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読みやすい文章で、ミステリアスな味わいも。前年の豪雪地帯の取材がモチーフになっているのでは。
単行本 ['62年/新潮社]
『砂の女』 新潮文庫 〔旧版/新版〕
1962(昭和37)年・第14回「読売文学賞」受賞作。
安部公房(1924‐1993)の作品の多くは、現代社会に生きる人間の孤独とそこからくる焦燥感をテーマにしており、社会への適応原理を見失った(或いはそうした状況に突然置かれた)人間が安定状態を回復しようとしてますます孤独の深みに嵌まっていくというものが多いような気がします。
そのため安部公房の小説は、不条理の作家カフカの作品に模せられることが多く、代表作と呼ばれる作品には抽象的で難解なものが少なくないし、また「デンドロカカリア」の主人公の名が〈コモン君〉であったように、無国籍性というのも1つの特徴ではないかと思います。
そうした中で、砂丘地帯の村落共同体に迷い込み、「砂の穴」からの脱出を図る主人公を描いたこの作品は、現代人の孤独と焦燥感という他の安部作品と共通するテーマを扱いながらも、主人公が置かれた「不条理な状況」というのが日本的な「村社会」の性格を強く反映したものであったり、或いは日常生活的なリアリティを排しながらも、その「村社会」に生きる女性の言動や性の描写に風土的なリアリティがあったりし、また他の代表作に比べて読みやすい文章で、更にはミステリアスな味わいもあり、不思議と親和感のようなものを感じます。
満州の半砂漠的風土で幼年期を過ごした作者にとって、砂漠というのは割合イメージ的にリアルなものだったのではないかと推察できますが、「砂の穴」の上の世界と下の世界の断絶や、主人公が向き合うところとなる「砂の壁」のイメージは、この書き下ろし作品が発表された前年(昭和36年1月)に作者は新潟の豪雪を取材しており、その豪雪状況下での人々の暮らしがモチーフとして織り込まれたのではないかと個人的には思っています。
ラストでの主人公の心境の変化は、彼がこの「砂の穴」を脱出して「都会の砂漠」へ戻ることの必然性を見出せなくなっていることを示しており、これを成長と見ることも妥協と見ることもできるという点でも問題を孕んだ意欲作だったと思います。
【1981年文庫化[新潮文庫]】
