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下層社会に暮らす少年の鬱屈と抵抗を、自体験に近いところで描くリアリティ。
『長距離走者の孤独 (新潮文庫)』
映画「長距ランナーの孤独」('62年)

新潮文庫版は、1958年に発表された「長距離走者の孤独」(The Loneliness of the Long Distance Runner)をはじめ、アラン・シリトー(1928‐ )の8編の中短編を収めていますが、貧しい家庭で育ち、盗みを働いて感化院に送られた少年の独白体で綴られた表題作が、内容的にも表現的にも群を抜いています。
シリトーにはこの他にも、『土曜の夜と日曜の朝』といった代表作がありますが、それらと比べても印象に残っているし、トニー・リチャードソン(1928-1991)監督の映画化作品「長距離ランナーの孤独」('62年/英)も有名です。
"Loneliness of Long Distance Runner" (1962/UK)
もともと原作が手記形式なので、映画で主人公が長距離走において遅れてゴールした後ニヤリと笑うなど、表現上やや説明的にならざるを得ないのはいたし方ないか(原作では泣きそうになっているのだが、実はこれ、"勝利"の嬉し泣きをこらえていることになっている。脚本はシリトー自身)。
「ホテル・ニューハンプシャー」('84年/米) の監督でもあるリチャードソンは、シーラ・ディレーニーの『蜜の味』などの文芸作品も映画していますが、この人の旧い映画ではマルグリット・デュラス原作の「ジブラルタルの追想」('67年/英)を観ただけで、ジャンヌ・モローが綺麗だが、映画自体は凡庸。文学作品を映画化するのは、往々にして難しい...。
話が映画の方に逸れてしまうのは、本作のストーリー自体はシンプルで、書けば"ネタばれ"になってしまうためですが(もう一部書いてしまったが、と言っても、広く知られているラストだが)、ラスト以外でのこの作品の優れた点は、主人公の少年コリンが友人と共にパン屋に強盗に入ったために捕まる場面で、刑事が自宅に捜索に来た時の主人公の心理などは、作者の体験談ではないかと思われるぐらい、目いっぱいの臨場感があります。
シリトーは、50年代に登場し偽善的な体制や権力者を糾弾した《怒れる若者たち》と呼ばれる作家グループの1人ですが、このグループに属するとされる『怒りをこめてふりかえれ』のジョン・オズボーンや『急いで駆け降りよ』のジョン・ウェインなどは、概ね一流大学出身で大学に教職を得た知識人であるのに対し、シリトーは、工場労働者の家庭の出身で、自らも熟練工員でした。
結局、《怒れる若者たち》の作家達の作品群で、今世紀になっても最も読み継がれている作品を1つ挙げるとすれば『長距離走者の孤独』になるわけで、その理由として、シンプルだが象徴的な結末と併せて、下層社会に暮らす少年の鬱屈と抵抗を、自らの体験に近いところで描いていることからくるリアリティが挙げられるのではないかと思います。
「長距離ランナーの孤独」●原題:THE LONELINESS OF THE LONG DISTANCE RUNNER●制作年:1962年●制作国:イギリス●監督・製作:トニー・リチャードソン●脚本:スタンリー・ワイザーアラン・シリトー●撮影:ウォルター・ラサリー●音楽:ジョン・アディソン●原作:アラン・シリトー●時間:104分●出演:トム・コートネイ/マイケル・レッドグレイヴ/ピーター・マッデン/ジェームズ・フォックス●日本公開:1964/06●配給:昭映(評価:★★★)
【1973年文庫化[新潮文庫]/1978年再文庫化[集英社文庫]】

アラン・シリトー 英国の作家・詩人。2010年4月25日、82歳で死去。