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青春や人生を無駄に過ごした絶望感を描く。映画化作品の方もいい。
映画 「ワーニャ伯父さん」 ポスター 『かもめ・ワーニャ伯父さん (新潮文庫)』 (旧版/新版)
1896年発表の「かもめ」と1899年発表の「ワーニャ伯父さん」は、ともに19世紀末の帝政ロシアの田園を舞台としたアントン・チェーホフ(1860‐1904)の戯曲で、「かもめ」は演劇女優の夢を抱く娘ニーナがヒロイン、「ワーニャ伯父さん」は知的世界で活躍する義兄のために永く農園を守ってきた初老の男ワーニャが主人公です。
「かもめ」の女主人公ニーナは、自分を愛してくれる青年トレープレフ(この作品の悲劇的な男主人公)を諦めてまでも女優の道を選ぼうと有名な作家トリゴーリン(作者がモデルか?)の下に走りますが、作家の態度がはっきりせず夢破れて実家に帰ります。
一方ワーニャ伯父さんは、大学教授を退官した義兄が都会生活の中で利己的な俗物になってしまったことを知り、教授の若い妻への思慕もはかなく破れ、絶望と憤怒にかられて彼を射殺しようとしますが―。
両作品とも、貴重な青春、貴重な人生を無駄に過ごしたということに気づいたとき、人はどうなるかということが残酷なまでに描かれています。
しかし、これらの作品の主人公たちは精神の極端な緊張状態に置かれるため、彼らの夢や希望が危機にさらされているのに、彼ら自身はまるで喜劇の人物に見え、そのため、チェーホフ自身もこれらの戯曲を喜劇と呼んでいます(「かもめ」には"四幕の喜劇"という副題がある)。
「チェーホフ・魂の仕事」('02年/国立劇場)ポスターより アントン・チェーホフ
この2作品はやはり外観的には悲劇だと思いますが、主人公の内面においてその結末は明暗を分けている感じで、若いニーナの方は、田園に戻ることで自分を見つめ直し、自身の再生と自由を確信しますが(女性宇宙飛行士テレシコワの「私はかもめ」は、この時のニーナの台詞)、初老のワーニャ伯父さんにはもう何も残されておらず、作品としてより深い虚無感に覆われています。医者への愛に同じく破れ農園に残ることになった姪ソーニャの、彼に対する優しさだけが救いでしょうか。

ともに'70年に旧ソ連で映画化されていて、監督は「かもめ」がユーリー・カラーシク、「ワーニャ伯父さんが」がアンドレイ・ミハルコフ=コンチャロフスキー(ニキータ・ミハルコフ の兄)。元が戯曲なので原作と映画の違和感が無く、しっとりとした情感が味わえます。
映画でニーナを演じたリュドミラ・サベーリエワ(ロシア映画「戦争と平和」の主演女優で、「ひまわり」でソフィア・ローレンがマルチェロ・マストロヤンニを訪ねていったときに、彼の傍にいた女性)、ワーニャ伯父さん役の名優インノケンティ・スモクトゥノフスキー(1925-1994)の演技は、いずれもロシア映画史上に残る素晴らしいものでした。

「チェーホフのかもめ」●原題:EHAIKA●制作年:1971年●制作国:ソ連●監督:ユーリー・カラシク●撮影:ミハイル・スースロ●原作:アントン・チェーホフ●時間:100分●出演:リュドミラ・サヴェーリエワ/ウラディーミル・チュトベリコフ●日本公開:1974/11●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:池袋文芸坐(79-11-09) (評価 ★★★★☆)●併映:「ワーニャ伯父さん」(アンドレ・ミハルコフ=コンチャロフスキー)
ビデオ「かもめ」(絶版)より
 (1970).jpg)
「ワーニャ伯父さん」●原題:DYADYA VANYA●制作年:1971年●制作国:ソ連●監督・脚本:アンドレイ・ミハルコフ=コンチャロフスキー●原作:アントン・チェーホフ●時間:100分●出演:インノケンティ・スモクトゥノフスキー/イリーナ・ミロシニシェンコ/セルゲイ・ボンダルチュク●日本公開:1972/09●配給:ATG●最初に観た場所:池袋文芸坐(79-11-09) (評価 ★★★★★)●併映:「チェホフのかもめ」(ユーリー・カラシク)
「ワーニャ伯父さん」DVD (russia)
因みに『ワーニャ伯父さん』は、『伯父ワーニャ』のタイトルで1927(昭和2)年7月刊行の岩波文庫の創刊ラインアップに入っており(中村白葉:訳)、当時から名作の定番だったということになりますが、戯曲ということでの親しみ易さもあったのではないでしょうか(チェーホフ作品は『桜の園』も同じく創刊ラインアップにある)。
この岩波の旧版も以前所持していたのですが、どこかへいってしまった...。'06年に『岩波文庫創刊書目23冊』として復刻刊行されていますが、"23冊セット販売"であるため、原則バラでは買えません。
岩波文庫創刊書目[復刻]全23冊 ['06年]
映画「ワーニャ伯父さん」


ビデオ「ワーニャ伯父さん」(絶版)より