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「ドキュメンタリーもまたフィクションなり」ということを鮮やかに示した作品。
「人間蒸発 [DVD]」
今村昌平 (1926- 2006/享年79)
結婚式の直前に突然失踪した婚約者を探す早川佳江という女性。露口茂がレポーターとなり、カメラと共に捜索を続ける彼女を追うが、やがて婚約者の二重生活が明らかになる。社会における人と人の繋がりの脆さに自分自身をも見失って呆然とする女性―。
松本清張の『ゼロの焦点』('58年発表)の"ドキメンタリー版"みたいな装いですが、この作品の狙いは"人と人の繋がりの脆さ"を描くと言うよりもむしろ、ドキメンタリーと言われるもの自体の脆さ、ドキメンタリー成立の不可能性を示すことにあったと思います。
途中から佳江さんの実の姉が婚約者と密会していたなどという証言も出てくきて、幼い頃から姉を憎んでいた佳江さんはカッとなり、婚約者の捜索をめぐる家族会議に証言者を交え、こぞって姉を糾弾し始める―(弩号は飛び交うは、佳江さんは泣き出すは、まさに修羅場の様相)。
そのようにして家族会議の場で大いに激昂し口角泡飛ばしていた関係者たちですが、今村昌平監督のいきなりの「はい、カット」の一言で全員一斉に黙り、何処からともなく現れたスタッフらが"セット"の障子や襖を片付け始める―(観客はここで初めて、家族会議が行われていたのは茶の間ではなく映画の撮影スタジオであったことに気づく)。
スタッフが大道具、小道具を片付ける間、彼らは大人しく座っています。そして、カメラが回り始めると、再び口角泡飛ばし、猛然と話し出します。
この時彼らは、事件当事者と言うよりも"出演者"になっているということが、面白いほどよく分かる場面です。
佳江さんはやがて婚約者を探す気力を失い、レポーターの露口茂が好きになったことをカメラに向かって告白しますが、その時の彼女はまるで、物語の"主役"を演じている(しかも、自分で脚本を書いている)"女優"のように見えます(思わぬ告白に戸惑う露口茂の方が、よほど"ドキメンタリー"的)。
今村監督は「ドキュメンタリーもまたフィクションなのだ」ということを、この"作品"で鮮やかに示しているように思います。
「人間蒸発」●制作年:1967年●製作:今村プロ=ATG●監督・企画:今村昌平●音楽:黛敏郎●時間:130分●出演:露口茂/早川佳江/早川サヨ●劇場公開:1967/06●配給:ATG=日活●最初に観た場所:有楽町・日劇文化(80-07-05) (評価★★★★★)●併映:「肉弾」(岡本喜八)
日劇文化 (1935年12月30日日劇ビル地下にオープン、1955年8月12日改装/ATG映画専門上映館)
写真は「銀座百点」624号より(1980年当時)[写真右下「日劇文化」地下入口]
日劇ビルの再開発による解体工事のため、1981(昭和56)年2月22日閉館。
