【812】 ○ 山本 博文 『参勤交代 (1998/03 講談社現代新書) ★★★☆

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「幕府が大名に参勤交代を義務づけたのは、その経済力を奪うため」は俗説似すぎないと。

参勤交代.jpg参勤交代2.jpg 『参勤交代 (講談社現代新書)』〔'98年〕 江戸お留守居役の日記.jpg 江戸お留守居役の日記―寛永期の萩藩邸 (講談社学術文庫).jpg 『江戸お留守居役の日記―寛永期の萩藩邸』〔'94年/講談社文庫〕/『江戸お留守居役の日記―寛永期の萩藩邸 (講談社学術文庫)』〔'03年〕
歌川広重「東海道五十三次」(日本橋)
日本橋 参勤交代 広重.jpg 著者は、東京大学史料編纂所の先生で、「日本エッセイスト・クラブ賞」を受賞した『江戸お留守居役の日記』('91年/読売新聞社、'94年/講談社文庫)が、"エッセイ"のわりには結構アカデミックだったのに対し(その後、講談社学術文庫に収録)、近年の著作はかなりわかりやすいものが多いような気がします。

 ただし、史料の読み込みは当然のことながらしっかりしていて、本書では、大名が江戸と各藩を往復した参勤交代制度の成立やその変遷、大名行列の実態や道中でのトラブルの対応・予防などがどのように行われたかが、史料を丁寧に読み込み、わかりやすく解説されています。                  

山本 博文 『参勤交代』プロ.jpg参勤交代2.jpg 参勤交代の行列は、加賀前田家などの最大規模のもので数千人、遠方の藩だと江戸まで1箇月以上の旅程となり、その費用は現在価値で数億円にもなったことを、詳細な史料から細かく試算しています。今でも「加賀百万石祭り」など各地の祭りで大名行列が再現されていますが、当時デモンストレーション的要素もあって、徳川吉宗などは簡素化を図ったようですが、なかなかそうもいかなかったらしいです。

 しかし、参勤交代の費用を藩財政の中に置いて考えると、その費用は確かに巨額ですが、財政全体に占める割合は数パーセントに過ぎず、幕府が諸大名に参勤交代を義務づけたのは、その経済力を奪おうとしたためだというのは俗説に過ぎないとのことです。

 参勤交代は、大名の幕府への服従儀礼であり、幕府はこれにより諸藩の地方分権の強化を抑え、中央集権体制を260年維持することができたと見るのが、正しい見方のようです(政権安定期の将軍・吉宗には、その辺りの目的認識があまり実感としてなかった?)。

 ただし、著者が作成した藩の損益計算書から読み取れるのは、江戸藩邸をはじめ出先機関の維持費が諸藩の財政を圧迫していている点で、参勤交代制を「行列」ではなく「制度」として捉えた場合、やはり、本来目的とは別に、諸藩の財政に大きな負担を強いていた制度であったことには違いないように思えます。

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