【1002】 ○ 安部 公房 「壁―S・カルマ氏の犯罪」―『壁』 (1951/05 月曜書房) ★★★★

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コミカルな味のあるシュールな世界。結構わかりやすく「人間疎外」を描いている。

壁 安部公房 月曜書房.jpg 『壁 (1951年)』 [月曜書房] 壁.jpg 『壁 (新潮文庫)安部公房.jpg 安部 公房 (1924-1993/享年68)

 1951(昭和26)年に刊行された『壁』は、「S・カルマ氏の犯罪」、「バベルの塔の狸」、「赤い繭」の3部の中篇から成り、「赤い繭」は更に「赤い繭」、「魔法のチョーク」など4つの短篇から成るという構成。
 この中ではやはり、主人公の「ぼく」がある朝目を覚ましたら、自分の名前を喪失していた―という出だしの「S・カルマ氏の犯罪」のインパクトが大きかったです。

 「ぼく」は、自分の名刺を探してみるが見つからず、名前も思い出せない。そこで、勤め先の事務所に行くと、自分の「名刺」が自分の代わりに自分の机で仕事している―。
 重厚な作品という印象があったのですが、読み返してみると意外とコミカルな味のあるシュールな世界で、且つ、結構わかりやすく「現代人の疎外」を描いているように思えました(「名刺」が自分の代わりに仕事しているなんて、かなりストレートな暗喩ではないか)。

 「S・カルマ」という名であるらしい「ぼく」は、病院の待合室で読んだ写真雑誌の中の景色を自分の胸に"吸いとって"しまい、動物園でラクダに奇妙な愛着を抱いて、これも吸い込もうとして私設警察に捕われて、支離滅裂な裁判にかけられる―。
 カフカの「変身」と「判決」をくっつけたような流れですが、安部公房の方がユーモラスで、むしろカフカよりぶっ飛んでいる感じもします(後の筒井康隆などに近い感じ)。

 彼は何によって裁かれようとしているのか(物語の途中から「ぼく」ではなく「彼」になっている)、彼にとって常に目の前にはだかり、自らを同化せしめんとする「壁」とは何なのか(『バカの壁』という本があったが...)、様々な解釈があるでしょうが、人間の現存在の危うさを突きつけられたような不安感を醸す一方で、ワケワカランままであってもとり敢えず楽しく読めるのが、この作品の魅力です。

 「S・カルマ氏の犯罪」は'51(昭和26)年第25回芥川賞受賞作で、選考委員の中では川端康成などが推挙したそうですが、当時としては極めて斬新な候補作だったろうになあ(但し、川端康成などは彼自身が大正期の幻想文学の流れを汲んでいる面もあったし、さほど意外でもないことかも)。

 「魔法のチョーク」も単体では好きな作品です。

 【1969年文庫化[新潮文庫]】

 



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和田泰明

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This page contains a single entry by wada published on 2008年9月23日 22:46.

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