【494】 ○ 三島 由紀夫 『午後の曳航 (1963/09 講談社) ★★★★ (○ ルイス・ジョン・カリーノ 「午後の曳航」 (76年/英) (1976/08 日本ヘラルド映画) ★★★☆)

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しっかりした心理・情景描写で、「通俗」を描いて飽きさせない。

午後の曳航0.jpg    午後の曳航 (新潮文庫) 新カバー.jpg午後の曳航 本.jpg  
単行本 〔'63年〕  『午後の曳航』新潮文庫(新旧カバー) 映画「午後の曳航」パンフレット「午後の曳航 [DVD]」 

 三島由紀夫が30代に書いた作品には、それぞれに三島独自の美意識や世界観が反映されているものの、外枠は「通俗」的に見えるメロドラマ風の作品が結構あるように思うのですが、 '63(昭和38)年(三島38歳)発表のこの作品は、そうした"メロドラマ風"作品群の中でも完成度の高い傑作とされているようです。

 前半部分の、少年の母で「陸(おか)の女」である横浜のブティックの女主人・房子と、少年が憧れる「海の男」二等航海士・竜二の、〈フランス・レストラン〉や〈港の見える丘公園〉などを舞台にした恋の描写に、「通俗」を描いて飽きさせない技術の高さを感じました。

 心理描写だけでなく、例えば房子が竜二の乗る船〈洛陽丸〉を初めて訪れた場面なども、船の内部の描写などが専門用語を交えしっかりしていて、「名詞を知らないことは描写において致命的である」というようなことを三島がどこかに書いていたのを思い出しました。

 13歳の少年の「大人」に対する屈折した感情を描いた青春小説という読み方も出来て(むしろそれがスジかも)、実際、少年とその仲間たちが為す、「海を捨てた船乗り」に対する"制裁"が後半のヤマですが、その前段としてある少年グループによる"猫殺し"は、猫を殺して次に人間をと...神戸の少年犯罪を連想させるものがありました(事象の類似もさることながら、その特異な加虐的心理の描写において)。

 そうした予見的?な面もある作品ですが、やはり全体としては、圧倒的な描写力そのものに、最も三島らしさを感じました。それと、横浜というちょっとハイカラーなバックグランド、これは谷崎潤一郎に通じるものがあるかも。

午後の曳航1.jpg この作品が海外でも評価を得たというのは、ジョン・ネイスンの名訳によって海外に紹介されたというのも大きいと思われますが、ギリシャ神話と重なるモチーフ(エディプス・コンプレックス)であるため、比較的分かり易かったというのもあるのではないでしょうか。

 ルイス・ジョン・カリーノ監督により映画化された「午後の曳航」('76年)は、原作に忠実に作られており、原作へのリスペクトが感じられました。一応イギリス映画ですが、日米英3か国の合作で、舞台は英国、主演のサラ・マイルズ(「ライアンの娘」('70年))は英国人でクリス・クリストファーソン(「アリスの恋」('74年)、「スター誕生」('76年))は米国人です(日本人は出てこない)。エディプス・コンプレックスがモチーフだと思って観ると、むしろこのように海外に舞台を置き換えた方が、われわれ日本人にとってもすんなり受け入れられ易いものに感じられるのかも。

 サラ・マイルズは好演。クリス・クリストファーソンは原作の船乗り・竜二よりやや線が細い感じでしょうか。クリス・クリストファーソンとサラ・マイルズが浜辺を歩く場面が印象的でしたが、作中の船乗り・竜二は身長165cmぐらいのがっしりした男で(三島自身は身長163cm)、この辺りはちょっとイメージが違うような感じがしました。「午後の曳航」 パンフレット

午後の曳航 チラシ.jpg062z.jpg「午後の曳航」 チラシ/サントラ盤(廃盤)
午後の曳航 サントラ盤.jpg

「午後の曳航」●原題:THE SAILOR WHO FELL FROM GRACE WITH THE SEA●制作年:1976年●制作国:イギリス●監督・脚本:ルイス・ジョン・カリーノ●製作:マーティン・ポール●撮影:ダグラス・スローカム●音楽:ジョン・マンデル●原作:三島由紀夫「午後の曳航」●時間:105分●出演:サラ・マイルズ/クリス・クリストファーソン/ジョナサン・カーン/マルゴ・カニンガム/アール・ローデス/ ポール・トロピア/ ゲイリー・ロック●日本公松竹セントトラル 銀座ロキシー.jpg松竹シネサロン.jpg開:1976/08●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:銀座ロキシー(79-12-16)(評価:★★★☆)●併映:「候補者ビル・マッケイ」(マイケル・リッチー)
松竹セントラル・銀座松竹・銀座ロキシ-(→松竹セントラル・銀座松竹・松竹シネサロン→松竹セントラル1・2・) 1952年9月、築地・松竹会館にオープン。1999年2月11日閉館。

 【1963年単行本[講談社]/1968年文庫化[新潮文庫]】

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