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親子に思えたが実は...。技巧を超えた深みがある文庫で約50ページの中篇「人間の運命」。
『人間の運命 (角川文庫)』
『人間の運命 (1960年)』 角川文庫
1956年の発表のロシアの作家ミハエル・ショーロホフ(1905‐1984)の後期作品。角川文庫版では、表題作のほかに、1925年に処女短編集「ドン物語」としてまとめられた彼の初期作品「子持ちの男」「るり色のステップ(曠野)」など4篇を所収。
ショーロホフの『静かなドン』は、今まで読んだ海外文学作品の中でもかなり長い部類の小説で(岩波文庫で全8巻、3,000ページ近くある)、読んでいるうちに誰が皇帝軍で誰が革命軍かわからなくなってきて、途中やや革命の英雄列伝っぽいような書き方もあり、少し退屈もさせられましたが、でもラストだけは、「武器よ、さらば」とはこの小説につけるべきタイトルではないかと思わせるような印象深いものでした(ノーベル文学賞受賞のこの作品がショーロホフ個人の純粋な創作でないという話は、すでに定説のようです)。
『静かなドン 全8巻』 岩波文庫
『開かれた処女地』(こちらの方も全4巻と長い。アレクサンドル・イワノフ監督の映画化作品も観たがやはり長かった)とともに、大長編作家のイメージがありますが、本書はそんなショーロホフの中短編集で、「人間の運命」も100枚弱(文庫で約50ページ)の中篇です。
旅人が船着場で見かけた背の高い猫背男と少年の2人連れは、一見親子のように思えたが実はそうではなく、船が着くまでの2時間、一緒に煙草でも吸いながら船を待ちましょうという男の誘いで始まった彼の身の上話は、第二次世界大戦での重苦しく哀しい思い出であり、また驚くべきものでもあった―。
戦場の砲火、敵将の尋問、捕虜生活などすべての苦難に敢然と耐えた、その拠り所であったものをすべて失った(正確には"失っていた")男にとって、予期せぬ"救い"となったのが自らの心から発する愛であり、それはそうした運命に翻弄された者しか持ち得ない再生の契機でもあったことを思い知らされます。
物語のツボを押さえているという感じですが、技巧を超えた深みがあり、人が何によって生きるかを、普遍性をもって示している作品だと思います。
長編以外は退屈な社会主義レアリズム小説しか書いていない作家だなどの批評もありますが、そんなことないでしょう。
多分、盗作疑惑に加えて、この作家が途中から体制側のスポークスマンのような立場になってしまったこともあり、評価が厳しくなるのでは。
尚、この作品は、「戦争と平和」のセルゲイ・ボンダルチュク監督によって'59年に映画化され(ボンダルチュク自身が主演)、'04年にはDVD化もされています。
映画 「人間の運命」 ('59年・ソ連/セルゲイ・ボンダルチュク監督・主演)
【1960年文庫化・2008年改版[角川文庫]】
