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枠組みは重厚な企業小説だが、中身は随所に軽妙なタッチも。
『炎熱商人 (上) (文春文庫)』 『炎熱商人 (下) (文春文庫)
』 〔84年〕
1982(昭和57)年上半期・第87回「直木賞」受賞作。
フィリピンで木材の取引きに関わる商社マンたちの活躍を描いた長編小説で、中堅商社・鴻田貿易のマニラ事務所長・小寺和男、荒川ベニヤという合板メーカーから鴻田貿易に出向し木材の現地検品などを担当する石山高広、鴻田貿易マニラ事務所の現地雇用社員で日比混血児であるフランク・佐藤・ベンジャミン(佐藤浩)といった人物を軸に、彼らが建築業者や現地の材輸出業者と織り成す壮絶な商戦の模様を、佐藤の幼少期にあたる戦時中のマニラの軍事的事情などを交錯させつつ展開していきます。
枠組みは重厚な企業小説で、実際に現地で起きた邦人の受難事件に着想を得ての結末は、まさに非業の死というべきものですが、物語の中身は、佐藤と現地業者のやりとりなど随所に軽妙なタッチも見られ、そう言えば作者は「スチュワーデス物語」の原作者でもあったなあと。
個人的には、荒川ベニヤのある東京・荒川区の町屋という場所に馴染みがあり親しみを覚えましたが、石山の母・咲子と石山の漫才のような会話などはややサービス精神過剰な感じもしました。
この作品で作者は6回目のノミネートで直木賞を受賞しましたが、選考委員の1人だった池波正太郎などは、「東京の下町と江戸ッ子を売り物にする、歯が浮くような老女があらわれ、事々にブチこわしてしまうのは残念だった」と言っています。
登場人物が多すぎて出だしなかなか流れに乗れない面もありますが、後半の盛り上がりはエンタテインメントとしての魅力を充分発揮しており、トータルで見れば(パワーでねじ伏せている部分もあるものの)よく出来ている作品だと思いました。企業小説にとって「直木賞」というのはなかなかハードルが高いのでしょうか。
'84年にはNHKで、大野靖子の脚本でテレビドラマ化されていて(出演:緒形拳=小寺、松平健=石山、中条きよし=佐藤)、なかなか上手く作られているように思いました(かなり感情移入できた)。
石山役の松平健は熱血商社マンを好演していましたが、その時は、スーツがよく似合うのが意外な感じがしました(スーツのコマーシャルに出演する随分と前の話)。
「炎熱商人」●制作年:1984年●演出:樋口昌弘/平山武之●制作:土居原作郎●脚本:大野靖子●音楽:池辺晋一郎●出演:緒形拳/松平健/中条きよし/トニー・マベッサ/市原悦子/高峰三枝子/勝野洋●放映:1984/05(全2回)●放送局:NHK
【1984年文庫化[文春文庫(上・下)]】
