【1023】 ○ A・J・クィネル (大熊 榮:訳) 『スナップ・ショット (1984/01 新潮文庫) ★★★★ (△ セルジュ・ブールギニョン 「シベールの日曜日」 (62年/仏) (1963/06 東和) ★★★)

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壮大なプロットもさることながら、主人公がトラウマから立ち直り男気に目覚めるプロセスがいい。

スナップ・ショット 新潮文庫.jpgスナップ・ショット(新潮文庫)』 〔'84年〕 スナップ・ショット(集英社文庫).jpgスナップ・ショット(集英社文庫)』 〔00年〕

Snap Shot.jpg 1982年に発表された冒険小説作家A・J・クィネル(A. J. Quinnell 1940-2005)の小説で、 『燃える男』 Man on Fire (1980)、『メッカを撃て』 The Mahdi (1981)に続くもの。

 天才カメラマンのマンガーは、ベトナム戦争でのトラウマから性的不能となりカメラも捨てていたが、ある女性と出会い、カメラマンとしての腕と男としての自信をも取り戻すことが出来た。 
 その頃、イラクではサダム・フセインが原発の建設に取り組んでいたが、イスラエルでは、それが原発に名を借りた核兵器工場と疑っており、空爆による破壊工作を策していた。しかし、フセインの陰謀を立証するためには、証拠写真が必要であり、そこでマンガーに白羽の矢が立つ―。

 クィネルの作品は『燃える男』のような元傭兵クリーシーが主人公として活躍する「クリーシーシリーズ」と、『メッカを撃て』のような"独立系"の話がありますが、これは独立系なので単独で楽しめ、出来もいいと思いました(個人的には、『ヴァチカンからの暗殺者』(1987)など"独立系"の話の方が、この人の作品は面白いと思う)。

 何よりも、その当時何気なくなく読んでいたプロットが、この作品発表の前年にイスラエル空軍機がイラクの原子炉を急襲し破壊した事実をベースにしており、更にその後の湾岸戦争、イラク戦争に繋がる政治背景をしっかり取材して書かかれていたものであったことに気づかされ、今更のように驚かされます。

 それでもって、かなり自由にフィクションを織り込み、話を壮大かつ面白くしているというのが、この人の作品の特徴でしょうか(『ヴァチカンからの暗殺者』なんて、ローマ法王を守るためにソ連の書記長を暗殺しようとする話だから、スケールは大きい)。

 ただ、個人的には、プロットの壮大さよりも、このマンガーの鬱屈から立ち直って男気に目覚めるプロセスが好きです。

シベールの日曜日1.jpgシベールの日曜日.jpg 前半部はセルジュ・ブールギニョン監督の「シベールの日曜日」('62年/仏)を思い出しましたが、あの映画でハーディ・クリューガー演じる元パイロットの主人公は、インドシナ戦争でベトナム人少女を空爆で殺したのでないかというトラウマから記憶喪失となりますが、孤独な少女との触れ合いを通して癒されていく―、しかし、2人が出会う日曜日、彼のことを変質者だと決め込んだ医師の通報で駆けつけた警官により...。

シベールの日曜日2.jpg この映画の微妙な点は、主人公がトラウマから反動的にロリコン化して最終的には立ち直れなかったともとれることではないでしょうか(少しひねくれ過ぎ? しかし実際、この映画は"ロリコン映画の傑作"という評価のされ方もしている)。

 「シベールの日曜日」●原題:CYBELE OU LES DIMACHES DE VILLE D'AVRAY●制作年:1962年●制作国:フランス●監督:セルジュ・ブールギニョン●脚本:セルジュ・ブールギニョン/アントワーヌ・チュダル●撮影:アンリ・ドカエ●音楽:モーリス・ジャール●原作:ベルナール・エシャスリオー「ビル・ダヴレイの日曜日」●時間:110分●出演:ハーディ・クリューガー/パトリシア・ゴッジ/ニコール・クールセ/ダニエル・イヴェルネル,/アンドレ・ウマンスキー●日本公開:1963/06●配給:東和●最初に観た場所:有楽町スバル座(80-06-06)(評価:★★★)●併映「悲しみこんにちは」(オットー・プレミンジャー)

A.J.クイネル氏.jpg クィネルは長年覆面作家で通して地中海のマルタの小島などに住んでいたけれども、その地で日本人の青年に「あなた、クィネルさんでしょ?」と言われて観念して、覆面を脱いだとか。タンザニア生まれで、イギリスで教育を受け、作家になる前は世界を駆け回るビジネスマンだったことが、初めて世に知られたのは1999年のこと。

 その後、日本にも講演に来ていますが、シャイな人で、講演ではすごく緊張していて(前述の日本人の青年に正体を見破られた話はこの時にした。その日本人青年も講演会場に来ていたから、事実に近い話なのだろう)、残念ながら2005年に亡くなっています(旅行会社が「追悼ツアー」なんていうのを企画していた)。
                                    
 A・J・クィネル A. J. Quinnell (1940-2005/享年65)

クイネルが描いたマルタの世界を.jpgゴゾへの追悼の旅.jpg
  「A・J・クィネル追悼ツアー」パンフ 〔'06年〕


 【1984年文庫化[新潮文庫]/2000年再文庫化[集英社文庫]】

        



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和田泰明

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This page contains a single entry by wada published on 2008年10月16日 00:12.

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