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ミステリとして瑕疵は多いが、設定のユニークさと人間ドラマとしての旨さがある。
『凍える牙 (新潮ミステリー倶楽部)』 『凍える牙
』
『凍える牙 (新潮文庫)』 ['00年]
テレビ朝日系 2010年1月30日放映 「凍える牙」
1996(平成8)年上半期・第115回「直木賞」受賞作。
立川市のファミレスで起きた、男性客の体が突然燃え上がって焼死し、男性には時限発火装置が仕掛けられていて、大型犬のような動物による噛み傷あったという事件の捜査に、"バツイチ"女性刑事・音道貴子はたたき上げの刑事・滝沢保と共に臨むが、滝沢は女性と組まされた不満から貴子に辛く当たる―。
'10年1月にテレビ朝日系列で、音道貴子役・木村佳乃、滝沢保役・橋爪功で放映されましたが、直木賞作品でありながら、犬に演技させるのが難しいために長らく映像化されなかったのかなと思っていたら、すでに'01年にNHKで天海祐希主演でドラマ化されていた...。
原作は、犯人の動機やそうした犯行トリックを選んだ理由の脆弱さなど、ミステリとしては瑕疵が多いとも思われますが、何よりも、都会の真ん中で人が次々と野犬のような動物に襲われて亡くなるという設定そのものが、ユニークでインパクトあります(強いて言えば、アーサー・コナン・ドイルの『バスカヴィル家の犬』の「日本版」乃至「都会版」といったところか)。
しかも、女性刑事とベテラン男性刑事が、コンビで捜査に当たる間ずっと折り合いが悪かったのが、事件の経過と共にその関係が少しずつ変わって行く様が、個々が抱える背景も含めた人間ドラマとして旨く描けているように思います。
終盤は、疾風(はやて)という名の"オオカミ犬"にスポットが当てられ、主人公の音道貴子が疾風に感情移入していくのと併せて、読者をもそれに巻き込んでいき、犯人は結局何のためにこうした犯行を犯したのかという、結果から逆算すると虚しさが残るはずのプロットであるにも関わらず、感動ストーリーに仕上がっています(実際、作者の巧みな筆捌きにノセられ、自分も感動した)。
テレビ朝日版のドラマでは、木村佳乃、橋爪功ともに悪くない演技で、特に橋爪功はベテランの味を出していたような気がします(原作とはイメージが異なるが)。
それよりも驚いたのは、犬がちゃんと"演技"していたことで、でも考えてみれば犬が"演技"するはずはないわけであって、演技とは観客の感情移入で成立するものだということを思い知らされました。
このドラマの"犬"が登場する場面で用いられているモンタージュ手法が巧妙なのか、それとも、もともと見る側に動物に感情移入し擬人化しがちな素因があるのか...?
「女刑事 凍える牙」●演出:藤田明二●制作:河瀬光/横塚孝弘/藤本一彦●脚本:佐伯俊道●音楽:鈴木ヤスヨシ●原作:乃南アサ「凍える牙」●出演:木村佳乃/橋爪功/小野武彦/布施博/平山浩行/内藤剛志/津川雅彦/金田明夫/勝野洋/前田健●放映:2010/01(全1回)●放送局:テレビ朝日
【1996年単行本・2007年新装版[新潮社]/2000年文庫化[新潮文庫]】
