【624】 ◎ 水上 勉 『飢餓海峡 (上・下) [改訂決定版]』 (2005/01 河出書房新社) 《[オリジナル版] (1963/10 朝日新聞社)》 ★★★★★ (○ 内田 吐夢 「飢餓海峡 (1965/01 東映) ★★★★)

「●ま行の現代日本の作家」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1327】 湊 かなえ 『告白
「●あ‐か行の日本映画の監督」の インデックッスへ 「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ

洞爺丸事故を7年繰り上げた大胆さ。心筋梗塞後の作者がワープロ練習用に選んだ作品。

飢餓海峡 上.jpg 飢餓海峡下.jpg    飢餓海峡dvd.jpg  飢餓海峡1シーン.jpg
飢餓海峡(改訂決定版) 上』『飢餓海峡(改訂決定版) 下』〔'05年〕 『飢餓海峡 [DVD]』(三國連太郎(中)/伴淳三郎(左)/高倉健(右))

飢餓海峡(ポスター).jpg 昭和22年秋、台風のため青函連絡船・層雲丸の転覆事故が起き、必死の救助活動が行われる中、3人の復員服姿の男が台風で不通になった列車から飛び降り、転覆事故の混乱に紛れ、本土へ向けて夜の海峡を船を漕いでいた。台風が去った後、転覆した層雲丸の乗客の遺体が次々と収容されるが、引取り人のいない遺体があり、収容遺体は実際の乗客数より2体多かった。一方、同じ台風の中、函館市内て質屋が全焼する火事があり、焼け跡から質屋一家の他殺体が発見され、質屋一家強盗殺人事件と、転覆事故の乗船者数より多い2体の遺体が結びついた―。

飢餓海峡2.jpg 函館署のベテラン刑事の弓坂は、亡くなった男2人と行動を共にしていた犬飼太吉なる大男の行方を粘りつよく捜索を続け、太吉と思われる男と一夜を共にした女郎、杉戸八重の存在を突き止める―。

 水上勉(1919‐2004)(ミナカミベンと呼ぶ人もいるが本来は「みずかみ・つとむ」と読む)の代表作で、内田吐夢(1898‐1970(うちだ・とむ)監督による映画化作品も、様々なアンケートでいつも歴代邦画のベストテンに入っている力作でした。

飢餓海峡.jpg 主人公・犬飼役の三國連太郎の生涯最高の演技に加えて、薄幸の女性・左幸子や刑事役の高倉健の演技もいいですが、高倉健と共に捜査にあたる元刑事役の伴淳三郎の演技がとてもいいです。

「飢餓海峡」●制作年:1965年●制作:東映●監督:内田吐夢●脚本:鈴木尚之●撮影:仲沢半次郎●音楽:冨田勲●時間:183分●出演:三國連太郎/左幸子/伴淳三郎/高倉健/加藤嘉/沢村貞子/藤田進/風見章子/三井弘次/風見幸子/亀石征一郎/曾根秀介/安藤三男●劇場公開:1965/01●最初に観た場所:銀座並木座 (87-10-18) (評価★★★★☆) 
 
 以前に読んだときは、貧困から這い上がる男のパワーとその結末の哀しさが強く印象に残りましたが、「改訂決定版」('05年/河出書房新社(上・下))で再読し、終盤の主人公の更正施設への"寄付"の組み入れ方なども改めて良くできているなあと思いました(結果的にはこの寄付によって、主人公の犬飼は...)。 

 本作発表当時、すでに人気作家だった作者ですが、"贖罪"というテーマが、晩年の宗教的回帰の「予兆」としてこの作品の中に既にあったともとれます。

虚無への供物.jpg 岩内大火というのは本当に洞爺丸の転覆事故と同じ日に起きたのだと知りませんでした。共に、昭和29年9月の台風15号の影響を受けての惨事ですが、2つの事件からよくここまで構想したものだと驚きます。

 洞爺丸の転覆事故をモチーフにしたものでは、中井英夫『虚無への供物』がありますが、『虚無への供物』が歴史どおり昭和29年の出来事としてこの事件を扱っているのに対し、『飢餓海峡』では岩内大火と併せて7年繰り上げて昭和22年の出来事としているわけで、その大胆な"柔軟性"にも改めて感心させられました。 
 『虚無への供物』 講談社文庫

事件.jpg 純文学作家による推理小説の最高峰として、テーマは異なりますが大岡昇平『事件』とこの作品を挙げたいと思います。
 ただし、前者は〈裁判小説〉、後者は〈社会派サスペンス小説〉と言った方がよいかもしれませんが...(『虚無への供物』が正統派ミステリーと言えるかどうかは別として、少なくとも『事件』も『飢餓海峡』も、一般的な推理小説とはかなり異なるタイプの作品です)。

 河出書房新社の「改訂決定版」は、仮名使いだけでなく、文章そのものにかなり手を加えていますが、筋立ての変更はありません。
 作者は'89(平成元)年、70歳の時に心筋梗塞で倒れ、リハビリとしてワープロに挑戦し、"入力練習用"に選んだのがこの「飢餓海峡」だったということです(亡くなったのは「改訂決定版」出版の前年('04(平成16)年)で85歳でした)。

 【1963年単行本(全1巻)・1978年改訂版(全1巻)[朝日新聞社]/1964年単行本(全1巻)・2005年改訂決定版(上・下)[河出書房新社]/1969年文庫化(全1巻)・1990年文庫改訂(上・下)[新潮文庫]】

       



ブログランキング・にほんブログ村へ banner_04.gif e_03.gif


 

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2007年5月 5日 20:01.

【623】 ○ 三浦 しをん 『まほろ駅前多田便利軒』 (2006/03 文藝春秋) ★★★★ was the previous entry in this blog.

【625】 ◎ 宮城谷 昌光 『孟嘗君 (全5巻)』 (1995/09 講談社) ★★★★☆ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 5.01