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自閉症児の視点で、その認知の世界を解き明かすヒューマン物語。
『夜中に犬に起こった奇妙な事件』〔'03年〕
〔'07年新装版〕
2003年にイギリスで刊行されるや話題を呼び(原題は"The Curious Incident of the Dog in the Night-Time")、世界中で1千万部ぐらい売れたそうですが、日本ではじわじわとブームが来た感じの本。
Mark Haddon
物語の主人公・15歳の少年クリストファーは、自閉症(アスペルガー症候群)の障害を生まれながら持っていて、数学や物理では天才的な能力を発揮するものの、人の表情を読み取ったりコミュニケーションすることが苦手で、養護学校に通っています。
この物語は、彼が、夜中に起きた「近所の飼い犬の刺殺事件」の謎を解くために書き始めたミステリという形で進行していきます。
そのミステリに引き込まれて読んでいるうちに、自閉症児のモノの認知の仕方や考え方、ヒトとのコミュニケーションのとり方などが少しずつわかってくるようになっていて、作者のうまさに感心しました(相当の才能と体験が無ければ書けない)。
クリストファーは落ち着かない気持ちになると、頭の中で高等数学の問題などを考えて気持ちを落ち着かせたりするため、数学や宇宙物理学の話がときおり出てきますが、読者にとっても気分転換になるくらいの配置で、それらもまた楽しめます。
彼は必ずしも恵まれた環境にいるのではなく、むしろ崩壊した家庭にいて、大人たちのエゴに板ばさみになっているのですが、彼が自分なりに成長して様は、読後にヒューマンな印象を与え、クリストファーとは、「キリストを運ぶ者」という意であるという文中の言葉が思い出されます(クリストファー自身は、自分は自分以外の何者でもないという理由で、この意味づけを認めていませんが)。

イギリスでは当初、児童書として出版され、なかなか好評だったため、それを大人向けに改版したものが本書らしいでです。
翻訳者は『アルジャーノンに花束を』('78年/早川書房)の小尾芙佐さんですが、語り手の視点の置き方や語り口という点ではすごく似ている作品です(「アルジャーノン」はネズミの名前ですが、この本にもトビーというネズミが出てきます)。
ただし本書には、自閉症(アスペルガー症候群)という「障害」とその「可能性」を知るためのテキストとして読めるという大きな利点があるかと思います。
彼らのすべてが、同じようにこうした障害や能力を持つと思い込むのは、それはそれで、また危険だとは思いますが。
【2007年単行本新装版〔 早川書房〕】
