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時代のギャップも感じる反面、賞与や福利厚生に関しては先進的な考えが見られる。
ポケット文春 ['66年]/角川文庫 ['73年]
(表紙イラスト:柳原良平)/ソフトカバー新装版
本書を久しぶりに再読してみると、冒頭の「新入社員に関する12章」には「社会を甘くみるな」「学者になるな」「無意味に見える仕事も厭がるな」「出入りの商人に威張るな」「タダ酒を飲むな」「仕事の手順は自分で考えろ」「重役は馬鹿ではない」...etc.結構いいことが書いてありました。でも今になって思うに、こうしたことは、実際にしばらく仕事をしてみないと、実感としてはなかなかわからないかもなあとも。
今回読んだのは、角川文庫版('73年)の復刻新装版。実際に書かれたのは、昭和39('64)年の東京オリンピックの後ぐらいで、'66年に単行本(ポケット版)刊行されています。意外と古かった...。'73(昭和53) 年から'95(平成7) 年まで、毎年1月15日(成人の日)と4月1日に掲載されたサントリーの新聞広告に書いていた新成人・新入社員向けエッセイと、印象がダブっている部分もあったかも知れません。自分が在籍した広告代理店では、入社式の日にこの広告を読んだか新入社員に訊き、読んでいないと雷を落とす役員がいました(ある種、教育的効果を狙ったパフォーマンスなのだが)。山口瞳が亡くなったのは'95年8月で、今は同じく作家の伊集院静氏が書いています。
まだ、終身雇用が当然の時代で、長期雇用を前提にしているから、人間関係の大事さを力説することになるのではとも感じました(今も大事ですが)。一方で、BG(今のOL)に対しては厳しくなるのです。これは、結婚退社するから長期戦力にならないという、著者の不信感の表れともとれます。
社員が上司などに対する不平不満を言いながらも会社に守られていた時代のもので、今は会社が自分たちの雇用を守ってくれるのか、社員の方が会社そのものに対して不安を抱く時代なので、その辺りに多少(テーマによっては「かなり」)ギャップがあるのではと思います。それでも、不況という言葉が何度も出てきて、「会社は潰れぬと考えるな」とかあるのは、東京オリンピック後にあった短期間の不況と、執筆時期が重なるからではないかと思いますが、新卒入社した河出書房が倒産して寿屋(現・サントリー)へ転職したという、著者自身の経験からもくるものかも。
忘年会・新年会、社員旅行、社員割引きを会社の三大愚挙としていたり、賞与が実質生活給になっているのはおかしいとするなど、福利厚生や賃金・賞与制度については、かなり先進的な考えが展開されていたのが新たな発見でした。
【1966年単行本[文藝春秋新社]/1973年文庫化[角川文庫]/1996年ソフトカバー新装版[角川書店]】
柳原良平(やなぎはら・りょうへい、1931年8月17日 - 2015年8月17日)イラストレーター、漫画家、アニメーション作家、エッセイスト。2015年8月17日、呼吸不全のため横浜市内の病院で死去。84歳。