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「目からウロコ」と言うより、もやっと感じていたものをスッキリと表現したという感じ。
『パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本 (アスキー新書)』['08年] 海部 美知 氏(帯の写真は梅田望夫氏と池田信夫氏)
「日本人は海外に行きたくなくなったし、海外のことに興味がなくなった」のではというのは、確かに言えているかも。
本田技研に総合職一期生として就職後、米国に留学し、現在シリコンバレーで通信・IT事業に関するコンサルタントをしている著者は、こうした「自国が住みやすくなりすぎ、外国のことに興味を持つ必要がなくなってしまった状態」を「パラダイス鎖国」と呼び、これは個人レベルに止まらず、産業レベル、例えば自らが携わった携帯端末事業などにおいても、ほどほどに大きい日本市場に安住して囲い込み競争を続けているうちに世界市場にとり残されることになったような状況が見られるとしています。
著者は、'05年の日本での夏休みの後、米国に戻った際に、日本人は「誰も強制していないけれど、住み心地のいい自国に自発的に閉じこもる」ようになったのではないかと感じ、そのことを自らのブログ「Tech Mom from Silicon Valley」に綴った際に用いた言葉が、この「パラダイス鎖国」。
これが、翌年「月刊アスキー」編集部の目にとまり、更に2年を経て、新書として刊行されることになったという点では「ブログ本」だとも言えますが、「パラダイス鎖国を、国家とか全産業とかのレベルでどうすべきだ、なんぞという大きな話は私にはよくわからない」とブログで述べていた当初に比べると、本書では「パラダイス鎖国・産業編」という章を設け、産業統計を用いて自己の考えを検証するなどし、「ブログ本」によく見られるブログ記事を引き写しただけのような安直さ、読みにくさはありませんでした。
著者は自らのブログで、携帯端末に関して日本の企業は、いかに大きいといっても日本市場しか相手にしておらず、特に日本ではメーカーの数が多すぎて世界で売っているメーカーと比べてスケールも違いすぎ、一方海外の安い端末は日本のあまりに進んだ市場に合わず、そのため日本で普及している製品は皆コスト高となっている、こうした状況がユーザーに割高な使用料を強いていることを指摘していましたが、すでに料金システムの見直しや端末メーカーの撤退が始まっている...。
こうした著者の経験分野に近いところの話は(ブログと内容は重複するものの)シズル感を持って読むことができましたが、統計数字を用いた貿易収支の話などは、経済白書を読まされているような印象も。
「パラダイス鎖国」を脱するための問題解決の提言が抽象レベルに止まっているのもやや不満で、最後は、まだキャリアの入り口にいるような人に向けての"もっと視野を拡げよう"的「啓蒙書」になった感じ。
但し、そのことを割り引いても、個人の意識レベルの問題と産業レベルの問題を「パラダイス鎖国」という概念で貫いて示した点は評価できると思いました(「目からウロコ」と言うより、もやっと感じていたものをスッキリと表現したという感じ)。
個人的には、「HEROES/ヒーローズ」のマシ・オカ演ずるヒロ・ナカムラの描き方について、「日本人の記号」を装飾しているが、中身は「普通の人」として描かれているとし、「パラダイス鎖国」の裏側で、アメリカ人から見た日本人の姿もまた変化してきているとしている点などはナルホドと思わされました(但し、ヒロ・ナカムラ像は、英語を母国語としながらも、流暢な日本語とブロークンの英語を操るマシ・オカこと岡政偉(おか まさのり)の異才に依るところ大のように思う。彼は頑張っているのだが、ドラマ自体は、共同脚本の常でストーリーが破綻気味であり、観ているうちにだんだん訳がわからなくなってきた)。
「HEROES」HEROES (NBC 2006~2010) ○日本での放映チャネル:スーパー!ドラマTV(2007/10~2011/10)/日本テレビ