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状況設定がシンプルな一方で、トリックは巧妙。本格推理として満足の1冊。
『オックスフォード運河の殺人 (ハヤカワ ポケット ミステリ)』 ['91年]
『オックスフォード運河の殺人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)』 ['96年]
主任警部モースは不摂生が祟り胃潰瘍にため入院生活を余儀なくされるが、たまたま病院で入手した『オックスフォード運河の殺人』という130年前のヴィクトリア朝時代に起きたある殺人事件と裁判に関する郷土史家の研究書を読むことになり、それは、夫に会いに行くためにオックスフォード運河を船旅中のある女性が荒くれ者の船員に殺され運河に投げ込まれたという事件で、裁判により船員2名が絞首刑になっているというものだったが、モースはその記録を読み進むうちに、彼らは無実の罪で処刑されたのではないかと考えるようになる―。
1989年発表のコリン・デクスター(Colin Dexter)による、オックスフォード、テムズ・バレイ警察の主任警部モースを主人公とした「主任警部モース」シリーズの第8作(原題:The Wench is Dead)で、2段組ながら200ページとコンパクトですが、一本筋の運河での事件という状況設定がシンプルな一方で、トリックは巧妙で、なかなか密度が濃く、本格推理として満足できる1冊でした。
"The Wench is Dead" (1989)
刑事や探偵がベッドや安楽椅子で文献のみを頼りに過去の事件を解くというパターンには、ジョセフィン・テイ女史の歴史ミステリの傑作『時の娘』('51年/早川書房)があり、一方こちらは史実を扱ったものではなく『オックスフォード運河の殺人』という研究書自体がコリン・デクスターの創作なのですが(原題"The Wench is Dead"はテイを意識したのかも知れないが、研究書のタイトルをストレートに持ってきた邦題の方がいいかも)、本書も傑作と言えるのでは(著者は本書により、英国推理作家協会(CWA)賞ゴールド・ダガー賞を初受賞)。
『時の娘』の事件の舞台は15世紀で、それに比べると1859年の事件というのは比較的"最近"なのかも知れませんが、それにしても130年も遡って、当時の審判をひっくり返してしまうというのはなかなかのもの。
同じ英国のアリソン・アトリー女史の『時の旅人』('81年/評論社)は16世紀にトリップするタイムトラベル・ファンタジーでしたが、本書での事件の検証場面にもあるように、英国の家って旧いものがよく色々な痕跡を留めているなあと感心しました(130年前の事件の証拠物件を破棄せず、保管しているというのもたいしたもの)。
アイルランドまで墓を掘り返しに行くなど、やや酔狂が過ぎる気もしないでもないですが、これぞモースの探究心が本領発揮されたものとも言え、ラストのアナグラムは、いかにもクロスワードを得意とするモースらしい(デクスターらしい)ものでした。
【1996年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫]】
