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反体制文学だが、「人間」と「労働」の関係を考えさせられた。
『イワン・デニーソヴィチの一日』 新潮文庫〔旧版/新版〕/「イワン・デニーソヴィチの一日」チラシ・ビデオ(絶版)
1962年に発表されたロシアの作家アレクサンドル・ソルジェニーツィンの処女作『イワン・デニーソヴィチの一日』は、自らの収容所体験を基に、旧ソビエトのラーゲル(収容所)で強制労働に従事する主人公の1日を描いた作品で、世界的ベストセラーになりました。
主人公は普通の農民でしたが、大戦中にドイツ軍のスパイと疑われて、10年の強制労働を命じられてラーゲル送りとなり、小説はその8年目のある日(と言っても特別な1日ではない)を描いています。
妻子と離れ極寒の地で、名前ではなく番号で呼ばれ、有刺鉄線に囲まれ警察犬と看守に見張られながら、ひたすらブロック積みの作業に従事する―。こうした端的な"使役される状況"の中で、主人公が、ブロック作業を効率的かつ完璧に行うことにいつしか没頭し、その出来ばえに達成感を感じる場面には、「人間」と「労働」の関係を考えさせられました。
「人はパンのみにて生きるにあらず」という言葉がありますが、一方でこの小説には"パン"の有難さが滲み出ていて、主人公も、作業場のコックをごまかして昼食の雑炊を1人前多くせしめたことに、大いなる満足感を得ています。
そして、営倉にも入れられずに済んだ、「ほとんど幸福とさえ言える一日」を終える―。
反体制文学なのですが、この小説を21世紀に読むことがアナクロニズムだとは思いません。
過酷な境遇を自分の中で"日常化"してしまうことで生き続ける「人間」を描いていて、それを"麻痺"として捉えるのではなく、人間の根源的な生命力として捉えている点に、普遍性(または普遍的な問題の提起)があるように思えます。
'71年に英国で映画化されましたが、原作に忠実である分少し地味にならざるを得ず(劇的な変化がないことがテーマの1つなのですが)、個人的に注目した「労働」に関する部分よりも、1日を終えた安らぎのようなものにウェイトが置かれて描かれていたような気がしました。
文芸座の「ソビエト映画祭」のような企画で観たのですが、スタッフもキャストもほぼ全員イギリス人なので(当然、英語で喋っている)、本場モノに混じるとやはり見劣りがするような(それを言うと、「ドクトル・ジバコ」なども「所詮アメリカ映画じゃないか」ということになってしまうのだが)。
One Day In The Life Of Ivan Denisovich (1977/UK)
「イワン・デニーソヴィチの一日」●原題:ONE DAY IN THE LIFE OF IWAN DENISOVICH●制作年:1971年●制作国:イギリス●製作・監督:キャスパー・リード●音楽:アーン・ノーディム●原作:アレクサンドル・ソルジェニーツィン●時間:100分●出演:トム・コートネイ/アルフレッド・バーク/ジェームズ・マックスウェル/エリック・トンプソン/エスペン・スクジョンバーグ●日本公開:1974/06●配給:NCC●最初に観た場所:池袋文芸坐(79-11-16) (評価★★★)●併映「エゴール・ブルイチョフ」(セルゲイ・ソロビヨフ)
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1970年にノーベル文学賞を受賞し、報道陣に語るアレクサンドル・ソルジェニーツィン氏。スウェーデン、ストックホルム。(AP通信)
【1963年文庫化・2005年改訂版[新潮文庫]/1971年再文庫化[岩波文庫]】


アレクサンドル・ソルジェニーツィン 2008年8月3日、モスクワ郊外の自宅で急性心不全のため死去。89歳。