「●あ‐か行の日本映画の監督」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1513】 黒澤 明 「虎の尾を踏む男達」
「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●日本のTVドラマ」の インデックッスへ
振り切ってきた過去へのノスタルジーに満ちた「祭りの準備」。大谷直子が鮮烈な「肉弾」。

「祭りの準備 [DVD]」(監督:黒木和雄) 「肉弾 [DVD]
」 (監督:岡本喜八)

「祭りの準備」('75年/ATG)は、昭和30年代の高知を舞台に、1人の青年がしがらみの多い土地の人間関係に圧迫されながらも巣立っていく姿を描いた青春映画で、主人公(江藤潤)が信用金庫に勤めながらシナリオライターになることを夢見ていることからも窺えるように、原作は中島丈博の自伝的小説であり、監督は'06年に亡くなった黒木和雄です。
「青春映画」とは言え青春の真只中でこの作品を観ると、あまりにどろどろしていて結構キツいのではないかという気もしましたが、このどろどろ感が中島丈博の脚本の特色とも言えます。
黒木和雄(1930‐2006/享年75)/中島丈博
父親(ハナ肇)は女狂い、祖父(浜村純)はボケ老人、母親(馬渕晴子)は主人公の青年を溺愛し、彼は二十歳にしてそこから逃れられないでいて、心の恋人(竹下景子)も片思いの対象でしかなく、結局、男達の性欲の捌け口となっている狂った女(桂木梨江)と寝てしてしまうが、その女が妊娠したらしいことがわかる―。
青年がシナリオを書くとセックス描写が頻出し、左翼かぶれの"心の恋人"に「労働者階級をもっときちんと描くべきで、どうしてセックスのことばかり書くの」となじられる始末。そのくせ、彼女はオルグの男性にフラれると、宿直中の青年に夜這いして来て、そこで小火(ボヤ)事件が起きてしまうという、青年同様に彼女自身、青春の混沌の中でちょっと取りとめが無い状態になっています。
こんな状況から脱したいという青年の気持ちがよく分かり、その旅立ちを駅のホームで万歳して見送るのが、泥棒一家の次男で殺人の容疑をかけられ逃亡の身であるの男で(原田芳雄、いい味出している。自分がこの俳優を渋いなあと最初に思ったのは映画ではなく、テレビで観た「冬物語」('72年~'73年/日本テレビ)というメロドラマだった。恋人役は浅丘ルリ子、ふられ役は大原麗子)、創作の要素はあるとは言え、この映画には原作者が過去に振り切ってきた諸々に対するノスタルジーが詰まっている感じがします(東京への"脱出"行を果たした江藤潤と、それが出来ないでいる原田芳雄という対比構造になっている)。
竹下景子(1953年生まれ、当時22歳)の映画デビュー2作目(主演級は初)で、この作品はそのヌードシーンで話題になることがありますが、主人公の青年に夜這いした際の下着姿と引き続く火事の炎の向こうにチラッと見える全裸姿程度で(この頃の彼女は結構コロコロ体型だった)、この後清純派で売り出し、"お嫁さんにしたい女性No.1"などと言われたために、このシーンの付加価値が出たのでしょうか。
デビュー時乃至デビュー間もない頃のヌードという点では、「高校生ブルース」('70年/大映)の関根(高橋)惠子(1955年生まれ、当時15歳)、「旅の重さ」('72年/松竹)の高橋洋子(1953年生まれ、当時19歳)、「十六歳の戦争」('73年制作/'76年公開)の秋吉久美子(1954年生まれ、当時19歳)、「はつ恋」('75年/東宝)の仁科明子(亜季子)(1953年生まれ、当時22歳)などがありますが、個人的には、'05年に亡くなった岡本喜八監督の「肉弾」('68年/ATG)の大谷直子(1950年生まれ、当時17歳)が鮮烈でした。

この「肉弾」という作品は、特攻隊員(寺田農)を主人公に据え、戦争の悲劇というテーマを扱っていながら、コミカルで悲壮感を(一応は)表に出していないという変わった映画で、映画自体は、太平洋に漂流するドラム岳の中で魚雷を抱えている主人公の回想という形で進行し、主人公が1日だけの外出許可日に古本屋に行くつもりが思わず女郎屋に駆け込んでしまい、そこにいたセーラー服姿の肥溜めに咲いた一輪の白百合のような少女と防空壕の中で結ばれるという、その少女の役が映画初出演の大谷直子でした。
彼女が全裸で土砂降りの雨の中を走るシーンは衝撃的で、モノクロ映画ゆえに却ってその美しさは印象に残りましたが(結構グラマラスでもあるが、タイトルの肉弾という言葉は、「肉体によって銃弾の様に敵陣に飛び込む攻撃」のことを指し、彼女のことを指すのではない)、かの特攻隊員は、そこで初めて自らが守るべきものを見出し、空襲で彼女が犠牲になったことで復讐心から戦闘意欲に燃え、魚雷と共に太平洋に出るという―これ、岡本喜八ならではのアイロニーなのですが、笑えるようでやっぱり笑えないなあ。(岡本喜八(1924- 2005/享年81))



「祭りの準備」●制作年:1975年●監督:黒木和雄●製作:大塚和/三浦波夫●脚本:中島丈博●撮影:鈴木達夫●音楽:松村禎三●原作:中島丈博●時間:117分●出演:江藤潤/馬渕晴子/ハナ肇/浜村純/竹下景子/原田芳雄//杉本美樹/桂木梨江●公開:1975/11●配給:ATG●最初に観た場所:飯田橋ギンレイホール(78-07-25)(評価:★★★☆)●併映:「サード」(東陽一)
「肉弾」●制作年:1968年●監督・脚本:岡本喜八●撮影:村井博●音楽:佐藤勝●時間:116分●出演:寺田農/大谷直子/天本英世/笠智衆/北林谷栄●公開:1968/10●配給:ATG●最初に観た場所:有楽町・日劇文化(80-07-05)(評価:★★★)●併映:「人間蒸発」(今村昌平)

「冬物語」●演出:石橋冠●制作:銭谷功/早川恒夫●脚本:清水邦夫●音楽:坂田晃一●出演:浅丘ルリ子/原田芳雄/津川雅彦/扇千景/大原麗子/高松英郎/原田大二郎/宝生あや子/南美江/荒谷公之/鳥居恵子●放映:1972/11~1973/04(全20回)●放送局:日本テレビ


原田芳雄 2011年7月19日、肺炎のため死去(満71歳没)