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著者の現代推理小説の中では、「理由」「模倣犯」を凌ぐ傑作。
『火車』 ['92年/双葉社]
『火車 (新潮文庫)』
ペーパーバック版 "火車―All she was worth"
1992(平成4) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」第1位。1993(平成5)年度・第6回「山本周五郎賞」受賞作。
休職中の刑事が遠縁の男に頼まれて、失踪した婚約者の女性を探すことになるが、彼女の過去は調べれば調べるほど闇に包まれている。
なぜこの主人公の女性は「自分を消す」ということにこれだけ執着し、またそこにどんな落とし穴があったのか―。
カード社会の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生を描いた傑作です。
宮部みゆき作品の中ではとりわけ社会派的色彩が濃いものですが、この作品で衝撃を受けたのは、主人公が最後の最後にしか現れず、セリフも一言もないという凝った造りであることです。
それでいて、主人公の情念がじわ〜っと伝わってきます。
著者の現代推理小説の中では『理由』('98年)、『模倣犯』('01年)と並ぶ傑作の部類で、むしろ『理由』も『模倣犯』もこの作品を超えていないかも知れないという気もします。
ところがこの作品は直木賞をとっていないのです。
『理由』で直木賞をとる前に、『龍は眠る』('91年)、『返事はいらない』('91年)、『火車』('92年)、『人質カノン』('96年)、『蒲生邸事件』('96年)と候補になりながら選にもれたものがありますが、個人的には、『火車』でとるべきだったと思います。
『火車』の直木賞落選の「選評」で、「重要人物が描けていない」という批評にはガックリきたという感じ。
明らかに主人公のことを指していますが、"自分を消した"女性が主人公なのですから...。
'94年に"2時間ドラマ"化されていて、「火車 カード破産の女!」というタイトルで『土曜ワイド劇場』のテレビ朝日開局35周年特別企画として放映されていますが、主人公の新城喬子(関根彰子)役の財前直見は原作同様、ラストシーンを除いてほとんど出て来ず、それでいてドラマ全体を支配している...。
原作の優れた点をよく生かしたドラマ化だったと思います。
「火車-カード破産の女!」 新城喬子(財前直見)
作家の倉橋由美子は、この小説を絶賛したうえで、ラストは「太陽がいっぱい」(パトリシア・ハイスミスの原作でなく、映画の方)に似ていると書いていますが(『偏愛文学館』('05年/講談社))、確かに。
「火車 カード破産の女!」●演出:池広一夫●制作:塙淳一●脚本:吉田剛●出演:三田村邦彦/財前直見/沢向要士/船越栄一郎(船越英一郎)/山口果林/角野卓造/森口瑤子/山下規介/大畑俊/吉野真弓●放映:1994/02(全1回)●放送局:テレビ朝日
【1998年文庫化[新潮文庫]】
