【1096】 ○ ジェームズ・アイヴォリー (原作:E・M・フォースター) 「眺めのいい部屋」 (86年/英) (1987/07 シネマテン) ★★★★ (○ ジェームズ・アイヴォリー 「モーリス」 (87年/米) (1988/01 日本ヘラルド)★★★★)

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「●「ロンドン映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「眺めのいい部屋」)「●「ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「眺めのいい部屋」)「●「ヴェネツィア国際映画祭 銀獅子賞」受賞作」の インデックッスへ(「モーリス」)「●「ヴェネツィア国際映画祭 男優賞」受賞作」の インデックッスへ(ジェームズ・ウィルビー/ヒュー・グラント「モーリス」)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(池袋文芸坐2) 「●い カズオ・イシグロ」の インデックッスへ

イギリス映画らしい上品さを保ちつつ、階級間の価値観の対立を抉った「眺めのいい部屋」。

眺めのいい部屋 room_with_view.jpg眺めのいい部屋.jpg モーリス チラシ.jpg ジェームズ・アイヴォリー 「モーリス」.jpg  日の名残り.jpg
「眺めのいい部屋」('86年)チラシ/「眺めのいい部屋 完全版 [DVD]」/「モーリス」('87年)チラシ ヒュー・グラント/ジェームズ・ウィルビー/「日の名残り [DVD]

眺めのいい部屋 A Room with a View.jpg ヒロイン・ルーシー(ヘレナ・ボナム・カーター)は、年配の従姉(マギー・スミス)に付き添われイタリアを旅行する中、フィレンツェの宿で景色の良くない部屋に当たってしまうが、風変わりなエマソン父子と知り合い、眺めいい部屋と交換してもらうことになる。言葉数は少ないが自分の気持ちに正眺めのいい部屋2.jpg直な青年ジョージ・エマソン(ジュリアン・サンズ)はルーシーに恋をし、ピクニック先の草原でルーシーに情熱的なキスをする。従姉によって引き離されるように帰途についたルRoom with a View, A (1986).jpgーシーは、イギリスでの日常生活に戻ると上流階級のインテリのシシル(ダニエル・デイ・ルイス)と婚約をし、彼女にとってジョージとの出来事は旅の思い出に留まるはずだったのが、何とエマソン父子が近所に越してきてしまう―。

 「眺めのいい部屋」('86年/英)は、英国アカデミー賞で作品賞、主演女優(マギー・スミス)、助演女優(ジュディ・デンチ)、衣装デザイン賞、美術の5部門を獲得した作品(ロンドン映画批評家協会賞の作品賞も受賞)。イギリス映画らしい上品さに溢れた映画でありながら、中流に属する女性の恋と結婚を通して、階級間の価値観の対立という構図を抉ってみせています。主人公の婚約者が最上流ということになるのでしょうが、ダニエル・ディ・ルイスがそのスノッブぶりを好演していて、主人公の年配の従姉は上流を気取る中流といったところでしょうか。その年配の従姉を演じるマギー・スミスは、最近はハリー・ポッター・シリーズでお馴染みですが、この頃から今みたいな感じ。一方のヘレナ・ボナム・カーターは、こちらはハリー・ポッター・シリーズに出るようになって魔女づいてすっかりイメージ変わってしまいましたが、彼女の曾祖父は第一次世界大戦開戦時のイギリス首相というマギー・スミス 眺めのいい部屋.jpg「眺めのいい部屋」5.jpgヘレナ・ボナム=カーター ハリー・ポッター.jpg血筋あり、彼女自身ケンブリッジ大学に合格したインテリです。

マギー・スミス in 「眺めのいい部屋」/ヘレナ・ボナム・カーター in 「眺めのいい部屋」「ハリー・ポッターと死の秘宝」

 彼らの対極にいるのが、階級では彼らより下層の自由主義者のエマソン父子で、主人公が、父子の息子への恋を通して、自らを覆っていた欺瞞の皮を1枚ずつ剥いでいく様が、丹念に描かれているように思えました。そんなにストーリー的にインパクトがあるものではないのですが、格調高いセットや衣装と透明感あふれる映像はまさにイギリス映画を見たという感じ、但し、監督のジェームズ・アイヴォリーはアメリカ人、製作のイスマイール・マーチャントはインド人です(米アカデミー賞では脚色賞、衣装賞、美術賞の3部門を受賞)。 

「モーリス」('87年)
Film Stills from Maurice.bmp 原作はE・M・フォースター(1879-1970)の同名小説で、ジェームズ・アイヴォリー監督の作品では、「インドへの道」('84年)、「モーリス」('87年)、「ハワーズ・エンド」('92年)もフォースターの原作ですが、いかにもイギリス映画という感じでありながら、異文化要素が織り込まれており(「モーリス」は、地理的な異文化ではなく、ホモ・セクシュアルという異文化だが)、いずれの作品も複数の文化を相対化する視点のもと、貴族社会(即ち"世俗的なもの")に対する批判や皮肉が込められているように思います(因みに、E・M・フォースター自身ゲイだったそうで、「モーリス」を観ると彼自身がそのことで苦悩したことが窺える)。

 「モーリス」でヒュー・グラントが演じた、ジェームズ・ウィルビー演じる主人公とは対照的な生き方をする若者の演技は絶品でした。人を"その道"に引き摺り込んでおいて、自分は...(ヴェネツィア国際映画祭「銀獅子賞」受賞作。ヒュー・グラントはジェームズ・ウィルビーと共に同映画祭「男優賞」を受賞)。彼が演じた政治家が現実の誰かと重なったのかどうかは知りませんが、この作品は社会問題にもなったそうです。ヒュー・グラントが「フォー・ウェディング」('94年)のようなロマンティック・コメディに出ているのは、「モーリス」のイメージを払拭するためではないかと思ったぐらいです。 

「日の名残り」('93年)
村上春樹 09.jpgRemains of the Day.gif あの村上春樹も「カズオ・イシグロのような同時代作家を持つこと」を幸せだとインタビューで述べている、そのカズオ・イシグロが原作の「日の名残り」('93年)も含め、ジェームズ・アイヴォリー監督の撮る作品にあまりハズレがないように思われ、「眺めのいい部屋」でのダニエル・ディ・ルイスや「モーリス」でのヒュー・グラント、「日の名残り」でのアンソニー・ホプキンスなど、既に良く知られている役者の使い方も、この監督の手にかかるとまた別な味が出てくるという気がします。

 とりわけ、イギリスの名門家に仕えてきた老執事が自分の半生を回想し、仕事のために犠牲にしてしまった愛を確かめる様を描いた「日の名残り」においては、アンソニー・ホプキンスを老執事に配し、その演技の魅力を大いに引き出していたように思います(この執事を見ていると『葉隠』の"忍ぶ羊たちの沈黙 アンソニー・ホプキンスs.jpg恋"を想起させられる)。尤も、アンソニー・ホプキンス(「羊たちの沈黙」('91年/米)でハンニバル・レクターを演じアカデミー賞主演男優賞を受賞した)という俳優は、「台本至上主義」「台本絶対主義」で知られる役者で、撮影に入る前にはもう台本上の役の人物になり切っているそうですが。

アンソニー・ホプキンス in「羊たちの沈黙」('91年/米)

「眺めのいい部屋」.jpg「眺めのいい部屋」●原題:A ROOM WITH A VIEW●制作年:1986年●制作国:イギリス●監督: ジェームズ・アイヴォリー●製作:イスマイール・マーチャント●脚色:ルース・プラヴァー・ジャブヴァーラ●撮影:トニー・眺めのいい部屋 ダニエル・デイ=ルイス.jpgピアース・ロバーツ●音楽:リチャード・ロビンズ●原作:E・M・フォースター●時間:114分●出演:ヘレナ・ボナム・カーター/ジュリアン・サンズ/マギー・スミス/ダニエル・ディ・ルイス/デナム・エリオット●日本公開:1987/07●配給:シネマテン●最初に観た場所:池袋文芸坐2 (88-09-15)(評価:★★★★)●併映:「モーリス」(ジェームズ・アイヴォリー)
文芸坐2-1.jpg文芸坐2 (池袋文芸地下) 1988年に「文芸地下」を「文芸坐2」と名称変更。1997(平成9)年3月6日閉館

モーリス.jpg「モーリス」●原題:MAURICE●制作年:1987年●制作国:アメリカ●監督: ジェームズ・アイヴォリー●製作:イスマイール・マーチャント●脚本:キット・ヘスケス・ハーヴェイ/ジェームズ・アイヴォリー●撮影:ピエール・ロム●音楽:リチャード・ロビンズ●原作:E・M・フォースター●時間:140分●出演:ジェームズ・ウィルビー/ヒュー・グラント/ルパート・グレイヴス/デンホルム・エリオット/サイモン・カロウ●日本公開:1988/01●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:池袋文芸坐2 (88-09-15)(評価:★★★★)●併映:「眺めのいい部屋」(ジェームズ・アイヴォリー)

日の名残り07.jpg「日の名残り」●原題:REMAINS OF THE DAY●制作年:1993年●制作国:イギリス●監督: ジェームズ・アイヴォリー●製作:マイク・ニコルズ/ジョン・キャリー/イスマイール・マーチャント●脚色:ルース・プラヴァー・ジャブヴァーラ●撮影:トニー・ピアース・ロバーツ●音楽:リチャード・ロビンス●原作:カズオ・イシグロ 「日の名残り」●時間:134分●出演:アンソニー・ホプキンズ/エマ・トンプソン/ジェームズ・フォックス/クリストファー・リーヴ/ヒュー・グラント●日本公開:1994/03●配給:コロムビア映画(評価:★★★★)

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