボタ山の炎の記憶"と『或る「小倉日記」伝』の"鈴の音の記憶"は、ともに作品の重要なファクターとなっていますが、登場人物の幼い頃の記憶であるにも関わらず、読む側にも不思議な郷愁、幼児期の記憶を呼び起こさせるものがありました。
「或る「小倉日記」伝」●演出:堀川とんこう●制作:堀川とんこう●脚本:金子成人●原作:松本清張●出演:松坂慶子/筒井道隆/蟹江敬三/国生さゆり/大森嘉之/佐戸井けん太/今福将雄/松村達雄/西村淳二●放映:1993/08(全1回)●放送局:TBS
《読書MEMO》
「新潮文庫」版 収録順
●或る「小倉日記」伝★★★★★.
●菊枕...狂った女流俳人ぬい(杉田久女がモデル、遺族の訴えで名誉毀損に)
●火の記憶★★★★★...ボタ山の炎の記憶、警官と母の不倫
●断牌...代用教員上がりの異端考古学者・木村卓司(森本六爾がモデル)
●壺笛...女で身を滅ぼした考古学者
●赤いくじ...朝鮮での軍医と参謀長の女性を巡る確執
●父系の指...自伝的要素の強い作品だが、清張は創作だと言っていた
●その他に「石の骨」、「青のある断層」、「喪失」、「弱味」、「箱根心中」を収録

