【782】 ○ 亀井 俊介 『ニューヨーク (2002/03 岩波新書) ★★★★

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マンハッタン島をブロードウェイ沿いに縦断しながら語るニューヨークの歴史と文化。

ニューヨーク.jpg 『ニューヨーク (岩波新書)』 〔'02年〕 亀井 俊介.jpg 亀井 俊介 氏 (東大名誉教授・岐阜女子大大学院教授(アメリカ文学・比較文学))

 マンハッタン島を最南端からブロードウェイに沿って北上し、時に左右のアヴェニューに入り込みながらハーレムまでを辿った紀行文ですが、著者も述べているように、移動手段やショッピングのガイド的解説があるわけでもなく、また高尚な都市論が展開されているわけでもありません。
 ニューヨークを何度も訪れた文学者である著者がそこで語っているのは、バックパッカー的な視点から見た、地区ごとの歴史であり文化の起源です。でも、それらが、今まで知らなかったことばかりで、なかなか面白かったです。

ブロードウェイ.jpg 自分も何年か前にマンハッタン島縦断を思い立ち、島最南端のバッテリー・パークからウォールストリートや世界貿易センタービルに行き、ブロードウェイに沿って、チャイナタウンやトライべカに立ち寄りながら、ソーホー、タイムズスクエアを経て、セントラルパーク沿いを北上し、途中ホットドックを食べながらハーレムの手前のコロンビア大学まで歩いたことがあり(125ストリートぐらい歩いたことになる)、この本を読んで懐かしさを覚えるとともに、見落とした歴史の痕跡を改めて知ることができました。

 ニューヨークという街の南から北に拡大して言った歴史がよくわかりますが、さすが文学者、永井荷風の『あめりか物語』を随所に引き、メトロポリタン美術館では、サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』とカニグズバーグの『クローディアの秘密』のことに触れていたりして、それらの作品に対する著者の考え方がまた面白かったです。

Flatiron_8775.jpgChrysler-Building.jpgEmpire State Building.jpg 著者が本書の原稿を脱稿しかけた頃に「9.11テロ」が起き、WTCビルは崩壊しますが、かつてエンパイア・ステート・ビルにもB25爆撃機が誤って衝突したことがあったが大した被害はなかったとのこと。
 著者は、WTCビルの脆さとエンパイア・ステートの頑強さを比喩的に(科学的にではなく)対比させていますが、著者ならずとも、何となく、エンパイアビルやクライスラービルのような昔のビルの方が頑強そうに思えてくるのでは。本書で紹介されているフラット・アイアン・ビルも、個人的には好きな建物。この3つのビルは何れも、それぞれの完成時において世界一高いビルであった点で共通している―と思っていましたが、Wikipediaによれば、「フラットアイアンビルは完成当時高さ世界一だったとしばしば勘違いされるが、実際には、1899年に完成した119.2mのパークロウビルの方が高く、フラットアイアンビルは一度も世界一になったことはない」とのことです。

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亀井俊介(かめい・しゅんすけ)
亀井俊介 .jpg2023年8月18日、病気で死去。91歳。
東京大名誉教授。大衆文化を含めた幅広い視野から、ユニークなアメリカ文学研究や比較文学研究を展開した。
岐阜県生まれ。アメリカの開拓時代から現代に至る民衆ヒーロー像をたどりながら、同国の精神的、文化的な流れを考察した「アメリカン・ヒーローの系譜」で大佛次郎賞。「有島武郎」で和辻哲郎文化賞を受賞した。2008年、瑞宝中綬章。ほかの著書に「マリリン・モンロー」「日本近代詩の成立」など。岐阜女子大教授も務めた。

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This page contains a single entry by wada published on 2007年11月22日 00:44.

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