【1347】 ◎ 吉村 昭 『漂流 (1976/05 新潮社) ★★★★☆

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生存をかけた知恵と脱出を果たしたリーダーシップ。「LOST」顔負け。"アナタハン"とは大違い。

漂流 1976.jpg漂流 (1976年)』 漂流 新潮文庫.jpg 『漂流 (新潮文庫)
「無人島長平」の像   「鳥島」遠景 
無人島長平.jpg伊豆鳥島遠景.jpg 江戸・天明年間(1785年)、土佐の水主(船乗り)長平は、乗っていた船の難破により室戸岬沖から遠く流され、同じ船の乗組員仲間2人と共に絶海の孤島に辿り着くが、その島は水も沸かない火山島で、見たことも無い巨鳥の大群のみが棲息する無人の島だった―。

 現在の日本の東南端・鳥島に漂着して12年もそこで暮らし、苦難の末に故郷に帰還した野村長平、通称「無人島長平」を描いたドキュメンタリー小説ですが、漂流モノの面白さが堪能でき、一気に読めました。

アホウドリ.gif いやあ、それにしても、凄い生命力! そして、生きるための知恵! 彼らが初めて見た巨鳥とはアホウドリだったわけですが、飲料水はその卵の殻で雨水を受けて貯めておけばよく、食糧は鳥を捕食すれば困らない―と思いきや、この鳥が渡り鳥であることに長平は気づき、大急ぎで渡りの始まる前に、捕えた鳥の干物を作り食糧備蓄に励む、そうした長平の機知と努力にも関わらず、一緒に流れ着いた乗組員仲間2人はやがて死に、長平1人になってしまいます。

 しかし、その後大阪船が、更に薩摩船が島に漂着し、無人島生活者は十数名に増え、彼らは長平の経験とリーダーシップのもと、島での生活を生き延び、更に島からの脱出に向けて船造りを始める―。
 長平も偉いけれども、長平の経験を尊重し、彼をリーダーとして立てた大阪船、薩摩船の2人の船頭もなかなかの人物であると思いました。

ロスト ドラマ.jpglost5.jpg 漂流モノは、海外ドラマでも「LOST」という人気シリーズがありますが、あっちはミステリー的要素が強く、更に人間関係を描くことがメインになっている感じで、この小説の方がストレートに無人島生活の厳しさが伝わってきます。
 木も生えない島で、流木から船を造り、脱出を図るという、日本人っぽくないと言ってもいいかも知れない長平の"積極思考""能動性"がまた素晴らしく、やはり長平というのは、知恵もリーダーシップも傑出した人物だったように思われます(「LOST」の登場人物たちはどうして船を作らないのだろうか。材料が無いというのが説明理由になっているようだが、長平の流された島とは比較にならないくらい木が繁っているのに)。

「LOST」LOST (ABC 2004/09~2010) ○日本での放映チャネル:AXN(2005~2011)/BS-i

アナタハン島漂流者救出の模様 (生存者20名/32名中)
アナタハン.jpg 小説の冒頭に無人島漂着者の記録の1つとして、太平洋戦争中にあった「アナタハン島事件」という、比嘉和子という名の女性1人を含む33名の漂流者の無人島生活とその救出の記録が紹介されていますが、これなどは、その女性を巡って、男性達の間で公然と殺し合いが行われたという暗い側面を持つ事件で、「無人島長平」の話と比べると、ちょうどジュール・ヴェルヌ『十五少年漂流記』と、その70年後に書かれたウィリアム・ゴールディングの『蝿の王』(原作は読んでないが映画で観た。映画の出来はイマイチ)との明暗関係に似ている気がしました。

アナタハン ポスター.jpg また、アナタハン島事件については、事実を基に比嘉和子自身が主演した「アナタハン島の眞相はこれだ!!」('53年/新大都映画)という映画があり、「モロッコ」の名匠ジョセフ・フォン・スタンバーグ監督も、根岸明美主演で映画「アナタハン(The Saga of Anatahan)」('53年/東宝)を撮っています(「アナタハン」(1953)ポスター)。
 更に最近では、桐野夏生氏が、この事件をモチーフに現代小説に翻案した『東京島』('08年/新潮社)を書いています。

 「アナタハン島事件」も「無人島長平」の話も実際にあったことであり、その時間差は約160年。江戸時代の人の方が賢かったということか。

 【1980年文庫化〔新潮文庫〕】

映画「アナタハン」.jpg 映画「アナタハン」2.jpg
 映画「アナタハン」主演の根岸明美と映画の一場面

               



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和田泰明

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This page contains a single entry by wada published on 2010年3月20日 01:06.

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