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映画の通念をはるかに超えた"断絶"的ラスト。
「ラルジャン [DVD]」
Robert Bresson (1901‐1999/享年98)
1枚の500フラン札を偽札と知らずに使ったイヴォンは、逮捕され執行猶予付きの有罪となる。出所後、強盗の手伝いをして逮捕・投獄され、家族とも別れ、自殺をも考える。しかし彼は脱獄し、出所後に世話になった一家とも事件を引き起こす―。
原作はトルストイの短編小説ですが、前半部分の主人公や周辺の人物がちょとしたことから犯罪に染まっていく過程(原作の複数の人物が映画では主人公1人に集約的に投影されている)はドストエフスキー的で、但し、後半で主人公の改心の過程が描かれるので、ヴィクトル・ユーゴーっぽい感じも。
ところがこの映画化作品では、原作小説の後半の、主人公が信仰に目覚め改心する話が完全にカットされています。
映画館で上映が終わった後、観客が少しどよめいていたような記憶があり、1983年のカンヌ映画祭で監督賞を受賞していますが、その時にも上映終了時にはブーイングも巻き起こったという...。
それはそうでしょう。逃亡者となった主人公と偶然出会い、彼を匿った心優しい老婆に対して、自然に溢れた環境で老婆からの慈しみを受け改心に向かうかと思われた主人公が、老婆に突然に見舞った返礼は、斧で彼女を惨殺することだったのですから。
それまで物語の流れに身を委ねる「観客」として観ていたのが、このような終わり方によって、起きてしまった出来事の中に実際にとり残されたような落ち着かない気持ちになりました。
観客が無意識的に期待する"予定調和"の裏をかくというレベルを超えて、映画芸術そのものに対するアンチテーゼを示しているように思えます。
80歳を超えてこの作品を作ったブレッソン監督は、映画の通念をはるかに超えたところにいたのだともとれるし、映画のラストシーンの、人々が誰もいなくなったレストランを眺めている場面について、「彼らは空虚を見つめているのだ。そこにはもはや何も無い。善は去ってしまったのだ」とカンヌの記者会見で述べたブレッソンの言葉からは、キリスト者としての彼の深い絶望も窺えます。
「ラルジャン」●原題:L'ARGENT●制作年:1983年●制作国:フランス・スイス●監督:ロベール・ブレッソン●原作:レフ・トルストイ 「にせ利札」●時間:85分●出演:クリスチャン・パティ/カロリーヌ・ラング●日本公開:1986/11●配給:フランス映画社●最初に観た場所:シネヴィヴァン六本木(86-12-01) (評価★★★★)
シネヴィヴァン六本木 1999(平成11)年12月25日閉館
