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司馬遼太郎の『新選組血風録』、浅田次郎の『壬生義士伝』のネタ本。聞き書きの文体に、かえって生々しさが。
『新選組始末記 (中公文庫)』
.子母澤 寛 (1892-1968/享年76)
(カバー画:蓬田やすひろ)
子母澤寛の作品は以前に『勝海舟(全6巻)』('68年/新潮文庫)を読みましたが、司馬遼太郎と同じく新聞記者出身であるこの人の文章は、司馬作品とはまた異なる淡々としたテンポがあり、読み進むにつれて勝海舟の偉大さがじわじわと伝わってくる感じで、坂本竜馬や西郷隆盛といった維新のスター達も、結局は勝海舟の掌の上で走り回っていたのではないかという思いにさせられます(ただし文庫本で3,000ページ以上あるので、なかなか読み直すのは...)。
『勝海舟』 新潮文庫(全6巻)
一方この『新選組始末記』は、1928(昭和3)年刊行の子母澤寛の初出版作品で、作者が東京日日新聞(毎日新聞)の社会部記者時代に特集記事のために新選組について調べたものがベースになっており、作者も"巷説漫談或いは史実"を書いたと述べているように、〈小説〉というより〈記録〉に近いスタイルです。
とりわけ、そのころまだ存命していた新選組関係者を丹念に取材しており、その抑制された聞き書きの文体には、かえって生々しさがあったりもします。
『新選組始末記』 萬里閣書房 (昭和3年8月)
子母澤寛はその後、『新選組遺聞』、『新選組物語』を書き、いわゆる「新選組三部作」といわれるこれらの作品は、司馬遼太郎など多くの作家の参考文献となります(司馬遼太郎は、子母澤寛に断った上で「新選組三部作」からネタを抽出し、独自の創作を加えて『新選組血風録』('64年/中央公論新社)を書いた)。
子母澤寛は「歴史を書くつもりなどはない」とも本書緒言で述べていて、そこには「体験者によって語られる歴史」というもうひとつの歴史観があるようにも思うのですが、後に本書の中に自らの創作が少なからず含まれていることを明かしています。

近年では浅田次郎が『壬生義士伝(上・下)』('00年/文藝春秋)で『新選組物語』の吉村貫一郎の話をさらに膨らませて書いていますが、『新選組物語』にある吉村貫一郎の最後が子母澤寛の創作であるとすれば、浅田次郎は"二重加工"していることになるのではないかと...。
浅田次郎は「新選組三部作」に創作が含まれていることを知ってかえって自由な気持ちになったと言っていますが、それはそれでいいとして、むしろ、『壬生義士伝』において浅田次郎が「新選組三部作」から得た最大の着想は、この「聞き書き」というスタイルだったのではないかと、両著を読み比べて思った次第です。
【1969年文庫化[角川文庫]/1977年再文庫化[中公文庫]】
