【1027】 △ ロバート・ブロック (福島正実:訳) 『気ちがい(サイコ) (1960/04 ハヤカワ・ミステリ) ★★★ (○ アルフレッド・ヒッチコック 「サイコ」 (60年/米) (1960/09 パラマウント映画) ★★★★)

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オリジナルな着想は素晴らしいが、「掟破り」が瑕疵となり、映画に劣る。

気ちがい〔サイコ〕.png 『気ちがい (1960年) (世界ミステリシリーズ)』  サイコ  ロバート・ブロック.jpg サイコ ハヤカワ文庫.jpg 『サイコ (ハヤカワ文庫 NV 284)』 ['82年旧版/新装版]

Psycho.jpg 1959年発表のアメリカ人作家ロバート・ブロック Robert Bloch(1917‐1994/享年77)の『気ちがい(Psycho)』('60年4月/ハヤカワ・ミステリ)は、アルフレッド・ヒッチコック監督(1899‐1980/享年80)の映画「サイコ」('62年)の原作として有名になり、同じ福島正実訳のものがハヤカワ文庫に納められたとき('82年5月)に、『サイコ』という表題に改変されています(この小説のお陰で、映画の字幕などで「この"サイコ野郎"め」とか使われるようになった)。

 ロバート・ブロックは、エド・ケインという男が起こした実際の犯罪事件をヒントにこの作品を書いており、父と兄に続いて母親を亡くしたエドは、とりわけ絶対的な影響力を占めていた母親が死んでから、オカルトや解剖、屍体への性的執着、カニバリズムに耽溺、1957年に女性殺害容疑で逮捕されて家宅捜索を受けた際に、自宅から全部で15人の女性の死体が見つかりましたが、死体はどれも細かく解体されており、その一部は上着や食器・家具に加工され、また一部は食用として保存されていたといいます(裁判では精神障害(性的サイコパス)として無罪に)。

 小説の主人公ノーマンの人格造型に、今で言う"解離性障害"のようなものを持ち込んだのは作者のオリジナルだと思われ、その着想は素晴らしいものの、「ノーマンは母さんを面と向かって見られなかった」とか「彼は母さんのスカートに頭をうずめ、しゃくりあげながら、話しはじめた」、「母さんは窓のほうに行くと、降りしきる雨足をじっと眺めた」などといった表現は、ミステリとしては所謂「掟破り」になるかと思われます。

映画術 フランソワ トリュフォー.jpg 映画監督のフランソワ・トリュフォーもこの点を批判していて、『映画術―ヒッチコック・トリュフォー』('81年/晶文社)におけるヒッチコックへのインタビューにおいて、映画という手法において、こうした"禁じ手"を使わずに原作を映像化したヒッチコックの技法を讃えています。
ユージュアル・サスペクツ.jpg
 例えば、アカデミー賞脚本賞受賞映画の「ユージュアル・サスペクツ」('95年/米)なども、傑作ミステリ映画と言われながらも、途中で実在しない人物を映像化するという"禁じ手"を用いて自ら瑕疵を生じせしめているように思います。
 コカインの密輸船が爆破され大量のコカインと金が消えた事件の黒幕と目される大物ギャング、カイザー・ソゼとは何者なのかを巡る心理サスペンスで、ラストもさることながら、その少し前の尋問場面で、アッと言わせる、確かに傑作でした。
 本来なら星5つ乃至4つ半ぐらい献上したい、にもかかわらず、この"禁じ手"を用いていることで、個人的には星1つ分は減らさざるを得ない...。   「ユージュアル・サスペクツ [DVD]

Psycho (1960).jpg 『映画術』ではこの外に、「サイコ」においてヒッチコックがいかに緻密な計算の上に、セオリー通りの手法やセオリーを外れた実験的手法を用いて効果を上げているかを、トリュフォーが本人から巧みに聞き出していて、例えば後者(セオリー外)で言えば、最初の被害者にジャネット・リーを起用した点などもそうです(ヒッチコック映画で女優がブラジャー姿で出てくるのはこの作品だけ。因みにジャネット・リーは、ポスターを見ると、特別出演のような扱いに)。

 自らがこの作品の監督だとして、普通は映画の半ばで殺される女性に有名女優を用いようとは思わないでしょう。物語の最後まで観客の興味を牽引していくと思われた主演クラスの女優が演じる役を途中で被害者にしてしまい、観客の感情移入に見事に肩透かしを食わせ、アンソニー・パーキンスが演じる孤独な青年に一気に感情移入の対象を移行させる―やはり、こうした計算され尽くした「映画術」から見ても、ヒッチコックの映画監督としての才能が原作の名を高めたというべきでしょう。

 ヒッチコックがこの小説の映画化に踏み切った理由は、ただ1つ、「シャワーを浴びていた女性が突然に殺されるという悲惨さ」にショックを受けたからとのことで(匿名で、極めて安値で原作の映画化権を買い取っている)、45秒のシャワーシーンに200カット詰めみ7日間もかけて撮ったという話は有名。
 但し、このシーンの撮影の際にアンソニー・パーキンスは舞台出演中で撮影現場にはいなかったことを、映画公開の20年後に告白しています。
                                                     "Psycho" (1960) poster
サイコ1.jpg その外にも、ジャネット・リーの手と肩と顔だけが本物で、あとは全てスタンドインのモデルを使っているとか、エロティックかつ残酷な場面という印象があるにも関わらず、女性の乳房さえ映っておらず、ナイフが肉に刺さるショットも無い(そうした印象は全てモンタージュ効果によるものである)とか、このシーンだけでもネタは尽きません。

 「サイコ」●原題:PSYCHO●制作年:1960年●制作国:アメリカ●監督・製作:アルフレッド・ヒッチコック●音楽:バーナード・ハーマン●原作:ロバート・ブロック「気ちがい(サイコ)」●時間:108分●出演:アンソニー・パーキンス/ジャネット・リー/ベラ・マイルズ/マーチン・バルサン/ジャン・ギャヴィン●日本公開:1960/09●配給:パラマウント (評価★★★★)

「ユージュアル・サスペクツ」●原題:THE USUAL SUSPECTS●制作年:1995年●制作国:アメリカ●監督:ブライアン・シンガー●製作:ハンス・ブロックマン他●脚本:クリストファー・マッカリー●撮影:ニュートン・トーマス・サイジェル●音楽:ジョン・オットマン●時間:106分●出演:ケヴィン・スペイシー/ガブリエル・バーン/スティーヴン・ボールドウィン/ベニチオ・デル・トロ ●日本公開:1996/04●配給:アスミック (評価★★★☆)

 【1982年文庫化[ハヤカワ文庫 NV (『サイコ』(福島正実訳))]/1999年再文庫化[創元推理文庫(『サイコ』(夏来健次訳))]】

              



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和田泰明

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