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正統派の抒情文学。「泥の河」と、その映画化作品にはグッときた。
『螢川』(筑摩書房)
『蛍川 (角川文庫)』新版・旧版(「泥の河」収録)
単行本『螢川』の刊行は'78年で、太宰治賞の「泥の河」と芥川賞の「蛍川」の中篇2作を所収しています。
「螢川」は思春期を、「泥の河」は少年期を扱っていますが、30歳で書いたというわりには、抒情性豊かな正統派文学に仕上がっているように思えました(さすが、後に芥川賞の選考委員になるだけのことはある?)。
それぞれの舞台となる大阪と富山は、作者が5歳から9歳まで大阪に育ち、その後父親の仕事の関係で一時富山に移り住んだことに符号します。
彼の家庭は、父親の事業の失敗などにより惨憺たるものであったらしいけれど、そうしたことが、大学受験浪人のときに海外文学に耽溺する契機となり、作家・宮本輝を形成していったのではないでしょうか。
「川」は流転の象徴であり、作者の小説には、運命に翻弄される人々が時に生々しく描かれています。
そうした中、芥川賞作品の「螢川」は、ホタルを少女に見せようとする少年の思いを透明感をもって描こうとしているものの、その過程がやや不自然で、「性の目覚め」のようなものがテーマであるとは言え、甘すぎるロマンチシズムを感じました(ラストはいいんだけれど...)。
一方、「泥の河」の方は、下町の少年と、錨船に住む母子との交流と別れを描いたもので、こちらの方が主要人物の年齢が低いせいか、鼻の奥にツンとくるような、ストレートに切ない読後感を持てました。

「泥の河」は'81年に小栗康平監督で映画化されましたが、原作の"原色の街"のイメージに反して映画は白黒映画で、それがかえって良く、昭和31年の大阪下町のひと夏をノスタルジックに描いていました。
映画「泥の川」タイアップ・カバー版(角川文庫)と映画の1シーン
蟹に油を塗って火をつけ遊ぶ2人の少年が、船べりを逃げる蟹を追って眼にしたものは―、ラストの「きっちゃーん」という少年の呼びかけに応えることなく出て行く"船"―等々。
夏の強い日差しを表すコントラストの強い画面や、子ども目線でのカメラ位置などの効果的な技巧が窺え、出演者の演技もベテラン、子役ともになかなか良かったです。特にラストはグッときます。
登場場面が数カットしかなかった加賀まりこが「キネマ旬報助演女優賞」を受賞しましたが、確かに情感たっぷりの演技ぶり。但し個人的に思うに、一番上手かったのは子役達ではなかったかと。
この映画の子役の演技にはスティーブン・スピルバーグも感嘆し、演出の秘密を知ろうとして来日時に小栗康平に面会を求めたそうです。

「泥の河」●制作年:1981年●監督:小栗康平●脚本:重森孝子●撮影:安藤庄平 ●音楽:毛利 蔵人●原作:宮本輝●時間:105分●出演:田村高廣/藤田弓子/朝原靖貴/桜井稔/柴田真生子/加賀まりこ/殿山泰司/芦屋雁之助●劇場公開:1981/01●配給:東映セントラル●最初に観た場所:日比谷・第一生命ホール(81-05-22)●2回目:池袋・テアトル池袋(82-07-24)(併映:「駅 STATION」(降旗康雄))●3回目:キネカ大森(85-02-02) (評価★★★★☆)
旧・第一生命ホール 1952年9月15日、第一生命館6Fにオープン、1989年閉館。2001年11月、晴海アイランド・トリトンスクエアに2代目第一生命ホールオープン
キネカ大森 1984年3月30日、西友大森店内に都内初のシネコンとしてオープン(3スクリーン)
【1978年単行本[筑摩書房(『螢川』)]/1980年文庫化[角川文庫(『螢川』)]/1986年再文庫化[ちくま文庫(『泥の河・螢川・道頓堀川』)]/1994年再文庫化・2005年改版[新潮文庫(『螢川・泥の河』)]】


