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業界小説だが、多様な登場人物とスピーディでサスペンスフルな展開で楽しめる。
『ホテル 上 ・ 下
』 新潮文庫
Arthur Hailey (1920-2004/享年84)
1965年原著発表のイギリス人作家アーサー・ヘイリー(Arthur Hailey, 1920‐2004)の小説で、アメリカ南部の老舗ホテルを舞台にホテル業界を描いた長編小説(この人は途中でアメリカに移住し、活動の場はほとんどアメリカ)。
ニューオーリンズ最大のホテル、セント・グレゴリーは、老オーナーの放漫経営で赤字を抱え、他のホテルチェーンの総帥から買収攻勢を受けており、従業員の士気も下がっている、そんな中で、若い副支配人ピーター・マックダーモットは精力的に奔走する―。
従業員も従業員なら泊り客も泊まり客で、チップをピン撥ねするボーイ長、スィートルームでレイプ騒ぎを起こす金持ちの息子、轢き逃げ事件のもみ消しを図る公爵夫妻と彼らを脅迫するホテルの警備主任、ホテル専門の泥棒...etc.、副支配人ピーターの対応がすべて事後処理にならざるを得ないのがちょっとどうかなという気もしますが、ホテルの裏側をよく取材していると感じました。
黒人医師の宿泊をホテル側が拒否してもめるといった、公民権運動時代の名残り的な話もありますが、その後多く現れるホテルを舞台とした小説、コミック、ドラマなどの原型が、この小説には詰まっていると思えました。

この小説は作者のデビュー作ではないですが出世作と言え、その後、映画化作品もヒットした『大空港』('68年)(「エアポート'75」もこの人の原作)や、『自動車』('71年)、『マネー・チェンジャーズ』('75年)、『エネルギー』('79年)、『ストロング・メディスン』('84年)、『ニュース・キャスター』('90年)と次々に発表しており、それぞれ、航空・自動車・電力・医療・放送といった業界の研究本の小説版としても読めます(『自動車』は、パブリッシャーズ・ウィークリーのアメリカ・ベストセラー書籍(小説/フィクション)の年間トップ10ランキングの'71年の1位、『マネー・チェンジャーズ』は'75年の2位)。
ただし、作品全般に小説としては登場人物などがややパターン化傾向にあり、そうした中ではこの作品は、登場人物が比較的バラエティに富み、ある週の月曜から金曜までの出来事としてのスピーディな展開が(謎の老人アルバート・ウェルズの正体はややご都合主義ともとれるが)大いにサスペンスフルで面白く(この人は、『殺人課刑事』('97年)という推理小説も書いている)、また、他の作品が問題解決型なのに対し、結末にカタストロフィが仕組まれているのも本書の特徴です。
M&A的な話が織り込まれ従業員のモチベーションに関することなどもとりあげられていて、企業小説が好きな人はお薦めですが、そうしたものをあまり読まない読者にも充分楽しめる内容です。
【1970年単行本〔講談社/ウィークエンド・ブックス〕/1974年文庫化〔新潮文庫(上・下)〕】
