【639】 ○ 吉村 昭 『魚影の群れ (1983/07 新潮文庫) 《 海の鼠 (1973/01 新潮社)》 ★★★★ (△ 相米 慎二 「魚影の群れ (1983/10 松竹富士) ★★☆)

「●よ 吉村 昭」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1347】 吉村 昭 『漂流
「●さ‐な行の日本映画の監督」の インデックッスへ 「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ

動物パニック映画のようで、抑制の効いた迫力「海の鼠」。映画よりずっといい「魚影の群れ」。

魚影の群れ 新潮文庫.jpg 魚影の群れ 新潮文庫2.jpg 『魚影の群れ』 新潮文庫 〔83年〕 海の鼠.jpg 宇和海地方 鼠駆除事業報告書 [昭和30年]

 吉村昭(1927‐2006)の動物をモチーフとした小説4編(「海の鼠」「蝸牛」「鵜」「魚影の群れ」)を所収していますが、'73年の単行本刊行時、この中で最も長い冒頭作の「海の鼠」が本のタイトルだったのが、'83年の文庫化に際して、巻末の「魚影の群れ」が文庫タイトルになったのは、同年、映画「魚影の群れ」が公開されたためでしょう。

 「海の鼠」は、愛媛・宇和島沖のある島で台風被害の後に鼠が大量発生し、それを駆除しようとする役場の担当係長をはじめ村人たちの凄絶な闘いを描いたものですが、まさに動物パニック映画みたいな感じで、ただし、それが記録文学風に書かれているだけに(台風も鼠被害も実際にあったものを小説に組み入れている)、抑制が効いてかえって迫力があります。

 殺鼠剤を撒いても天敵(青大将)を放しても鼠は増え続け、さらに新たな殺鼠剤、新たな天敵を投入してもダメ、農作物は全滅し島民は減り続け―と、状況は深刻化し、読んでいて恐ろしさもありますが、一方で天敵動物によせる人々の期待に反し、動物たちの思わぬ習性により次策を講じることを余儀なくされるという繰り返しが、何か滑稽だったりもします(鼠一匹を捕食したら満腹になり寝てしまう蛇とか)。

 「魚影の群れ」は、妻に去られ娘と2人で暮らす青森・大間のマグロ猟師が、娘に懇願されて娘の恋人を船に乗せるも、男は娘の恋人にうち解けず―、という感じで展開していく物語で、マグロ釣り漁の活写はさすがですが、全体としては、動物小説と言うよりヘミングウェイの「老人と海」にも通じるような人間ドラマ。

魚影の群れ.jpg魚翳の群れ 夏目雅子.jpg 「セーラー服と機関銃」('81年)の相米慎二(1948‐2001/享年53)が監督し(この人の「台風クラブ」('85年)は良かった)、緒形拳、佐藤浩市(新人としてクレジットされていたと思う)らが出ていましたが、大間漁師を演じた緒形拳はともかく、娘が夏目雅子(1957-1985/享年27)、妻が十朱幸代で、キレイ過ぎて猟師の家族に見えないのが難であるのと、原作にはない人情ドラマを盛り込み過ぎたために間延びし、ラストも少し変えてしまってあるのが今一つ好きになれない―。

 原作は、文庫本70ページほどの中篇で、映画のようにだらだら、べとべとしておらず、男臭さと言うより、男の生き方の不器用さや侘びしさが滲む佳作です。

 映画「魚影の群れ」1983 予告編

「魚影の群れ」●制作年:1983年●監督:相米慎二●脚本:田中陽造●音楽:三枝成章●原作:吉村昭「魚影の群れ」●時間:135分●出演:緒形拳/夏目雅子/佐藤浩市/十朱幸代/矢崎滋/三遊亭円楽●劇場公開:1983/10●配給:松竹富士●最初に観た場所:テアトル新宿 (84-02-12)(評価★★☆)●併映「居酒屋兆治」(降旗康男)

 【1973年単行本〔新潮社(『海の鼠』)〕/1983年文庫化〔新潮文庫〕】

  



ブログランキング・にほんブログ村へ banner_04.gif e_03.gif


About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2007年5月19日 23:27.

【638】 △ 横山 秀夫 『真相』 (2003/05 双葉社) ★★★ was the previous entry in this blog.

【640】 ○ 和田 誠 『倫敦巴里』 (1977/08 話の特集) ★★★★ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 5.01