【679】 ○ アーサー・ヘイリー (高橋 豊:訳) 『ホテル (1970/06 講談社) ★★★★ (○ ジョージ・シートン (原作:アーサー・ヘイリー) 「大空港」 (70年/米) (1970/04 ユニバーサル映画) ★★★☆)

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業界小説だが、多様な登場人物とスピーディでサスペンスフルな展開で楽しめる『ホテル』。

ホテル 上巻.jpg ホテル下巻.jpg Arthur Hailey.jpg   大空港 .jpg 大空港6273b631.jpg
ホテル 上 』 新潮文庫 Arthur Hailey (1920-2004/享年84) 「大空港 [Blu-ray]」 

Arthur Hailey hotel.jpgArthur Hailey's Hotel.bmp 1965年原著発表のイギリス人作家アーサー・ヘイリー(Arthur Hailey, 1920‐2004)の小説で、アメリカ南部の老舗ホテルを舞台にホテル業界を描いた長編小説(この人は途中でアメリカに移住し、活動の場はほとんどアメリカ)。

 ニューオーリンズ最大のホテル、セント・グレゴリーは、町の繁華な一劃に、堂々たる偉容を誇って建っていた。しかし近代的、能率的経営方式全盛の昨今では、この古風な品格にあふれたホテルも時代遅れで、さらに老オーナーの放漫経営で赤字を抱え、他のホテルチェーンの総帥から買収攻勢を受けており、従業員の士気も下がっている。そんな中で、若い副支配人ピーター・マックダーモットは経営不振を打開しようと精力的に奔走する―。

 従業員も従業員なら泊り客も泊まり客で、チップをピン撥ねするボーイ長、スィートルームでレイプ騒ぎを起こす金持ちの息子、轢き逃げ事件のもみ消しを図る公爵夫妻と彼らを脅迫するホテルの警備主任、ホテル専門の泥棒...etc.、副支配人ピーターの対応がすべて事後処理にならざるを得ないのがちょっとどうかなという気もしますが、ホテルの裏側をよく取材していると感じました。

 黒人医師の宿泊をホテル側が拒否してもめるといった、公民権運動時代の名残り的な話もありますが、その後多く現れるホテルを舞台とした小説、コミック、ドラマなどの原型が、この小説には詰まっていると思えました。

ホテル [DVD] .jpgHOTEL (1967)l4.jpg この作品は1966年にリチャード・クワイン監督、HOTEL 1967 .jpgロッド・テイラー、メルヴィン・ダグラス主演で映画化されていますが、日本ではソフト化されておらず(ビデオにもならなかった)個人的には未見です(その後2012年にDVDが発売された)
ホテル [DVD]

 また、この作品をベースとして、'82年に本国にてTVシリーズドラマ化されており(原題:"Hotel"、邦題:「アーサー・ヘイリーのホテル」) 、'88年まで5シーズンにわたり放映されています。時代は'60年代から現代('80年代)に、舞台はニューオリンズからサンフランシスコに置き換えられていて(外観は超高級ホテル「フェアモント サンフランシスコ」を使っているようだ)、ゲストスターとしてベティ・デイヴィスやアン・バクスター、「刑事コロンボ」の名犯人役で知られるロバート・カルプなど様々な役者が出ています(日本では番組としては放映されなかったが、ビデオが出された)。
Arthur Hailey's Hotel 1983 ABC Opening Intro(音楽: ヘンリーマンシーニ)

大空港.jpg この小説は作者のデビュー作ではないですが出世作と言え、その後、映画化作品もヒットした『大空港』('68年)や、『自動車』('71年)、『マネー・チェンジャーズ』('75年)、『エネルギー』('79年)、『ストロング・メディスン』('84年)、『ニュース・キャスター』('90年)と次々に発表しており、それぞれ、航空・自動車・電力・医療・放送といった業界の研究本の小説版としても読めます(『自動車』は、パブリッシャーズ・ウィークリーのアメリカ・ベストセラー書籍(小説/フィクション)の年間トップ10ランキングの'71年の1位、『マネー・チェンジャーズ』は'75年の2位。後者は日本でも、銀行に内定した学生の入社までに読んでおく課題図書だったりした)。

 ただし、作品全般に小説としては登場人物などがややパターン化傾向にあり、そうした中ではこの作品は、登場人物が比較的バラエティに富み、ある週の月曜から金曜までの出来事としてのスピーディな展開が(謎の老人アルバート・ウェルズの正体はややご都合主義ともとれるが)大いにサスペンスフルで面白く(この人は、『殺人課刑事』('97年)という推理小説も書いている)、また、他の作品が問題解決型なのに対し、結末にカタストロフィが仕組まれているのも本書の特徴です。M&A的な話が織り込まれ従業員のモチベーションに関することなどもとりあげられていて、企業小説が好きな人はお薦めですが、そうしたものをあまり読まない読者にも充分楽しめる内容です。
             
大空港a.jpg アーサー・ヘイリー原作の最初の映画化作品「ホテル」('66年)はそれほど話題にならなかったようですが、2番目の映画化作品「大空港」('70年)は大ヒットし、70年代前半から中盤にかけてのパニック映画ブームの先駆けとなりました(右:ハヤカワ文庫NVカバー)。

 シカゴのリンカーン国際空港(架空。オヘア国際空港がモデル)は何年に一度という大雪に見舞われる。そんな中、着陸したトランスグローバル航空(架空)45便のボーイング707旅客機が誘導路から脱輪し、積雪の中に車輪を沈ませてメイン滑走路を閉鎖させてしまう。そこへ、リンカーン発ローマ行きのトランスグローバル2便の飛行中の旅客機内に、爆弾が持ち込まれているという通報が入る。機長と主任客室乗務員は、爆弾の入ったアタッシュ・ケースを確保しようとするが、犯人は爆弾もろとも自殺し、その衝撃で旅客機の胴体に穴が空き、空中分解の危機が訪れる。急遽、旅客機はリンカーン空港へ向けて旋回するが、空港は立往生したボーイング707のため滑走路が閉鎖されたままで、猛吹雪の中、依然機能停止状態だった―。

大空港 1970 01.jpg大空港 1970 03.jpg大空港 1970ド.jpg 空港長にバート・ランカスター、機長にディーン・マーティン、2人とも家庭がありながら不倫をしていて、空港長の不倫相手の地上勤社員にジーン・セバーグ、機長の不倫相手の客室乗務員にジャクリーン・ビセット、加えてベテラン整備士に大空港s.jpgジョージ・ケネディという豪華な顔ぶれ。所謂グランドホテル方式で、ディーン・マーティン演じる機長は家庭不和に悩み、ジーン・セバーグはサンフランシスコ栄転と機長との関係の狭間に悩み、ジャクリーン・ビセットは妊娠し、この日同僚機長の定期テストのため副操縦士としてトランスグローバル2便乗り合わせたディーン・マーティンは、彼女から出産する決意であること聞かされる―といった具合に、をそれぞれの登場人物にまつわるストーリーが交錯する構成大空港 1970 02.jpg大空港 s.jpgになっています。第43回アカデミー賞では最多10部門にノミネートされましたが、結局、飛行機にただ乗りする常連"密航者"の老夫人を演じたヘレン・ヘイズが助演女優賞を受賞したのみでした。続編として、小型機と衝突した旅客機を最後はスチュワーデスが操縦する事態となるチャールトン・ヘストン、カレン・ブラック主演の「エアポート'75」('74年/米大空港 1970 ages.jpg)、ハイジャックされた旅客機がバミューダ海域の海底に不時着するジャック・レモン主演の「エアポート'77/バミューダからの脱出」('77年/米・英)、武器商人が売上拡大を狙ってコンコルド撃墜を企てるアラン・ドロン主演の「エアポート'80」('79年/米)が作られ、「エアポート'77」まで原作者名にアーサー・ヘイリーの名が見エアポートBOX [DVD].jpgられたりしますが、実際には「エアポート'75」以降ストーリーにはアーサー・ヘイリーは関与しておらず、実質的な原作者というより契約上の原案者といったところだったようです(アーサー・ヘイリー自身は続編が作られるなど思ってもいなかったが、「大空港」が映画化された際の契約書を後で確認したところ、続編を作ることが可能となっていたという。外国人でも契約内容を確認せずに契約書にサインすることがあるのか)。アーサー・ヘイリーの原作に比較的忠実に作られている「大空港」は人間ドラマの比重が高いのに対して(主人公の男性2人が共に不倫をしていて、2人とも最終的に妻よりも不倫相手の方に靡くような結末なのがスゴイが)、続編の「エアポート'75」以降はパニック映画の色合いが濃くなっていき、その分大味になっていきます。

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「大空港」「エアポート'75」「エアポート'77 バミューダからの脱出」「エアポート'80」収録

大空港 mages.jpg大空港 1970 dvd.jpg「大空港」●原題:AIRPORT●制作年:1970年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ジョージ・シートン●製作:ロス・ハンター●撮影:アーネスト・ラズロ●音楽:アルフレッド・ニューマン●原作:アーサー・ヘイリー●時間:137分●出演:バート・ランカスター/ディーン・マーティン/ジーン・セバーグ/ジャクリーン・ビセット/ジョージ・ケネディ/ヘレン・ヘイズ /ヴァン・ヘフリン/モーリン・ステイプルトン/バリー・ネルソン/ダナ・ウィンター/ロイド・ノーラン/バーバラ・ヘイル/ゲイリー・コリンズ/ジェシー・ロイス・ランディス/ラリー・ゲイツ/ウィット・ビセル/ヴァージニア・グレイ/リサ・ゲリッツェン/ジム・ノーラン/ルー・ワグナー/メアリー・ジャクソン/シェリー・ノヴァク/メリー・アンダース/キャスリーン・コーデル/ポール・ピサーニ●日本公開:1970/04●配給:ユニバーサル映画 (評価:★★★☆)
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 【1970年単行本〔講談社/ウィークエンド・ブックス〕/1974年文庫化〔新潮文庫(上・下)〕】

《読書MEMO》
●70年代前半の主要パニック映画個人的評価
・「大空港」('71年/米)ジョージ・シートン監督(原作:アーサー・ヘイリー)★★★☆
・「激突!」('71年/米)スティーヴン・スピルバーグ(原作:リチャード・マシスン)★★★☆
・「ポセイドン・アドベンチャー」('72年/米)ロナルド・ニーム監督(原作:ポール・ギャリコ)★★★☆
・「タワーリング・インフェルノ」('74年/米)ジョン・ギラーミン監督(原作:リチャード・M・スターン)★★★☆
・「JAWS/ジョーズ」('75年/米)スティーヴン・スピルバーグ監督(原作:ピーター・ベンチュリー)★★★★

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