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ミステリアスに交錯する2人の実業家の運命。テレビ映画版もお薦め。
『ケインとアベル 上・下 新潮文庫
』 ['83年]
"Kane & Abel"
1979年に発表されたイギリスの作家ジェフリー・アーチャー(Jeffrey Howard Archer)の長編。
アーチャーの作品は、『百万ドルをとり返せ!』(Not a Penny More, Not a Penny Less '77年発表/新潮文庫)のようなコン・ゲーム(Confidence Game)作品、つまり信用詐欺をユーモラスに描いた中編や、『十二本の毒矢』(A Quiver Full of Arrows '80年発表/新潮文庫)のようなO・ヘンリーを髣髴させる洒落た短編集も楽しいけれど、こうした長編もかなりいいです。
本書の続編にあたる『ロスノフスキ家の娘』(アベルの娘がケインの長男と結婚して米国初の女性大統領をめざすというスゴイ筋書き)や、同じく政界トップの座を主人公たちが競う『めざせダウニング街10番地』なども楽しめました。
特に本書は2人の実業家を描いたビジネス小説ながら、20世紀初頭から中盤、後半にかけての欧米の時代背景や歴史的事件が巧みに盛り込まれていて、中短編とはまた異質の重厚さを持つものとなっています。
そして重厚なだけでなく、著者のストーリー・テラーとして才能も存分に発揮されています。
ボストン金融界の名門出身のウィリアム・ケインと、貧しいポーランド移民の子からホテル王にのし上がるアベル・ロスノフスキ。同じ日に生まれた対照的なこの2人の実業界における凄まじい対立と、本人たちも知らない過去の出来事も含めたミステリアスに交錯する運命を描いて、読み手を飽きさせることがありません。
Corgi Books 〔'86/UK〕

『百万ドルをとり返せ!』も『ケインとアベル』も共にテレビ映画化されていてどちらも観ましたが、「ケインとアベル」は力作で(ピーター・ストラウスがアベル、「ジュラシック・パーク」のサム・ニールがケインを好演)、通しで5時間を超える大作ですが最後まで飽きさせません(過去にNHKで放映され、今でもたまに民放やCS放送などで放映されることがあるが、日本語版ビデオは絶版に)。
ラストの2人が偶然道で出会うシーンが、原作の情感を損なわずに描かれていて、そこに至るまでの作りこみも原作からの期待を裏切らないものでした。
「ケインとアベル/権力と復讐にかけた男の情熱」(「ケインとアベル/愛と野望に燃える日々」)●原題:KANE AND ABEL●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:バズ・キューリック●脚本:ロバート・W・レンスキー●撮影:マイク・ファッシュ●音楽:ビリー・ゴールデンバーグ●原作:ジェフリー・アーチャー●時間:312分●出演: ピーター・ストラウス/サム・ニール/デヴィッド・デュークス/ヴェロニカ・ハーメル/ケイト・マクニール/ ロン・シルヴァー/ジル・アイケンベリー /アルバータ・ワトソン/リチャード・アンダーソン/クリストファー・カザノフ●日本公開:1994/05 (NHK‐BS2) (評価:★★★★)●テレビ映画

永井 淳(ながい・じゅん=翻訳家、本名須藤隆〈すどう・たかし〉2009年6月4日、間質性肺炎で死去、74歳。