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"昭和の脱獄王"の怪物的な能力、粘着気質的な意志の強さと、"律儀さ"との組み合わせが興味深い。「プリズン・ブレイク」顔負け。
『破獄 (新潮文庫)』['86年]
「プリズン・ブレイク」
1984(昭和59)年・第36回「読売文学賞」並びに1985(昭和60)年・第35回「芸術選奨」受賞作。
昭和11年に青森刑務所を脱獄、昭和17年に秋田刑務所を脱獄、昭和19年に網走刑務所脱獄、昭和23年に札幌刑務所脱獄と、犯罪史上未曽有の4度の脱獄を実行した無期刑囚"佐久間清太郎"(仮名)を描いた「記録文学」。
脱獄を繰り返す男のモデルとなっているのは、"昭和の脱獄王"と言われた白鳥由栄(しらとり・よしえ、1907‐1979)で、作者は、刑務所で白鳥由栄と深く接した元看守らを綿密に取材しており、実質的には実在の超人的脱獄囚を描いた「記録文学」と言っていいのでは。
網走監獄博物館にある、白鳥の脱獄シーンを再現
とりわけ脱獄不可能と言われた網走刑務所において脱獄を果たす様は、既に2回の脱獄により天才脱獄囚人として特別に厳重な監視下に置かれながらのことでもあり、まさに驚異的と言ってよく、「網走監獄博物館」には、白鳥由栄の脱獄の模様を再現した展示まであります。
口に含んだ味噌汁で特製手錠のナットを腐蝕させて外すなどのテクニック自体の凄さもさることながら、看守に心理戦を仕掛けて重圧をかけたり、その注意を欺いたりする人間的な駆け引きにも卓抜したものがあったことがわかります。
脱獄譚と言えば、米テレビドラマシリーズ「プリズン・ブレイク」の実話版みたいだけど、「プリズン・ブレイク」の方は、最初の13話の脱獄を果たしたところで終わる予定だったものが(ここまでは面白い!)、好評だったため第1シーズンだけでも脚本を書き足して22話にし、その後もだらだら続けていったために、どんどんつまらなくなっていきましたが、こっちの白鳥由栄モデルの実話版は、最後まで緊張感が途切れず気が抜けません。まさに、"昭和の脱獄王"だけあって、「プリズン・ブレイク」顔負け。
網走刑務所での話あたりから、看守側の置かれている過酷な労働環境や、大戦末期当時、或いは終戦直後の混乱した世相なども併せて描かれており、"佐久間"に脱獄を許してしまった看守らからすれば、必ずしも落ち度があったとかタルんでいたとか言えるものでもなく、脱獄を図る"佐久間"と看守との間で、知力と精神力の限りを尽くしたぎりぎりの攻防があったことが分かります。
そうした看守らの中には、"佐久間"を1人の人間として扱った人もいて、"佐久間"はもともと情に厚い人柄であり、恩を受けた看守に対しては忠義の心を忘れなかったようです。
身体能力も含めた怪物的な脱獄能力(湾曲した壁を這い登ることが出来た)、粘着気質的な脱獄意志の強さ(自分に辛く当たった看守が当番の日をわざわざ選んで脱獄した)と、こうした"律儀さ"との組み合わせが興味深いです。
最後の収監先となった府中刑務所においては、刑務所長・鈴江圭三郎自らが、"佐久間"を人間的に扱う施策を"戦略的"に講じ、その結果、"佐久間"は脱獄を企図することをやめていますが、これってまるで、イソップの「北風と太陽」みたいだなあと。
但し、その施策を評価されながらも、鈴江自身は、"佐久間"が再び脱獄を図ることが無かったのは彼の加齢に原因があると冷静に分析しており、また、作品としては、刑務所そのものの待遇等の改善、更には、社会における刑務所の位置づけの変化なども遠因として匂わせています。
この作品は、緒形拳(佐久間清太郎)、津川雅彦(鈴江圭三郎)主演で'85年にNHKでドラマ化されており、また、白鳥由栄をモデルにした他の小説では、船山馨『破獄者』、八木義徳『脱獄者』どがあります。

「プリズン・ブレイク」 Prison Break (FOX 2005/08~2009/05) ○日本での放映チャネル:FOX/日本テレビ(2006~2010)
「プリズン・ブレイク シーズン1 (SEASONSコンパクト・ボックス) [DVD]」
【1986年文庫化(新潮文庫)】
