【683】 ○ アリソン・アトリー (小野 章:訳) 『時の旅人 (1981/01 評論社) ★★★★

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タイムファンタジーの先駆け。16世紀のイギリスの農場の生活ぶりがよく描かれている。

Alison Uttley.jpgA Traveller in Time.jpg時の旅人1.jpg  時の旅人2.jpg
時の旅人』 評論社(小野章訳)〔'81年〕 『時の旅人 (岩波少年文庫)』 松野正子訳〔'00年新版〕 
"A Traveller in Time"

 1939年に発表されたイギリスの児童文学作家アリソン・アトリー(Alison Uttley 、1884‐1976/享年91)のタイム・ファンタージー小説(原題"A Traveller in Time")。

 病気療養のために、親戚のおばさんの住む農場の古い屋敷で生活することになった少女ペネロピー・タバナーが、ある日、おばさんの部屋に行くつもりで開けた扉の向こうには、16世紀エリザベス女王時代の衣裳を身に纏った貴婦人達がいた。当時のサッカーズ農場の領主アンソニー・バビントンはエリザベス女王に幽閉されているスコットランド女王メアリー・スチュアートを救うべく奔走していて、屋敷の台所ではおばさんの先祖が働いており(タバナーの先祖たちははバビントン一族に仕えていたということ)、ペネロピーもチェルシーからやってきた親戚の娘としてバビントン邸で働くことになって、彼女の未来と過去を行き来する生活が始まる―。

 メアリーとエリザベス女王の確執は1587年のメアリーの処刑で幕を閉じ、バビントン一族は悲劇的な最後を迎えますが、ペネロピーはその史実を知っていて、アンソニーやその弟でペネロピーと親しくなるフランシスらのメアリーを匿おうとする計画が実を結ばないことを知っているというのが辛いです。        

「タイムトンネル」3.jpg「タイムトンネル」.bmp「タイムトンネル」1.jpg '60年代に作られた「タイムトンネル」というアメリカのTV番組があり、主人公たち(2人の若き科学者トニーとダグ)がいきなり今宵沈没する運命にあるタイタニック号の甲板上へタイムスリップ転送された話から始まって、陥落寸前のアラモの砦に転送されたり、ナポレオンやローマ皇帝ネロ、カスター将軍やマルコポーロ、ビリー・ザ・キッドやリタイムトンネル過去との出会い.pngタイムトンネル ナポレオン.jpgンカーンら歴史上の人物と出会ったりし、更にトロイ戦争や第七騎兵隊全滅を目撃し、ハレー彗星、クラカタウラ火山の噴火に遭遇しするなThe Time Tunnel.jpgど、いつも歴史的な事件の現場ばかりにタイムスリップするのが子供心にも何かおかしい気がしましたが(いきなり恐竜時代にも行ったりした)、それに比べればこの話は、サッカーズ農場という場所は固定されているのでより筋は通っているかも。

「タイムトンネル」The Time Tunnel (ABC 1966~67) ○日本での放映チャネル:NHK(1967)/フジテレビ

A Traveller in Time.jpg 歴史的背景や当時の農場の生活ぶりなどは精査されて描かれているように思われ(400年前も今と建物や庭園の様子がほとんど変っていないというのがイギリスの田舎らしくてスゴイなあと思いますが)、フランシスがペネロピーの緑のドレスに懸けて歌う「グリーンスリーブス」などは、そのまま時を超えた人間の思念の連なりようなものを感じさせます。

 ペネロピーが過去の世界でいろいろな経験をする時間は、"現在"では一瞬の間しか経過しておらず、それを作者は「夢」のパノラマ視現象のようなもので説明しているのが興味深かったです(作者の大学での専攻は物理学!)。

 作者アリソン・アトリーは結婚後夫に死なれ、生活のために創作活動を始めたそうですが、夫が急死しなければ、このタイムファンタジーの先駆けとも言える作品は誕生しなかったかも知れません。


 【1980年単行本〔評言社(アリスン・アトリー著・小野章訳)〕/1998年文庫化・2000年改版[岩波少年文庫(松野正子訳)]】

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