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近代人の自己からの疎外を強烈に描いていて、常に"今日的"な作品。
『変身 (新潮文庫)』 〔旧版/新版〕
電子書籍版 『変身』 Franz Kafka (1883‐1924/享年40)
1915年にドイツ語で出版されたユダヤ系チェコ人作家、フランツ・カフカ(1883‐1924)の最も有名な作品で、個人的には、「毎日小学生新聞」の「世界のSF」みたいなコーナーでダイジェスト版で読んだのが最初でした(レイ・ブラッドベリなどと一緒に紹介されていた)。
Kafka Die Verwandlung 1915
ある朝、グレゴール・ザムザ(新潮文庫ではグレーゴル・ザムザ)が目覚めたら、自分が寝床の中で1匹の巨大な虫に変っているのを発見するという誰もが知る書き出しです。
新潮文庫の解説で、この物語の不思議な点として、当然のことながら、まず弟1に、ザムザが虫に変身したことを挙げていますが (この「虫」というは作者の記述からすると(新潮文庫・高橋義孝訳)、一般にイメージされている"イモ虫"ではなく"ムカデ"のようなものらしい)、
弟2に、彼の変身を周囲の人は誰も不審に思っていないということ、
弟3に、ザムザがなぜ変身したかを作者がまったく説明していないこと、
を挙げていて、もっともだと思います。
とりわけ2番目に関しては、ザムザ自身が、自分がムカデに変身したことを不審に思っていないというのが不思議で、巨大な虫になってしまってビックリしたとかどうしてこうなったのか考えるという話にはなっておらず、まず、保険外交員としての自分の仕事のことや会社における地位のことを心配していて、この点において近代人の「自己からの疎外」を鋭く描いていると思います。
ムカデになっても、そのこと自体について大きなパニックに陥るのではなく、会社の仕事が遅れることを憂い、不況下のサラリーマンの如く、失業することの心配しているのが何とも哀しい。
父親が投げつけたリンゴが皮膚にめり込んで衰弱死に至る後半部分は、カフカのファーザー・コンプレックスが色濃く出ていますが、最後は家族全員が彼が亡きものになればいいと思うようになり、そこには、家族すらも愛情的繋がり以上に社会的役割に過ぎず、その役割が果たせなければ家族という"社会"から疎外され、家族によって抹殺されてしまうという、人間と人間の繋がりや人間存在の脆弱さを浮き彫りにしているように思えました。
労災保険局の職員だった(結局、死の2年前までそこに勤務していた)カフカがこの作品が書いたのは初版刊行を遡ること数年の1912年で、和暦で明治45年ですが、古さを感じさせず、むしろテーマ的には常に"今日的"な作品であると思います。
【1952年文庫化・1985年改版[新潮文庫]/1968年再文庫化・1979年改版[角川文庫]/1973年再文庫化[旺文社文庫(『変身 他』)]/1978年再文庫化[講談社文庫(『変身・判決・断食芸人』)]/1979年再文庫化[岩波文庫(『変身 他一篇』)]/2004年再文庫化[岩波文庫(『変身・断食芸人』)]/2007年文庫化[講談社英語文庫]/2007年再文庫化(新装版)[角川文庫]/2007年再文庫化[光文社古典新訳文庫(『変身、掟の前で 他2編』)]】
