「●脳科学」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【862】 堀田 凱樹/酒井 邦嘉 『遺伝子・脳・言語』
一般常識を覆すような内容も。中高生の質問が良く、それを導く著者の手腕も立派。
『進化しすぎた脳 (ブル-バックス)』 ['07年] 単行本 ['04年/朝日出版社]
ベストセラー『海馬/脳は疲れない』('02年/朝日出版社)の著者が、米国留学中に、脳をテーマに中高校生に4回に渡って講義したもので、'04年にソフトカバー単行本として一旦刊行されていますが、'07年にブルーバックスに収めるにあたり、脳科学を学ぶ日本の大学生に対して行った講義を、最後に1講追加しています。
第1講では、脳が身体を規制しているという一般概念を覆し、身体が脳を規制しているのだと―、しかし、実際には人間の脳は必要以上に進化している、それはなぜか、といった感じで、のっけからスリリング。
第2講では、「人間は脳の解釈から逃れられない」というタイトルで「意識」や「意志」といったことをテーマに様々な角度から解説していますが、「自由意志とは潜在意識の奴隷である」と言明しています。手足を動かすことさえ、そうなのだと。動かそうと思って動かすのではなく、脳が、先にそうしたくなうような指令を出して、後から意志や感情がついてくる。クオリアなども後発的副産物なのだ―と。
第3講では、「記憶」をテーマに、曖昧な記憶しか持てないという脳の特質を明らかにする一方で、記憶のメカニズムを大脳生理学的観点から解説(この部分は少し難しいが、それでも類書に比べて解り易い)、第4項では、アルツハイマー治療など最先端研究を通して、脳の進化について語っています。
追加された第5講は、2、3年で脳科学研究の状況は目覚しく変化するということでの追加らしいですが、大学生たちが脳科学を専攻した理由とかにページが結構割かれていて、質疑もいかにも学者の卵っぽいものが多い。
それに比べると、4講までの中高生の質問は(慶応ニューヨーク学院の生徒たち8名を先着順で受講生に据えたらしいが)、わかりやすい言葉で発せれながらもユニークで、しかも、意図せず最先端のテーマに繋がるものも多く、講師の話を進めていく原動力になっています。
(一緒に授業を受けていて、誰かが質問をした意味が最初わからず、先生の答えを聞いて、「ああ、いい質問だったんだなあ」と初めて知った―そんな経験を、読みながらしている感じ。遅れをとってはいけない、という気分になった。)
こうしたことは、何よりも導き手である講師の手腕によるところが大きいのでしょうが(著者自身も、あの頃の自分だから出来た、と述べている)、最先端にある研究者が、極めて有能な教師でもある場合の好例であり、それが、教授でも准教授でもなく、30歳代前半の「助手・研究員」クラスの人によって為されているというのが面白いと言えるかも('07年に准教授になったが)。
これからが楽しみな人。あまり「頭が良くなる...云々」的な本ばかり書いて、商売の方に走らないで欲しい。