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「数式」と「阪神タイガース」。モチーフの組み合わせの新鮮さ。
『博士の愛した数式』['03年/新潮社]
['05年/新潮文庫]
『妊娠カレンダー』 ['91年/文藝春秋]
2003(平成15)年度・第55回「読売文学賞」受賞作ですが、第1回「本屋大賞」(1位=大賞)も受賞していて、こちらの方が記念すべき受賞という感じではないでしょうか。また、それにふさわしい本だと思いました(因みに、2003年から始まった、紀伊国屋書店の書店スタッフが選ぶベスト書籍「キノベス」でも第1位に選ばれている)。
シングルマザーの家政婦である主人公が派遣された家には、事故の後遺症で記憶が80分しか持たないという数学博士がいて、ある日、彼女に10歳の息子がいることを知った博士は、家へ連れてくるように告げる―。
映画にもなるなど話題になった作品であり、主人公と博士の心の通い合いが主に描かれているのだと思って読み始めましたが、途中から、博士の主人公の息子に対する愛情に焦点が当たっている感じがし、それを見守る主人公の視線の温かさ、主人公自身が癒されている感じがいいです。
映画「博士の愛した数式」('05年/監督・脚本:小泉堯史、主演:寺尾聰/深津絵里)
博士は80分しか記憶が持続しないわけだから、息子とは(主人公ともそうだが)毎日"初対面"の関係であるわけで、それだけに、博士の息子に対する愛情に深い普遍性を感じます。
一方で、(「海馬」を損傷したりすればそうした状態になるのは知られていることだが)新しい記憶はまったく博士の中ではつくられていないのか、結局は主人公のことも息子のことも翌日になればすべて博士の頭の中には何も残っていないのか、博士と過去の記憶を共有する(そのことを自負している)義姉との対峙において考えてしまいました。そもそも、記憶とは何か―。
以前に芥川賞受賞作の『妊娠カレンダー』('91年/文藝春秋)を読んで、文学少女版「ローズマリーの赤ちゃん」みたいに思え、芥川賞狙いとか言う依然に好みが合わず、あまりいいとは思わなかったのですが、いつの間にか力をつけていたという感じ。
『博士の愛した数式』は一種のファンタジーとも言える作品なのかもしれないけれども、「素数」「友愛数」「完全数」「オイラーの公式」といった数学的モチーフと'92年の阪神タイガースのペナントレースを上手く物語に取り込んでいて、この組み合わせの"新鮮さ"とそれぞれぞれの"深さ"には、大いに惹き込まれました。
『妊娠カレンダー (文春文庫)』 ['94年]
【2005年文庫化[新潮文庫]】
